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原子力の鍵!知られざる重水素の世界

私たちの周りにある水や有機物など、ありとあらゆるものを構成している元素といえば、水素です。水素はまさに生命の源と言えるでしょう。この水素には、少し変わった仲間がいます。それが、「重水素」です。 重水素は、水素の安定同位体の一つです。原子は、中心にある原子核とその周りを回る電子からできていますが、原子核を構成する陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子のことを同位体と呼びます。 水素の原子核は陽子1つだけですが、重水素の原子核は陽子1つと中性子1つからできています。そのため、重水素は水素よりも少しだけ重くなります。 自然界に存在する水素のほとんどは陽子1つだけからなるもので、重水素はごくわずかにしか存在しません。 海水の中にわずかに含まれているので、そこから分離・濃縮することで取り出すことができます。 重水素は、原子力発電や核融合反応など、様々な分野で利用されています。私たちの身近なところでは、医療分野で活躍しています。医薬品に重水素を組み込むと、薬の効果が長持ちしたり、副作用を抑えられたりすることが期待されています。 このように、重水素は水素の仲間でありながら、異なる性質を持つ元素です。私たちの生活を支えるために、様々な分野で活躍が期待されています。
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原子力の要 キャスクとは

- キャスクの定義原子力発電所では、ウラン燃料が核分裂反応を起こす際に、莫大なエネルギーとともに放射線を出す物質が発生します。これは放射性廃棄物と呼ばれ、人体や環境への悪影響を防ぐため、厳重に管理する必要があります。この放射性廃棄物を安全に保管・輸送するために開発された特殊な容器が、キャスクです。キャスクは、大きく分けて二つの種類に分類されます。一つは、発生した放射性廃棄物を、再処理工場や最終処分場といった場所へ安全に運ぶための輸送容器です。もう一つは、輸送後も長期間にわたって、放射性廃棄物を厳重に保管するための貯蔵容器です。いずれのキャスクも、放射性物質を閉じ込めて外部に漏らさないように、高い安全性が求められます。そのため、分厚い鋼鉄製の容器の中に、さらに放射線の遮蔽能力に優れた鉛やコンクリートなどを幾重にも重ねた構造となっています。また、落下や火災といった厳しい条件下での試験も繰り返し実施され、その安全性が確認されています。キャスクは、原子力発電所の運用において欠かせない、放射性廃棄物管理の要となる重要な設備と言えるでしょう。
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アメリカのウラン濃縮を支えるUSEC

- 原子力発電とウラン濃縮 原子力発電は、ウラン燃料の核分裂反応を利用して膨大な熱エネルギーを生み出し、その熱を利用してタービンを回し発電するシステムです。しかし、地球上に存在するウランは、天然の状態では発電に適した濃度ではありません。 ウランには、ウラン235とウラン238という二種類の同位体が存在します。このうち、核分裂を起こしやすい性質を持つのはウラン235の方です。しかし、天然ウランにおけるウラン235の濃度はわずか0.7%程度であり、残りの大部分は核分裂を起こしにくいウラン238です。 原子力発電所で燃料として使用するためには、ウラン235の濃度を数%程度まで高める必要があります。このウラン235の濃度を高めるプロセスを「ウラン濃縮」と呼びます。ウラン濃縮は、遠心分離法やレーザー法といった高度な技術を用いて行われます。 ウラン濃縮は、原子力発電の燃料サイクルにおいて重要なプロセスの一つであり、高度な技術と厳格な管理体制が求められます。
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希土類元素:知られざる未来材料

- 希土類元素とは原子番号57番のランタンから71番のルテチウムまでの15個の元素は、まとめてランタノイドと呼ばれます。そして、このランタノイドに、性質がよく似たスカンジウムとイットリウムを加えた17個の元素をまとめて希土類元素と呼びます。これらの元素は、化学的な性質が非常に似ているため、鉱石から取り出してそれぞれを分離することが難しいという特徴があります。 単語に「土」とあることから、土壌中に多く含まれている元素だと誤解されることもあるかもしれません。しかし、実際には土壌中に含まれている元素の割合は他の元素と比べてごくわずかしかありません。 では、なぜ「希土類元素」と呼ばれるようになったのでしょうか?それは、発見当初、これらの元素を純粋な形で取り出すことが非常に困難だったからです。 当時は、これらの元素を含む鉱物は発見されていましたが、そこから純粋な元素を取り出す技術が未発達だったため、非常に「珍しい」元素だと考えられていました。 「土」は、化学の歴史において、水や空気に溶けない金属酸化物のことを指す言葉として使われていました。 希土類元素も、発見当初は金属酸化物の形で発見されたため、「土」の仲間だと考えられました。 このように、希土類元素は、発見当時の技術的な制約と、金属酸化物としての性質から、「希」で「土」のような元素という意味で「希土類元素」と呼ばれるようになったのです。
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原子力発電の燃料:重ウラン酸アンモニウム

