韓国の多目的研究炉:HANARO

韓国の多目的研究炉:HANARO

電力を見直したい

『HANARO』って原子炉の名前みたいだけど、どんな特徴がある原子炉なの?

電力の研究家

良い質問だね。『HANARO』は韓国にある研究炉で、1995年から動いているんだ。特徴としては、たくさんの熱中性子を生み出すことができる原子炉なんだよ。

電力を見直したい

熱中性子が多いと何かいいことがあるの?

電力の研究家

熱中性子は医療用の放射性物質の生産や、材料の研究など、様々な分野で利用されているんだ。熱中性子が多いということは、それだけ多くのことができる強力な原子炉ということになるね。

HANAROとは。

「HANARO」は、1995年2月に初めて核分裂反応を起こした、韓国原子力研究所にある原子力発電に関する研究炉の名前です。この炉は、熱出力30MWで、1平方センチメートルあたり毎秒2〜3×10の14乗個という、たくさんの熱中性子を作り出すことができます。原子炉の構造は、燃料を囲むプール型の容器の中に、低濃縮ウラン燃料棒を沈めて使うようになっています。HANAROは、医療や工業で使う放射性物質の生産、中性子ビームを使った分析、中性子ラジオグラフィ、中性子放射化分析など、様々な用途に利用されています。さらに、がんの治療法であるホウ素中性子捕捉療法にも利用でき、冷中性子源施設も備えています。炉の中心部と、周りを囲む反射体と呼ばれる部分には、放射性物質を作るための照射孔が全部で22本あります。そのうち4本はカプセル照射用、17本は放射性物質生産用に使われます。残りの1本は、水圧を使って試料を搬送するシステムを備えた照射孔です。(図1)

HANAROの概要

HANAROの概要

– HANAROの概要HANARO(High-flux Advanced Application Reactor)は、1995年2月に韓国の原子力研究の中枢機関である韓国原子力研究所(KAERI)に建設された多目的研究炉です。「研究炉」とは、原子力の平和利用を目的とした研究開発のために設計された原子炉のことを指します。HANAROは、その名の通り、高い熱中性子束密度を誇り、様々な研究分野に利用されています。HANAROの熱出力は30MWで、これは都市部に電力を供給するような大型原子力発電所と比べると小規模です。しかし、研究炉としてのHANAROの真価は、その高い熱中性子束密度にあります。最大で2〜3×10¹⁴n/cm²・sに達するこの数値は、物質の性質や構造を原子レベルで詳細に調べることを可能にする、非常に強力なツールと言えます。HANAROは、この高い熱中性子束密度を活かして、幅広い分野の研究開発に貢献しています。具体的には、新しい材料の開発や評価を行う材料科学分野、原子炉で使用する燃料や材料の耐久性を調べる照射試験、医療や工業分野で利用される放射性同位元素の製造、そして物質の構造や性質を解明するための中性子ビーム利用などが挙げられます。このように、HANAROは韓国における原子力研究の要として、多岐にわたる分野の進歩を支えています。

項目 内容
名称 HANARO(High-flux Advanced Application Reactor)
目的 原子力の平和利用を目的とした研究開発
設置場所 韓国原子力研究所(KAERI)
設置年 1995年2月
特徴 高い熱中性子束密度(最大で2〜3×10¹⁴n/cm²・s)
熱出力 30MW(研究炉としては標準的)
主な用途
  • 材料科学分野:新材料の開発や評価
  • 照射試験:原子炉用燃料・材料の耐久性調査
  • 放射性同位元素製造:医療・工業分野への応用
  • 中性子ビーム利用:物質の構造・性質解明

原子炉の型式と燃料

原子炉の型式と燃料

– 原子炉の型式と燃料原子炉は、その構造や使用する燃料によって様々な型式に分類されます。韓国原子力研究院が保有するHANAROは、「オープン・プールのタンク型炉」と呼ばれる型式に分類されます。この「タンク型」という言葉は、原子炉の心臓部である炉心が、水で満たされた巨大なプールのようなタンクの中に設置されている構造を持つことを表しています。このタンクは、原子炉の運転に必要な冷却水と、中性子の減速材を兼ねており、炉心で発生する熱を効率的に吸収する役割を担っています。一方、「オープン・プール」とは、このタンクの上部が開口していることを示しています。これは、従来の原子炉のように、原子炉全体を巨大な格納容器で覆う必要がないことを意味します。オープン・プール型は、タンク上部が開いているため、炉心へのアクセスが容易であることが大きな利点です。HANAROの場合も、この構造により、実験設備の設置や燃料交換などの作業を比較的容易に行うことが可能となっています。燃料には、ウランを濃縮した燃料棒を使用しています。濃縮度は低く抑えられており、これは世界の研究炉において標準的なものです。HANAROは、この燃料を用いることで、高い安全性を保ちながら、様々な研究開発に必要な中性子を安定的に供給しています。

