原子力発電の安全装置:希ガスホールドアップ装置
電力を見直したい
『希ガスホールドアップ装置』って、原子炉から出る放射線を弱める装置のことですよね?
電力の研究家
そうだね。より正確には、原子炉から出る気体の中に含まれる放射線を出す気体、『希ガス』を弱める装置だよ。
電力を見直したい
放射線を弱めるんじゃなくて、気体を弱めるってことですか?
電力の研究家
そう。『希ガスホールドアップ装置』には活性炭が入っていて、放射線を出す気体をしばらくの間、閉じ込めておくことができるんだ。そうすると、その間に放射線の力が弱まっていくんだよ。
希ガスホールドアップ装置とは。
「希ガスホールドアップ装置」は、原子力発電所、特に沸騰水型原子炉(BWR)で使われている装置のことです。この装置は、原子炉から出るガスに含まれる放射性物質の「希ガス」を減らす役割を担っています。
原子炉から出るガスには、クリプトン(Kr)やキセノン(Xe)といった放射性物質が含まれています。これらのガスは、放射線を出すため、人体に影響を与える可能性があります。特に、クリプトン85とキセノン133は、比較的長い期間にわたって放射線を出し続けるため、注意が必要です。
希ガスホールドアップ装置には、活性炭を詰めた筒(チャコールベッド)が入っています。原子炉から出たガスは、この筒の中を通ります。ガスに含まれる空気はそのまま通り抜けますが、クリプトンやキセノンは活性炭にくっついたり離れたりを繰り返しながら進むため、筒の中を移動するのに時間がかかります。このため、ガスが煙突から外に出るまでの時間が長くなり、その間にクリプトンやキセノンの放射線の強さが弱まります。
例えば、キセノンが筒の中を40日間かけて通るように設計すると、煙突から出る時の放射線の強さは100分の1程度になります。実際の原子力発電所では、キセノンを18日間、クリプトンを24日間、あるいはキセノンを27日間、クリプトンを40日間かけて筒の中を通過させるように設計されています。日本の沸騰水型原子炉では、すべての原子炉に、この希ガスホールドアップ装置が設置されています。
放射性物質の放出を抑える仕組み
原子力発電所では、発電の過程で微量の放射性物質が発生します。これらの物質は、人体や環境への影響を抑えるため、厳重に管理され、放出量も法令で厳しく制限されています。
放射性物質の中でも、希ガスと呼ばれる物質は、化学的に安定しているため、他の物質と結合しにくく、環境中に放出される可能性があります。希ガスには、クリプトンやキセノンなどがあります。これらの希ガスは、ウラン燃料の核分裂によって発生し、原子炉の中で冷却材や減速材として使われる水やガスの中にわずかに溶け込みます。
希ガスホールドアップ装置は、原子炉から発生するガス中の放射性希ガスの放出を抑制するために設置されている重要な安全装置です。この装置は、活性炭を用いて希ガスを吸着したり、ガスを一定期間貯蔵して放射能の減衰を促したりすることで、環境への放出量を大幅に低減します。
このように、原子力発電所では、様々な安全装置や対策を講じることで、放射性物質の放出を最小限に抑え、人々の健康と安全、そして環境を守っています。
放射性物質 | 特徴 | 管理方法 |
---|---|---|
希ガス (クリプトン、キセノンなど) | – 化学的に安定 – ウラン燃料の核分裂で発生 – 冷却材や減速材に溶け込む |
希ガスホールドアップ装置 – 活性炭による吸着 – 一定期間貯蔵による放射能減衰 |
活性炭の吸着力を活用
原子力発電所から発生する気体状の放射性廃棄物には、キセノンやクリプトンといった希ガスも含まれています。これらの希ガスは化学的に安定しているため、他の物質と反応しにくく、従来の方法で除去するのが困難でした。そこで、希ガスの吸着に有効な物質として活性炭が注目されています。
活性炭は、木炭や石炭などを高温で処理することで作られる、多孔質な炭素の塊です。顕微鏡で見ると、活性炭の表面には無数の小さな穴が開いていることがわかります。この微細な穴の壁に、希ガスを含む様々な物質が吸着されるため、活性炭は高い吸着能力を持つのです。