原子力発電所で使われる燃料は、ウランという物質を加工して作られます。しかし、天然に存在するウランをそのまま発電に使うことはできません。それは、ウランの中に核分裂を起こしやすいウラン235という種類がごくわずかしか含まれていないためです。 発電に適したウランを作るには、このウラン235の割合を高める作業が必要です。これを「ウラン濃縮」と呼びます。 ウラン濃縮では、まず天然ウランを六フッ化ウランという物質に変えます。そして、遠心分離機と呼ばれる装置を使って、軽いウラン235を含む六フッ化ウランだけを集めることで、ウラン235の割合を高めていきます。 こうして濃縮されたウランは、原子炉で使えるように、さらに別の形に加工されます。濃縮された六フッ化ウランから、最終的に原子炉で使う燃料となる二酸化ウランのペレットを作る工程を「再転換」と呼びます。この再転換を経て、小さな円柱状に焼き固められた二酸化ウランのペレットは、原子力発電所の燃料として使われるのです。
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将来のエネルギー源:ウラン資源の期待資源量とは?

世界規模で深刻化するエネルギー問題は、地球温暖化対策の観点からも、持続可能なエネルギー源の確保を喫緊の課題としています。こうした状況下、原子力発電の燃料となるウラン資源に注目が集まっています。ウラン資源は、すでに確認されているものだけでなく、推定や予測、期待といった形でその量を区分することができます。今回は、将来のエネルギー供給を考える上で特に重要な指標となる「期待資源量」について詳しく解説していきます。 期待資源量は、地質学的推定や過去のデータに基づき、まだ発見されていないものの、将来的に特定の地域や条件下で発見される可能性が高いと期待されるウラン資源量を指します。これは、単なる予測ではなく、科学的な根拠に基づいた推定である点が重要です。国際原子力機関(IAEA)は、世界のウラン資源量を定期的に評価し、公表しています。最新の報告によると、世界のウラン期待資源量は、現行の原子炉の運転を数百年以上にわたって維持できる量と推定されています。 期待資源量の大きな特徴は、技術革新や探査活動の進展によって変動する可能性がある点です。例えば、海水からのウラン回収技術が進歩すれば、海水中に豊富に存在するウランが利用可能となり、期待資源量は飛躍的に増加する可能性があります。また、これまで探査が進んでいなかった地域で新たなウラン鉱床が発見される可能性もあります。このように、期待資源量は将来の技術革新や探査活動によって大きく変動する可能性を秘めています。ウラン資源の将来性を評価する上で、技術開発や探査活動の進捗状況にも注意を払う必要があります。
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原子力発電の陰の立役者:TBP

- TBPとはTBPは、リン酸トリブチルの略称で、化学式は(C4H9)3PO4と表される有機化合物です。常温では、無色透明で、少し変わった匂いがする液体状の物質です。水にはほとんど溶けませんが、アルコールや灯油など、有機物からできている液体には非常によく溶けるという性質を持っています。 -80℃という非常に低い温度で凍り始め、289℃で沸騰します。 TBPは、このような特徴を活かして、原子力発電の分野で重要な役割を担っています。原子力発電では、核燃料のウランを再処理する過程で、ウランとプルトニウムを分離する必要があります。この分離の際に、TBPは抽出剤として使用されます。具体的には、使用済み核燃料を硝酸に溶かし、そこにTBPを混ぜることで、ウランとプルトニウムだけを選択的に取り出すことができます。このように、TBPは原子力発電の再処理工程において、ウランとプルトニウムの分離に欠かせない物質なのです。
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原子力発電の未来を切り開くTRADE計画

