原子力発電の安全を守る渦流探傷検査

原子力発電の安全を守る渦流探傷検査

渦流探傷検査とは

– 渦を巻く流れで、見えない傷を見つける

渦流探傷検査は、物体に傷がないかを調べる検査方法の一つです。
この検査では、物を壊したり切ったりすることなく、表面や内部の状態を調べることができます。

検査ではまず、物体に「渦電流」と呼ばれる電気を流します。
渦電流は、物が渦を巻くように流れることからその名前が付けられました。
この電流は、物体の表面付近を流れていきますが、もしも材料内部に傷や異物があると、その流れ方が変化します。
渦流探傷検査では、この電流の流れ方の変化をセンサーで捉えることによって、目では見えない傷を見つけ出すのです。

この検査方法は、原子力発電所で使われる配管や、飛行機の翼、自動車の部品、橋など、様々なものに使われています。
これらの場所では、小さな傷も見逃すと大きな事故につながる可能性があります。
渦流探傷検査は、人々の安全を守るために欠かせない技術と言えるでしょう。

渦電流の発生原理

– 渦電流の発生原理

検査対象となる金属材料にコイルを近づけ、そのコイルに高周波の電流を流すと、コイルの周りに磁場が発生します。この磁場は、目には見えませんが、磁力を持った空間が広がっている状態です。

この磁場が金属材料を貫通すると、不思議な現象が起こります。電磁誘導の法則と呼ばれる法則によって、金属材料の中に、まるで渦を巻くように流れる電流が発生するのです。これが渦電流と呼ばれるものです。

渦電流は、金属材料の表面付近に集中して流れるという特徴があります。また、その流れ方は、金属材料の種類によって異なります。電気の流れにくさを示す電気抵抗や、磁場を通しやすさを示す透磁率といった性質によって、渦電流の流れ方が変化するのです。

渦電流は、金属材料の表面状態や内部の欠陥などを調べる検査に利用されています。渦電流の流れ方を分析することによって、材料の品質を評価することができるのです。

欠陥の検出方法

– 欠陥の検出方法

金属材料は、発電所をはじめ、様々な構造物に使われています。これらの構造物の安全性を確保するためには、材料内部に潜む欠陥を早期に発見することが非常に重要です。そこで活躍するのが、渦電流を用いた非破壊検査という手法です。

渦電流とは、導電性を持つ材料に磁場を近づけたり、変化させたりした際に発生する電流のことです。この渦電流は、材料の表面付近を流れるという性質を持っています。

もし材料内部にひび割れなどの欠陥が存在する場合、渦電流の流れは乱れてしまいます。例えば、表面にひび割れがあると、渦電流はその部分を迂回するように流れます。この流れ方の変化を、検査装置に組み込まれたコイルで検出することで、欠陥の有無や大きさ、形状などを知ることができるのです。

検出された信号は電気信号として処理され、画像や数値で表示されます。検査員はこのように視覚化された情報をもとに、欠陥の状態を容易に把握することができるのです。

渦電流を用いた非破壊検査は、検査対象の材料を傷つけることなく、効率的に欠陥を検出できるという点で非常に優れた手法と言えるでしょう。

原子力発電における重要性

原子力発電は、私たちの社会に欠かせない電気を安定して供給できるという大きな利点を持つ反面、ひとたび事故が起きれば取り返しのつかない被害をもたらす可能性も孕んでいます。だからこそ、原子力発電所では、発電のあらゆる過程において、安全の確保が何よりも重要とされています。
発電の心臓部である原子炉をはじめ、放射性物質を扱う配管やバルブなど、原子力発電所で使われる機器は多岐に渡ますが、これらの機器に対しては、設計・製造段階から運転、保守に至るまで、極めて厳しい品質管理が求められます。
その中でも特に重要な役割を担っているのが、渦流探傷検査と呼ばれる技術です。これは、電磁誘導の原理を応用して、金属内部のきずを検出する検査方法で、原子炉や配管など、様々な機器の製造段階における検査はもちろんのこと、実際に運転中の定期検査にも広く用いられています。
渦流探傷検査は、高温高圧の過酷な環境下で使用される機器や、放射線のために人が近づいて検査することが難しい機器の検査にも適していることから、原子力発電所の安全性を支える上で、まさに欠かせない技術と言えるでしょう。

燃料被覆管検査への応用

原子力発電所では、ウラン燃料を詰めた燃料集合体が原子炉内で核分裂反応を起こし、熱エネルギーを生み出しています。この燃料集合体には、燃料ペレットと呼ばれる円柱状の核燃料が多数収納されていますが、この燃料ペレットを直接炉内に設置することはありません。燃料ペレットは、高温・高圧の冷却水や放射線による損傷から保護するため、ジルコニウム合金などの金属製の被覆管に覆われています。この被覆管は「燃料被覆管」と呼ばれ、燃料ペレットと冷却水との間を隔てる重要な役割を担っています。
燃料被覆管は、原子炉の過酷な環境に長期間さらされるため、微細なき裂や腐食が発生する可能性があります。もし燃料被覆管が損傷すると、放射性物質である燃料ペレットが冷却水中に漏洩する可能性があり、原子炉の安全運転に支障をきたす恐れがあります。そのため、燃料被覆管の健全性を定期的に検査することは、原子力発電所の安全確保の上で極めて重要です。
燃料被覆管の検査には、非破壊検査の一種である渦流探傷検査が広く用いられています。この検査方法では、プローブと呼ばれるコイルに交流電流を流し、燃料被覆管の表面に渦電流を発生させます。燃料被覆管にき裂などの欠陥があると、渦電流の流れが変化するため、その変化を検出することで欠陥の有無や位置、大きさを評価することができます。
このように、渦流探傷検査は、燃料被覆管の定期検査に有効な手段として活用され、原子炉の安全運転を支えています。