ストロンチウム90: 原子力と環境を考える
電力を見直したい
原子力発電で問題になる『ストロンチウム90』って、どんなものですか?
電力の研究家
良い質問ですね。『ストロンチウム90』は、ウランが原子力発電で分裂する時にできる物質の一つで、放射線を出す性質があります。この放射線が人体に有害なんです。
電力を見直したい
放射線は危ないって聞きますけど、ストロンチウム90の放射線は、具体的にどう危ないんですか?
電力の研究家
ストロンチウム90は、体の中に取り込まれると骨に溜まりやすく、そこから放射線を出し続けるため、骨の病気や、場合によってはガンを引き起こす可能性があります。
ストロンチウム90とは。
「ストロンチウム90」は、「ストロンチウム」という物質の種類の中で、重さ90のものを指す言葉で、原子力発電と関わりがあります。自然にあるストロンチウムは安定していますが、ストロンチウム90は不安定で、放射線を出しながら別の物質に変わっていきます。この変化は28.8年かけて半分になり、その後も変化を続けて最終的にはジルコニウム90という安定した物質になります。ストロンチウム90は、放射線の強さが非常に強く、1グラムでも5.1兆ベクレルもの強さがあります。しかも、変化する過程で生まれるイットリウム90も強い放射線を持つため、実際の放射線の強さは2倍にもなります。ストロンチウム90は自然界にはほとんど存在せず、ウラン235が核分裂する際に発生します。発生する量はごくわずかですが、他の物質が変化してストロンチウム90になるため、最終的には全体の3.5%程度になります。ストロンチウム90は、体内に入ると骨髄などに溜まりやすく、血液を作る機能に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。しかし、気体になりにくい性質を持つため、原子力発電所の事故で外に漏れ出す可能性は低いです。現在、自然界に存在するストロンチウム90のほとんどは、過去の核実験によるものです。
ストロンチウム90とは
– ストロンチウム90とはストロンチウム90は、私たちの身の回りにも存在するストロンチウムという元素の一種です。ストロンチウム自体は、土壌や岩石、海水中に広く分布しており、私たちの体内にもごく微量ながら存在しています。しかし、ストロンチウム90は、通常のストロンチウムとは異なり、原子核が不安定な状態にあります。原子核が不安定な物質は、自ら放射線を出して安定になろうとする性質を持っており、このような物質を放射性同位体と呼びます。ストロンチウム90も放射性同位体の一つであり、ベータ線と呼ばれる放射線を出しながら別の元素であるイットリウム90へと変化していきます。 このような放射性物質の崩壊は、一定の時間で元の量の半分になるという性質があり、これを半減期と呼びます。ストロンチウム90の半減期は約29年で、これはストロンチウム90が100個あった場合、29年後には50個に、さらに29年後には25個になることを意味します。ストロンチウム90から変化したイットリウム90もまた放射性同位体であり、約64時間の半減期でベータ線を放出してジルコニウム90へと変化します。ジルコニウム90は安定した元素であるため、これ以上の放射性崩壊は起こりません。このように、ストロンチウム90はベータ崩壊を繰り返すことによって、最終的に安定なジルコニウム90へと変化していくのです。
放射性物質 | 半減期 | 放射線 | 変化後の物質 |
---|---|---|---|
ストロンチウム90 | 約29年 | ベータ線 | イットリウム90 |
イットリウム90 | 約64時間 | ベータ線 | ジルコニウム90 (安定) |
原子力発電とストロンチウム90
原子力発電は、ウランなどの原子核が分裂する際に生じるエネルギーを利用して電力を作る発電方法です。ウランの原子核が分裂する過程は核分裂と呼ばれ、この時、熱と光に加えて様々な物質が生まれます。その中には、ストロンチウム90と呼ばれる放射性物質も含まれています。
ストロンチウム90は、ウランの核分裂によって直接生成されるわけではありません。ウラン235が核分裂を起こす際には、様々な元素が生成されますが、ストロンチウム90はその場ではわずか0.074%しかできません。しかし、核分裂の過程で生まれた他の放射性物質が崩壊していく中で、最終的にストロンチウム90に変化するものがあります。そのため、長い時間を経た後には、核分裂生成物の約3.5%程度がストロンチウム90になっているのです。
ストロンチウム90はベータ線を出す放射性物質で、その半減期は約29年と比較的長いため、環境中に放出されると人体や生態系に影響を与える可能性があります。そのため、原子力発電所では、ストロンチウム90を含む放射性廃棄物を安全に管理し、環境中への放出を極力抑えることが非常に重要です。具体的には、使用済み核燃料を再処理する過程でストロンチウム90を分離し、ガラス固化体やセラミック固化体などに閉じ込めて安定化させる方法などがとられています。
項目 | 説明 |
---|---|
原子力発電 | ウランなどの原子核分裂(核分裂)を利用して電力を作る発電方法 |
核分裂生成物 | ウランの核分裂時に発生する様々な物質。熱、光、放射性物質を含む |
ストロンチウム90 | ウランの核分裂生成物の一つ。ベータ線を出す放射性物質で、半減期は約29年と比較的長い |