エネルギー資源の乏しい我が国において、高い発電効率と安定供給を両立できる原子力発電は、将来にわたって重要な役割を担うと考えられています。しかし、その一方で、原子力発電は放射性廃棄物の処理という課題を抱えています。放射性廃棄物は、その有害性のために厳重な管理と長期にわたる保管が必要とされ、そのことが原子力発電に対する社会的な懸念の一つとなっています。 こうした課題を克服し、原子力発電をより安全で持続可能なエネルギー源とするために、世界中で様々な研究開発が進められています。中でも注目されている技術の一つが、加速器駆動核変換システム(ADS)です。 ADSは、加速器を用いて生成した陽子を、重金属ターゲットに衝突させることで中性子を発生させ、その中性子を使って原子炉から排出される高レベル放射性廃棄物に含まれるマイナーアクチノイドと呼ばれる長寿命の放射性物質を、短寿命の核種あるいは安定核種に変換する技術です。この技術によって、放射性廃棄物の量を大幅に減らし、保管期間を短縮することが期待されています。 アメリカで進められてきたTRADE計画は、このADSの実現に向けた重要な研究計画の一つです。TRADE計画では、大強度の陽子加速器と鉛ビスマス冷却炉を組み合わせたADSの実験炉を建設し、マイナーアクチノイドの核変換を実証することを目指していました。 TRADE計画は2000年代初頭に開始され、概念設計や要素技術の開発が進められましたが、資金的な問題などから2011年に計画は中止となりました。しかし、TRADE計画で得られた研究成果は、その後のADS研究開発に大きく貢献しています。現在、世界各国でADSの研究開発が進められており、日本でも、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などで、ADSの実現に向けた研究が行われています。
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原子炉の縁の下の力持ち シャフリングとは?

原子力発電所では、ウランと呼ばれる物質が燃料として使われています。ウランは、自然界に存在する元素の一種で、特別な処理を加えることで燃料として利用できるようになります。 原子力発電の心臓部である原子炉の中では、ウランの原子核が中性子と呼ばれる粒子を吸収することで、核分裂と呼ばれる反応を起こします。核分裂とは、ウランの原子核が分裂し、他の原子核と中性子、そして莫大な熱エネルギーを放出する現象です。この時発生する熱エネルギーは、想像をはるかに超えるもので、水を加熱して高温高圧の蒸気を発生させるために利用されます。 発生した蒸気は、タービンと呼ばれる羽根車を勢いよく回転させます。タービンは発電機と連結しており、タービンが回転することで発電機も回転し、電気を発生させる仕組みです。このようにして作られた電気は、送電線を通じて私たちの家庭や工場などに届けられ、日々の生活や経済活動を支えています。
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原子力発電の心臓部!TRISO型被覆燃料粒子

原子力発電所では、莫大なエネルギーを生み出すために、ウラン燃料を高温で長時間運転する必要があります。特に、高温ガス炉と呼ばれる種類の原子炉では、1000度を超える高温にさらされながらも、安定して運転を続けることが求められます。このような過酷な環境に耐えうる心臓部として活躍するのが、「TRISO型被覆燃料粒子」です。 TRISO型被覆燃料粒子は、直径1ミリメートルにも満たない小さな球状をしています。この小さな球の中に、ウラン燃料が何層もの特殊な材料で覆われています。それぞれの層は、高温や放射線による損傷から燃料を守る役割を担っています。 まず、中心部のウラン燃料を包むように、多孔質炭素層が配置されています。これは、核分裂によって発生するガスを吸収する役割を担います。その外側には、さらに緻密な炭化ケイ素層があり、燃料が外部に漏れるのを防ぐ役割を担います。さらに、その外側にも炭素層と炭化ケイ素層が重ねて配置されており、何重にも燃料を保護しています。 このように、TRISO型被覆燃料粒子は、小さな体に高度な技術が詰め込まれた、原子力発電を支える重要な部品と言えるでしょう。
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原子核分裂の謎:自発核分裂とは

