研究の最先端!高速中性子源炉「弥生」
電力を見直したい
『弥生』って、どんなものかよくわからないんです。高速炉っていうのはわかるんですけど…
電力の研究家
なるほど。『弥生』は、簡単に言うと、東京大学にある、特別な燃料を使う原子炉のことだよ。普通の原子炉とは違う、速い中性子っていうのを使うんだ。
電力を見直したい
速い中性子を使うと、何かいいことがあるんですか?
電力の研究家
そうなんだ。速い中性子を使うことで、普通の原子炉ではできないような、特別な研究ができるんだよ。例えば、新しい材料の開発や、宇宙の研究に役立つんだ。
弥生とは。
「弥生」は、日本の大学で初めて作られた、研究用の速い原子炉の名前です。この原子炉は、核分裂で生まれる速い中性子を遅くせずに使うことで、色々な特徴的な研究ができる特別なものです。このような原子炉は、速い中性子の源となる原子炉と呼ばれます。大学でこのような原子炉を持っているのは、世界中でも東京大学だけです。「弥生」の燃料は、円柱の形をした濃縮ウランで、その周りを劣化ウランの覆いが包んでいます。さらに、この燃料部分は、鉛でできた反射体の中に収められています。その前後には、鉛と重いコンクリートでできた遮蔽体があり、制御棒を動かす仕組みも付いています。これら全体で、0.5メートル×0.5メートル×7.3メートルの大きさの、炉心集合体と呼ばれるものを構成しています。この炉心集合体は、移動用の通路枠の上に載っていて、最大16メートルの範囲で水平に移動できます。そして、6ヶ所の運転位置に移動させて原子炉を運転することができます。運転位置は、重いコンクリートの遮蔽体の中に2ヶ所、中くらいの速さの中性子の柱の中に3ヶ所、遮蔽体のない位置に1ヶ所あり、実験の目的に合わせて使い分けられます。
日本の研究を支える高速炉
日本の大学で初めて導入された研究用原子炉が「弥生」です。「弥生」は、核分裂で発生する高速中性子を、速度を落とすことなく利用する高速炉と呼ばれるタイプの原子炉です。高速中性子とは、一般的な原子炉で使用される熱中性子よりもエネルギーが高く、物質を透過しやすい性質を持っています。
「弥生」は、この高速中性子を利用することによって、様々な分野の研究に役立ってきました。
例えば、原子炉や核融合炉の材料開発などの材料科学分野、原子核の構造や反応を探る核物理分野、放射線を用いた治療法や診断法を研究する医学分野など、幅広い分野の最先端研究に貢献しています。
「弥生」は、日本の科学技術の発展に大きく貢献してきた重要な研究施設と言えるでしょう。
項目 | 内容 |
---|---|
名称 | 弥生 |
種類 | 高速炉 |
利用粒子 | 高速中性子(熱中性子よりエネルギーが高く物質を透過しやすい) |
研究分野例 |
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備考 | 日本の大学で初めて導入された研究用原子炉であり、日本の科学技術の発展に大きく貢献 |
「弥生」の特徴
– 「弥生」の特徴「弥生」は、高速中性子源炉という種類の原子炉です。原子炉の種類は、中性子の速度によって大きく分けられます。熱中性子炉と呼ばれる原子炉では、中性子の速度を遅くすることでウランの核分裂反応を起こしやすくしています。一方、「弥生」のような高速中性子源炉では、中性子の速度を落とさずに、高速の状態で利用します。「弥生」の炉心には、濃縮ウランという燃料が使われています。濃縮ウランは、天然ウランに含まれるウラン235の濃度を高めたもので、核分裂反応を起こしやすくなっています。この炉心を囲むように、劣化ウラン・ブランケットが配置されています。劣化ウランは、ウラン235の濃度が低いウランですが、「弥生」では高速中性子を吸収してプルトニウムを生成するために利用されます。さらに、燃料部は鉛製の反射体で覆われています。これは、炉心から外に飛び出す中性子を反射させて、核分裂反応を効率的に起こす役割を担っています。そして、これらの構造全体を、鉛と重コンクリート製の遮へい体が何層にもわたって覆っています。これは、高速中性子や放射線を遮へいし、外部への漏洩を防ぐための重要な役割を担っています。このように、「弥生」は、高速中性子を効率的に発生させるとともに、放射線の外部への漏洩を最小限に抑えるように設計された原子炉です。
構成要素 | 説明 |
---|---|
炉心 | 濃縮ウランを使用し、高速中性子を生み出す。 |
劣化ウラン・ブランケット | 炉心を囲み、高速中性子を吸収してプルトニウムを生成する。 |
鉛製の反射体 | 燃料部を覆い、中性子を反射させて核分裂反応の効率を高める。 |
鉛と重コンクリート製の遮蔽体 | 高速中性子や放射線を遮蔽し、外部への漏洩を防ぐ。 |
移動可能な炉心