ストロンチウム90の生成 | 核分裂時に直接生成される量はわずかだが、他の放射性物質の崩壊により生成されるため、最終的には核分裂生成物の約3.5%を占める |
ストロンチウム90の影響 | 環境中に放出されると人体や生態系に影響を与える可能性がある |
ストロンチウム90の管理 | 放射性廃棄物を安全に管理し、環境中への放出を極力抑えることが重要。使用済み核燃料の再処理による分離、ガラス固化体やセラミック固化体への封じ込めなどが行われている |
人体への影響
私たちの体にとって欠かせない栄養素であるカルシウムと、ストロンチウム90には共通点があります。それは、体内に入ると骨に蓄積しやすいという性質です。ストロンチウム90は放射線を出す物質であり、骨に蓄積したストロンチウム90から放出される放射線は、骨の内部にある骨髄に影響を与えます。骨髄は、血液を作り出す重要な役割を担っているため、ストロンチウム90の影響を受けると、血液が正常に作られなくなり、健康に深刻な影響が生じます。具体的には、貧血や免疫力の低下、最悪の場合、白血病などの血液のがんを引き起こす可能性も指摘されています。このように、ストロンチウム90は人体に取り込まれると、健康に重大な影響を及ぼす可能性があるため、特に注意が必要な放射性物質として、世界中でその危険性が認識されています。
項目 | 内容 |
---|---|
共通点 | カルシウムと同様に骨に蓄積しやすい |
影響 | 骨髄に影響を与え、血液が正常に作られなくなる |
具体的な症状 | 貧血、免疫力の低下、白血病などの血液がん |
環境中でのストロンチウム90
– 環境中でのストロンチウム90
ストロンチウム90は、自然界にはほとんど存在しない物質ですが、過去の核実験によって大量に環境中に放出されてしまいました。1950年代から1960年代にかけて、世界各国が競って行った大気圏内核実験は、地球全体に放射性物質を拡散させる結果となりました。
ストロンチウム90は、水に溶けやすい性質を持っているため、大気圏内核実験によって発生したものは、雨水などに溶け込み、地表に降下しました。そして、土壌に吸着され、長い年月をかけて蓄積していきました。
土壌中のストロンチウム90は、植物の根から吸収され、さらに、その植物を食べる動物の体内に取り込まれます。そして、食物連鎖を通じて、最終的には人間の体内にまで到達する可能性があります。
ストロンチウム90はカルシウムと化学的性質が似ているため、体内に入ると骨に蓄積し、長期間にわたって放射線を出し続けるため、骨のガンや白血病などの健康被害を引き起こす可能性が懸念されています。
ただし、ストロンチウム90自体は揮発性が低いため、原子力発電所の事故などによって環境中に放出される可能性は極めて低いと考えられています。
項目 | 内容 |
---|---|
物質名 | ストロンチウム90 |
発生源 | 主に過去の核実験(大気圏内核実験) |
環境放出経路 | – 大気圏内核実験による放出 – 雨水等への溶解 – 土壌への吸着 |
人体への影響経路 | – 土壌→植物→動物→人間 – 食物連鎖による生物濃縮 |
人体への影響 | – 骨に蓄積 – 長期間の放射線被曝 – 骨のガン、白血病のリスク増加 |
原子力発電事故との関連性 | – ストロンチウム90は揮発性が低いため、事故発生時の放出の可能性は低い |
まとめ
原子力発電は、私たちに多くのエネルギーをもたらす一方で、放射性物質の取り扱いという重要な課題も抱えています。その中でもストロンチウム90は、人体への影響が懸念される物質の一つとして知られています。
ストロンチウム90は、ウランの核分裂によって生じる放射性物質であり、骨に蓄積しやすい性質を持っています。体内に入ったストロンチウム90は、カルシウムと類似した動きをするため、骨に沈着し、長期間にわたって放射線を出し続ける可能性があります。このような放射線の影響は、骨のがんや白血病などのリスクを高める可能性も指摘されています。
しかし、ストロンチウム90は、適切に管理されていれば、環境中に容易に放出されることはありません。原子力発電所では、厳重な管理システムと安全対策によって、ストロンチウム90を含む放射性物質の漏洩防止に努めています。さらに、万が一、事故が発生した場合でも、環境への影響を最小限に抑えるための対策が講じられています。
原子力エネルギーを安全かつ有効に利用していくためには、ストロンチウム90のような放射性物質の特性を正しく理解し、適切な対策を継続していくことが重要です。原子力発電の安全性に対する信頼を築き、将来のエネルギー問題解決に貢献していくためには、継続的な研究開発や情報公開、そして国民への丁寧な説明が欠かせません。
項目 | 詳細 |
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物質名 | ストロンチウム90 |
発生源 | ウランの核分裂 |
人体への影響 | 骨に蓄積し、長期間にわたって放射線を出し続ける。骨がんや白血病のリスクを高める可能性。 |
対策 | 原子力発電所での厳重な管理システムと安全対策、漏洩防止対策、事故発生時の環境影響最小限化対策。 |
安全利用のために必要なこと | 放射性物質の特性の理解、適切な対策の継続、継続的な研究開発、情報公開、国民への丁寧な説明。 |