原子力の分野において、核分裂は極めて重要な現象です。核分裂と聞いて、多くの人はウランなどの原子核に中性子をぶつけることで原子核が分裂し、膨大なエネルギーを放出する現象を思い浮かべるでしょう。これは誘起核分裂と呼ばれる、外部からの作用によって引き起こされる核分裂です。しかし、外部からの刺激が全くない状態でも、原子核が自ら分裂する現象が存在します。それが「自発核分裂」です。 例えるならば、静かな水面に突如として波紋が広がるように、原子核は自らの力で分裂を起こすことがあります。外部からの作用によって分裂が誘発される誘起核分裂とは異なり、自発核分裂は原子核内部の不安定性によって引き起こされます。 原子核は陽子と中性子で構成されていますが、その組み合わせやエネルギー状態によっては不安定な状態になり、自発的に分裂してより安定な状態に移行しようとします。これが自発核分裂のメカニズムです。 自発核分裂は、ウランやプルトニウムなど、原子番号の大きな重い原子核において多く見られます。これらの原子核は、内部に多数の陽子と中性子を抱えているため、その結合エネルギーも大きく、不安定になりやすいのです。自発核分裂は、原子力発電や原子爆弾の開発において重要な要素の一つであり、その発生確率やエネルギー量などを正確に把握することが、安全かつ効率的な原子力利用には不可欠です。
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原子力発電とTRU廃棄物

- 原子力発電の仕組み 原子力発電は、ウランなどの原子核が核分裂を起こす際に生じる巨大なエネルギーを利用して電気を起こす発電方法です。 原子力発電所の中心には原子炉と呼ばれる装置があります。この原子炉の中で、ウラン燃料に中性子と呼ばれる小さな粒子がぶつかると、ウランの原子核が分裂します。この時、莫大な熱エネルギーと、新たな中性子が発生します。 この新たに生まれた中性子が、さらに別のウラン原子核にぶつかると、また核分裂が起こり、連鎖反応が続きます。この連鎖反応によって、原子炉内は高温に保たれます。 原子炉で発生した熱は、冷却材と呼ばれる水などの液体によって蒸気発生器に運ばれます。蒸気発生器では、冷却材の熱によって水が沸騰し、高温・高圧の蒸気が作られます。 この蒸気の力でタービンと呼ばれる羽根車を回し、タービンに連結された発電機を回転させることで電気が作られます。火力発電と異なり、発電する際に地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないという利点があります。
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原子力発電の安全確保:ナトリウム洗浄の重要性

- ナトリウム洗浄とは原子力発電の中でも高速炉と呼ばれるタイプの炉は、熱を効率的に伝えるために冷却材として金属ナトリウムを使用しています。ナトリウムは熱を非常に伝えやすく、高速炉の効率的な運転には欠かせない役割を担っています。しかし、運転を終えた燃料を取り出す際には、このナトリウムが課題となります。ナトリウムは水と激しく反応する性質を持つため、使用済燃料を水プールに貯蔵する前に、燃料表面に付着したナトリウムを完全に取り除く必要があるのです。この、燃料表面からナトリウムを取り除く作業が「ナトリウム洗浄」と呼ばれる工程です。 ナトリウム洗浄は、主にアルゴンガスと窒素ガスを用いて行われます。まず、アルゴンガスを吹き付けることで、燃料表面のナトリウムを物理的に除去します。その後、窒素ガスと水蒸気を反応させて水素を発生させ、この水素によって残ったナトリウムを水素化ナトリウムに変換します。水素化ナトリウムは水に溶けやすい性質を持つため、水で洗い流すことで燃料から完全に除去することができます。このように、ナトリウム洗浄は高速炉の安全性と効率性を両立させるために欠かせない工程と言えるでしょう。
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エネルギー問題の鍵、超ウラン元素の可能性

原子力発電の燃料として広く知られているウランですが、原子番号92番のウランよりもさらに原子番号の大きい元素が存在することをご存知でしょうか? これらの元素は、「超ウラン元素」と総称され、原子番号93番のネプツニウム以降の元素が該当します。超ウラン元素は、自然界にはごく微量しか存在しない非常に貴重な元素です。地球誕生時には存在したと考えられていますが、そのほとんどは長い年月を経て崩壊し、現在の地球上にはほとんど残っていません。 超ウラン元素は、ウランに中性子を照射するなどの原子核反応を利用した人工的な方法で作り出されます。例えば、原子力発電所などで使用されるウラン燃料が原子炉の中で中性子を吸収することによって、ごく微量のプルトニウムなどの超ウラン元素が生成されます。 超ウラン元素は、ウランとは異なる原子核の構造を持つため、それぞれ特有の性質を示します。これらの元素は、ウランよりもさらに多くのエネルギーを放出する可能性を秘めており、原子力分野以外でも、医療分野や工業分野など、様々な分野での応用が研究されています。 例えば、アメリシウム241は、煙感知器に利用され、カリホルニウム252は、がん治療など医療分野で利用されています。このように、超ウラン元素は、私たちの生活の様々な場面で活用され始めています。しかしながら、超ウラン元素は、放射能を持つため、その取り扱いには十分な注意が必要です。安全性を確保しながら、これらの元素の特性を最大限に活かすための研究開発が、世界中で進められています。
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ガラス固化体の課題:失透とその影響