– 移動可能な炉心「弥生」の最も特徴的な点は、炉心全体を移動できることです。炉心は、原子炉の心臓部であり、ここで核分裂反応が起こり、熱エネルギーを生み出します。通常、炉心は原子炉の中心に固定されていますが、「弥生」では、炉心全体を「炉心集合体」として一つのユニットにまとめ、移動用のレールの上を水平方向に最大16メートル移動させることが可能です。この移動可能な炉心集合体は、実験の目的に応じて、原子炉内の異なる場所に設置することができます。例えば、原子炉の周囲を厚いコンクリートで囲った遮蔽体内に入れたり、中性子を減速させるための物質である中速中性子柱内に設置したり、さらには遮蔽体のない場所まで移動させて実験を行うことも可能です。このように、「弥生」では炉心を移動させることで、中性子のエネルギーや量など、実験条件を自在に変えることができ、多様な研究ニーズに対応できる柔軟性を備えています。これは、他の原子炉では見られない、「弥生」独自の大きな特徴と言えるでしょう。
項目 | 詳細 |
---|---|
名称 | 弥生 |
特徴 | 炉心全体を最大16メートル水平移動可能 |
炉心の設置場所例 | ・遮蔽体内 ・中速中性子柱内 ・遮蔽体のない場所 |
メリット | ・中性子のエネルギーや量など、実験条件を自在に変更可能 ・多様な研究ニーズに対応できる柔軟性 |
世界に誇る研究施設
東京大学は、世界的に見ても稀な、高速増殖炉を学内に保有する大学です。その炉の名前は「弥生」と言い、原子力の平和利用に向けた研究において、世界中の研究者から注目されています。高速増殖炉は、ウラン燃料をより効率的に利用できるだけでなく、使用済み核燃料を再処理してエネルギーに変換できるという利点があります。これは、資源の乏しい日本でエネルギーの自給率を高め、将来のエネルギー問題解決に貢献できる可能性を秘めていることを意味します。「弥生」は、こうした次世代の原子力システムの開発に欠かせない研究施設として、世界をリードする役割を担っています。
「弥生」が使用している高速中性子は、原子力分野以外にも、様々な分野での応用が期待されています。例えば、物質の構造や性質を原子レベルで調べることで、従来の材料開発では考えられなかったような、全く新しい機能を持つ材料を生み出すことが可能になります。また、医療分野では、がん細胞にだけピンポイントで中性子を照射する治療法の開発が進められています。これは、正常な細胞への影響を抑えながら、がんを効果的に治療できる可能性を秘めた、革新的な治療法として期待されています。このように、「弥生」は、原子力分野のみならず、幅広い分野の研究開発を推進する上で、重要な役割を担う、世界に誇る研究施設と言えるでしょう。
項目 | 内容 |
---|---|
施設名 | 弥生 |
設置機関 | 東京大学 |
炉型 | 高速増殖炉 |
主な特徴 | – ウラン燃料の効率的な利用 – 使用済み核燃料の再処理によるエネルギー変換 – 高速中性子による原子レベルでの物質構造解析 – がん細胞へのピンポイント照射治療の研究 |
貢献 | – エネルギー自給率の向上 – 将来のエネルギー問題解決 – 新材料開発 – 革新的ながん治療法の開発 |
未来への貢献
未来への貢献という言葉が示す通り、高速中性子源炉「弥生」は、これまで科学技術の進歩に大きく寄与してきました。基礎科学分野においては、物質の性質や宇宙の成り立ちを解明するための研究に力を発揮してきました。原子核の構造や素粒子に関する知見を深めることで、物質科学や宇宙物理学の発展に貢献してきたのです。
応用技術分野においても、「弥生」は目覚ましい成果を上げてきました。例えば、新しい材料の開発や医療分野への応用などが挙げられます。中性子ビームを用いることで、従来の方法では難しかった材料の分析や特性評価が可能となり、より高性能な材料の開発に繋がっています。また、がん治療などの医療分野においても、新たな治療法の開発や診断技術の向上に貢献しています。
今後、「弥生」は国内外の研究機関との連携をさらに強化し、世界をリードする研究活動を推進していくことが期待されます。特に、地球規模で課題として認識されているエネルギー問題、環境問題、医療問題などの解決に貢献することが期待されています。具体的には、より安全で効率的なエネルギーを生み出すための研究や、地球温暖化対策に貢献する技術開発、そして、人々の健康寿命の延伸に貢献する医療技術の開発などが挙げられます。「弥生」は、未来社会に貢献するための重要な役割を担っていると言えるでしょう。
分野 | 貢献 | 具体例 |
---|---|---|
基礎科学 | 物質の性質や宇宙の成り立ちの解明 | 原子核の構造や素粒子に関する知見を深める |
応用技術 | 新しい材料の開発や医療分野への応用 | – 中性子ビームを用いた材料分析・特性評価 – がん治療などの医療分野における治療法開発や診断技術向上 |
今後の展望 | エネルギー問題、環境問題、医療問題などの解決 | – より安全で効率的なエネルギーを生み出す研究 – 地球温暖化対策に貢献する技術開発 – 人々の健康寿命の延伸に貢献する医療技術の開発 |