項目 内容
原子炉の型式 オープン・プールのタンク型炉
炉心の構造 水で満たされた巨大なプールのようなタンクの中に設置
タンクの役割 冷却水と中性子の減速材を兼ねる、炉心で発生する熱を効率的に吸収
オープン・プール型の特徴 タンク上部が開口、原子炉全体を巨大な格納容器で覆う必要がない
オープン・プール型の利点 炉心へのアクセスが容易、実験設備の設置や燃料交換などの作業が容易
燃料 ウランを濃縮した燃料棒(濃縮度は低く、世界の研究炉において標準的)

多様な照射能力

多様な照射能力

研究炉ハナロは、その多様な照射能力を活かし、材料科学、医療、産業など幅広い分野に貢献しています。ハナロの大きな特徴の一つは、炉心と反射体領域に合計22本もの照射孔を備えていることです。これは、様々な大きさや形状の試料を、目的に応じた中性子束で照射できることを意味します。

22本の照射孔のうち、4本はカプセル照射用、17本は放射性同位元素(RI)生産用として使用されます。カプセル照射では、試料をカプセルに封入して照射することで、高温・高圧などの過酷な環境下での材料の挙動を調べることができます。RI生産では、安定同位体を中性子照射することによって、医療診断や治療に用いられるRIを製造しています。

残りの1本の照射孔には、水圧移送システム(HTS)が装備されています。HTSは、試料を短時間で照射位置に搬送できるため、半減期の短いRIの製造に適しています。このように、ハナロは多様な照射能力を活かすことで、様々なニーズに対応した研究開発を支えています。

照射孔の種類 用途 特徴
カプセル照射用 (4本) 高温・高圧環境下の材料挙動調査 試料をカプセルに封入
RI生産用 (17本) 医療診断・治療用RIの製造 安定同位体を中性子照射
水圧移送システム (HTS) (1本) 短半減期RIの製造 試料の高速搬送が可能

医療分野への貢献

医療分野への貢献

– 医療分野への貢献

韓国原子力研究院が保有するハナロは、医療分野においても人々の健康と福祉に大きく貢献しています。特に重要な役割を担っているのが、診断や治療に欠かせない医療用放射性同位元素(RI)の製造です。ハナロは国内の医療機関に対して、高品質な医療用RIを安定的に供給することで、様々な疾患の早期発見や適切な治療の実施を支えています。

さらにハナロは、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)と呼ばれる、がん治療の研究開発においても重要な役割を担っています。BNCTは、がん細胞を選択的に破壊する新しい治療法として期待されており、ハナロの持つ高い熱中性子束は、このBNCTの研究開発を大きく前進させる可能性を秘めているのです。

このように、ハナロは医療分野においても多大な貢献をしています。医療用RIの安定供給、そしてBNCTのような革新的な治療法の開発を通じて、ハナロは国民の健康と福祉の向上に貢献し続けていくでしょう。

分野 内容 貢献
医療用放射性同位元素(RI)製造 国内の医療機関に対して、高品質な医療用RIを安定的に供給 様々な疾患の早期発見や適切な治療の実施を支援
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)研究開発 がん細胞を選択的に破壊する新しい治療法 BNCTの研究開発を大きく前進させる可能性

産業利用と今後の展望

産業利用と今後の展望

– 産業利用と今後の展望韓国原子力研究院が保有する多目的研究炉「HANARO」は、学術的な研究だけでなく、様々な産業分野にも貢献しています。その中でも特に注目されているのが、非破壊検査や材料分析といった分野です。HANAROの特徴である強力な中性子ビームを利用した「中性子ラジオグラフィ」は、従来のX線では透過できなかった物質内部の微細な欠陥を、画像として鮮明に映し出すことを可能にしました。この技術は、航空機や自動車のエンジン部品、原子力発電所の構造材など、高い安全性が求められる製品の検査に活用され、製品の信頼性向上に大きく役立っています。また、「中性子放射化分析」と呼ばれる技術も、HANAROの産業利用において重要な役割を担っています。これは、対象となる試料に中性子を照射し、その際に生じる放射線を測定することで、試料に含まれる元素の種類や量を正確に分析する技術です。微量な元素も高感度で検出できるため、環境中の汚染物質の測定や、食品中の微量元素分析など、幅広い分野で応用されています。このように、HANAROは基礎科学の発展だけでなく、私たちの生活に密接に関わる様々な産業分野の発展にも大きく貢献しています。今後も、医療分野における放射性同位元素の製造や、次世代原子炉の開発など、更なる活躍が期待されています。 HANAROは、韓国における科学技術の発展を支える重要な研究施設として、その役割をますます拡大していくことでしょう。

技術 説明 用途例
中性子ラジオグラフィ 強力な中性子ビームを利用し、物質内部の微細な欠陥を画像化 航空機や自動車のエンジン部品、原子力発電所の構造材の検査
中性子放射化分析 試料に中性子を照射し、発生する放射線から元素の種類や量を分析 環境中の汚染物質の測定、食品中の微量元素分析