- ガラス固化体とは原子力発電所では、運転に伴い高レベル放射性廃棄物が発生します。これは、使用済み核燃料を再処理する過程で生じる、放射能レベルが高く、長期間にわたって熱と放射線を出し続ける物質です。 この高レベル放射性廃棄物を安全かつ長期的に保管するために開発されたのが、ガラス固化体です。ガラス固化体の製造プロセスは、まず高レベル放射性廃棄物を溶解処理することから始まります。そして、その溶液にガラスの原料を混ぜ合わせ、高温で溶かしてガラスと一体化させます。 こうしてできた溶融状態の混合物をステンレス製の容器に流し込み、冷却・固化させることでガラス固化体が完成します。ガラスは、放射性物質をその構造の中に閉じ込めておく性質、つまり放射性物質を封じ込める能力に優れています。 また、化学的に安定しているため、長期間にわたって風化や水による浸食の影響を受けにくいという特徴があります。 そのため、ガラス固化体は高レベル放射性廃棄物を安全に保管するための最適な形態の一つと考えられています。 ガラス固化体は、最終的には地下深くに建設された処分施設に保管され、長期間にわたって人間の生活環境から隔離されます。
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ウラン濃縮の指標:分離作業単位(SWU)

- 分離作業単位(SWU)とは 分離作業単位(SWU)は、ウラン濃縮の際に必要となる作業量を数値化したものです。天然ウランには、核分裂を起こしやすいウラン235と、そうでないウラン238が混在しています。原子力発電の燃料として利用するには、ウラン235の割合を一定の割合以上に高める必要があり、この作業をウラン濃縮と呼びます。 SWUは、このウラン濃縮の際に、どれだけ手間がかかったかを示す指標となります。ウラン235の濃度を高めるためには、複雑な工程と多くのエネルギーを必要とします。SWUの値が大きいほど、より多くのエネルギーを消費し、高度な技術を要する濃縮作業が行われたことを意味します。 例えば、濃縮度3%の低濃縮ウランを生産する場合と、濃縮度90%の高濃縮ウランを生産する場合では、後者の方がはるかに多くのSWUを必要とします。これは、高濃縮ウランを生成するには、ウラン235とウラン238をより厳密に分離する必要があるためです。 このように、SWUはウラン濃縮における技術的な難易度や必要なエネルギー量を評価する上で重要な指標となっています。
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トリチウム回収技術:原子力発電の未来のために

原子力発電は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素をほとんど排出しない、環境に優しい発電方法として期待されています。しかし、その安全性をより高めるためには、運転を終えた後の燃料、いわゆる使用済み燃料を適切に処理することが非常に重要となります。 使用済み燃料には、エネルギーを生み出す核燃料物質であるウランやプルトニウムだけでなく、トリチウムと呼ばれる物質も含まれています。トリチウムは水素の一種で、自然界にもわずかに存在していますが、原子力発電所では人工的に作られます。 トリチウムは水に溶けやすく、水蒸気となって空気中に広がりやすい性質を持っています。そのため、もしも環境中に放出されてしまうと、雨水に溶け込んだり、土壌に吸着したりして、私たちの生活圏である水や農作物に取り込まれてしまう可能性があります。 トリチウムは人体に直接的な影響を与えることはほとんどないとされていますが、長期間にわたって体内に取り込まれ続けると健康への影響も懸念されます。将来にわたって安心して原子力発電の利用を続けるためには、環境中への放出を可能な限り抑えることが重要です。 そのため、使用済み燃料からトリチウムを効率的に分離し、回収する技術の開発が急務となっています。この技術開発によって、環境への影響を最小限に抑え、原子力発電の安全性をより高めることが期待されています。
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トリチウム:核融合の燃料