原子力発電所では、この活性炭の性質を利用した「希ガスホールドアップ装置」が用いられています。この装置は、内部に充填された活性炭の層に原子炉からの排ガスを通過させることで、放射性希ガスを吸着し、大気中への放出を遅らせる仕組みになっています。活性炭に吸着された希ガスは、時間の経過とともに一部が放出されますが、再び活性炭に吸着されることを繰り返しながら、装置内をゆっくりと移動します。
この間に放射性物質の崩壊が進むため、結果として環境中への放出量を大幅に減らすことができるのです。
対象物質 | 特徴 | 原子力発電所での利用方法 | 効果 |
---|---|---|---|
キセノン、クリプトン (希ガス) |
化学的に安定しており、除去が困難 | 活性炭を充填した「希ガスホールドアップ装置」で吸着 | 大気中への放出を遅らせ、放射性物質の崩壊を待つことで、環境中への放出量を大幅に削減 |
活性炭 | 多孔質で、表面に多数の微細な穴があり、高い吸着能力を持つ |
時間稼ぎによる放射能の減衰
原子力発電所からは、運転に伴い、放射能を持つ希ガスと呼ばれる気体が発生します。これらの気体は、環境中に放出される前に、その放射能のレベルを十分に低減させる必要があります。そのために用いられるのが、希ガスホールドアップ装置です。この装置は、活性炭の優れた吸着能力を利用して、希ガスを一定期間装置内に閉じ込めておくことで、放射能の減衰を促進させることを目的としています。
放射性物質は、時間経過とともに放射線を放出しながら、安定した原子核へと変化していきます。これを放射性崩壊と呼びます。放射性物質の種類によって、この崩壊の速さは異なり、それぞれの物質に固有の半減期という値で表されます。半減期とは、放射能が半分に減衰するまでの時間を指します。
希ガスホールドアップ装置では、この放射性崩壊の性質を利用しています。装置内に希ガスを閉じ込めておくことで、自然と放射性崩壊が進み、放射能のレベルが低下していくのを待ちます。装置内の滞留時間は、対象となる希ガスの種類や装置の設計によって、数日から数十日程度と調整されます。
このように、希ガスホールドアップ装置は、活性炭による吸着と放射性崩壊の組み合わせにより、追加のエネルギーを使用することなく、環境への放射性物質の放出量を効果的に抑制しています。
装置名 | 目的 | 仕組み | 期間 |
---|---|---|---|
希ガスホールドアップ装置 | 原子力発電所から発生する放射能を持つ気体(希ガス)の放射能レベルを低減する | 活性炭による希ガスの吸着 + 放射性崩壊による放射能レベルの低下 | 数日~数十日程度 (希ガスの種類、装置の設計による) |
沸騰水型原子炉の安全性を支える
– 沸騰水型原子炉の安全性を支える原子力発電所では、発電に伴い発生する放射性物質を環境中へ放出しないよう、様々な安全対策が講じられています。その中でも、沸騰水型原子炉(BWR)と呼ばれるタイプの原子炉で特に重要な役割を担っているのが、希ガスホールドアップ装置です。BWRは、原子炉内で発生させた蒸気を直接タービンに送り込むことで発電を行う仕組みです。火力発電所などでも見られる、効率的な発電方式といえます。しかし、この方法では、排ガス中に放射性物質の一種である希ガスが比較的多く含まれてしまうという側面も持ち合わせています。そこで、BWRでは希ガスホールドアップ装置を用いることで、環境への影響を最小限に抑えています。この装置は、排ガス中から希ガスを分離・貯蔵し、放射能の減衰を待つという役割を担います。希ガスの放射能は時間とともに減衰していくため、一定期間貯蔵することで環境への影響を大幅に低減することが可能となります。日本では、全てのBWR型原子力発電所に希ガスホールドアップ装置が設置されています。これは、原子力発電所が環境への影響を最小限に抑えるために、たゆまぬ努力を続けていることの証左と言えるでしょう。
装置名 | 役割 | 設置状況 |
---|---|---|
希ガスホールドアップ装置 | 排ガス中の希ガスを分離・貯蔵し、放射能の減衰を待つ。 | 日本の全てのBWR型原子力発電所に設置。 |