- トリチウムとは水素は私達の身の回りにありふれた元素ですが、その仲間であるトリチウムは、原子核の中に陽子1個と中性子2個を持つ特別な水素です。私達が普段目にする水素は原子核に陽子を1つだけ持ちますが、トリチウムは中性子を2つも余分に持っているため、その分だけ重くなります。そのため、トリチウムは三重水素とも呼ばれます。通常の元素記号では水素はHと表しますが、トリチウムは3HあるいはTと表記されます。このトリチウムは、放射線を出す性質を持つ放射性同位体として知られています。自然界では、トリチウムは宇宙から飛来する宇宙線と大気中の窒素や酸素が反応することでごく微量ですが生まれています。また、原子力発電所では原子炉の中でウランが核分裂する際に人工的にトリチウムが生成されます。原子力発電所では、使用済み燃料の再処理を行う際に、このトリチウムが環境中に放出されることがあります。
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トリチウム:核融合の未来を担う元素

- トリチウムとは?水素は、私たちの身の回りにもっとも多く存在する元素の一つです。水素の仲間であるトリチウムも、自然界にごくわずかに存在しています。では、このトリチウムとは一体どんな物質なのでしょうか。トリチウムは、水素の一種ですが、普通の水素とは原子核の構造が異なります。原子は、中心にある原子核と、その周りを回る電子からできています。さらに原子核は、陽子と中性子で構成されています。 水素の原子核は、陽子1つだけでできています。一方、トリチウムは、陽子1つに加えて、中性子を2つも含んでいます。このため、トリチウムは「三重水素」とも呼ばれます。トリチウムは、自然界では、宇宙線と大気の反応によってごく微量ですが生まれています。 また、原子力発電所などでは、原子炉の中でリチウムという元素に中性子をぶつけることで人工的に作られています。トリチウムは、弱いベータ線を出す放射性物質として知られていますが、その放射能は非常に弱く、紙一枚で遮ることができる程度です。また、トリチウムは水と容易に結合する性質があるため、環境中に放出された場合には、水蒸気として拡散したり、雨水に溶け込んだりして薄まります。
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使用済み燃料に眠る宝:貴金属核分裂生成物

金やプラチナと聞くと、多くの人はネックレスや指輪といったきらびやかな装飾品を思い浮かべるでしょう。確かに、これらの金属は美しい輝きを持つため、装飾品として古くから人々を魅了してきました。しかし、貴金属の真価は、その美しさだけにとどまりません。貴金属は、化学的に非常に安定しており、錆びにくく、酸やアルカリにも強いという特徴があります。このため、非常に優れた耐食性を誇り、長い年月を経ても劣化しにくいのです。さらに、熱や電気をよく伝える性質も持ち合わせています。これらの優れた特性により、貴金属は様々な分野で利用されています。例えば、自動車の排気ガス浄化装置にはプラチナ、ロジウム、パラジウムといった貴金属が使用されています。これらの金属は、排気ガスに含まれる有害物質を浄化する触媒として働き、大気を守る役割を担っています。また、スマートフォンやパソコンなどの電子機器にも、貴金属は欠かせません。微細な電子回路に利用することで、電気信号を正確に伝え、機器の安定稼働を支えています。さらに、医療の分野でも、貴金属は活躍しています。人工関節や歯科材料など、体内に埋め込む医療機器にも用いられ、その高い安全性と信頼性が評価されています。このように、貴金属は私たちの生活を支える様々な製品に活かされ、その重要性を増しています。
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未来のエネルギー: トリウムサイクルの可能性

- トリウムサイクルとはトリウムサイクルは、トリウム232という物質を原子炉で利用し、ウラン233という核燃料を生成しながらエネルギーを生み出すサイクルです。 トリウム232自体は核分裂を起こしませんが、中性子を吸収することでウラン233に変換されます。ウラン233は核分裂を起こしやすい性質を持つため、再び燃料として利用することができます。従来のウラン燃料サイクルでは、天然ウランに含まれる核分裂しやすいウラン235の割合は約1%に過ぎず、残りの大部分を占めるウラン238は核分裂を起こしにくいという課題がありました。一方、トリウムサイクルでは、トリウム232から生成されるウラン233を燃料として利用するため、天然に存在するトリウム資源をほぼ全てエネルギーに変換できる可能性を秘めています。また、トリウムサイクルは、核拡散の抑制や廃棄物の低減といった点でも注目されています。トリウムサイクルで生成されるプルトニウムの量は、ウラン燃料サイクルと比べて少なく、核兵器への転用リスクを低減できる可能性があります。さらに、トリウムサイクルで発生する廃棄物は、ウラン燃料サイクルと比べて放射能の強さが弱く、半減期が短いため、廃棄物処理の負担軽減も期待されています。このように、トリウムサイクルは、エネルギー問題の解決策として、また、より安全な原子力利用を実現する技術として、大きな期待が寄せられています。
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使用済み燃料と貴金属:資源の未来を拓く

金やプラチナと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、きらびやかな装飾品ではないでしょうか。確かに、これらの金属は装飾品として高い価値を持っています。しかし、その価値は美しさだけに留まりません。金、銀、プラチナ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムの8つの元素は、貴金属元素と呼ばれ、その優れた特性から様々な分野で利用されています。 これらの元素は、化学的に非常に安定しているため、空気中の酸素と反応して錆びたり変色したりしにくいという特徴があります。また、高い電気伝導性も持ち合わせており、電気抵抗が少なく電気を効率よく伝えることができます。これらの特性から、貴金属元素は、電子機器、自動車部品、医療機器など、私たちの生活に欠かせない様々な製品に利用されています。例えば、スマートフォンやパソコンなどの電子機器には、その高い電気伝導性を利用して、微細な電子回路を形成するために金が使用されています。また、自動車の排気ガス浄化装置には、排ガス中の有害物質を浄化する触媒として、プラチナ、パラジウム、ロジウムが利用されています。さらに、医療分野では、人工関節や歯科インプラントなどの医療機器に、耐食性が高く生体適合性に優れたチタンが使われています。 このように、貴金属元素は、その希少性と優れた特性から、様々な分野で必要不可欠な材料となっています。そして、その資源量は限られており、世界中で需要が高まっていることから、経済的な価値も非常に高いものとなっています。
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原子力発電の未来を支える資源:SRとは?

エネルギー資源の中でも、将来のエネルギー政策において重要な役割を担うと考えられているのが原子力発電です。原子力発電の燃料となるウランは、その利用可能性を評価する上で、資源量の把握が欠かせません。ウラン資源は、その存在の確実性や経済性に基づいて、いくつかの段階に分類されます。資源量評価の段階には、埋蔵量や資源量など様々な区分がありますが、中でも将来的な可能性を秘めた資源として注目されているのが、「推定追加資源量(SRSpeculative Resources)」と呼ばれるものです。SRは、既存の鉱床周辺や地質学的データに基づいて、さらに資源が存在する可能性が高いと推定される地域における資源量を指します。これらの地域は、まだ探鉱が十分に行われていない場合が多く、今後の探査活動次第では、資源量がさらに増加する可能性を秘めています。SRは、将来のウラン供給の安定化に寄与する可能性を秘めた資源として、世界各国でその存在が注目されています。日本においても、エネルギーセキュリティの観点から、SRを含めたウラン資源の確保に向けた取り組みが重要となっています。
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トリウム系列:地球の鼓動を刻む放射性崩壊

- トリウム系列の始まり 地球の奥深く、私たちの足元で静かに時を刻む元素、トリウム232(Th-232)。それは、ウランとともに自然界に存在する放射性元素の一つであり、トリウム系列と呼ばれる壮大な原子核崩壊の物語の主人公です。 トリウム232は、α崩壊というプロセスを経て、まずラジウム228(Ra-228)へと姿を変えます。α崩壊とは、原子核がヘリウム原子核(α粒子)を放出することで、原子番号が2減り、質量数が4減る現象です。 ラジウム228への変化は、トリウム232の長きにわたる変身のほんの始まりに過ぎません。ラジウム228は、β崩壊と呼ばれる別のプロセスを経て、さらに別の元素へと変化していきます。β崩壊とは、原子核が電子を放出することで、原子番号が1増える現象です。 こうして、トリウム232から始まった原子核崩壊の連鎖は、様々な放射性元素を経て、最終的に安定な鉛208(Pb-208)へと到達するまで続きます。この一連の崩壊過程が、トリウム系列と呼ばれるものです。 トリウム系列は、地球の年齢を測定したり、地質学的な年代測定に利用されたりするなど、様々な分野で重要な役割を担っています。