原子力発電における重水の役割

原子力発電における重水の役割

電力を見直したい

先生、重水って普通の水と何が違うんですか?

電力の研究家

良い質問だね! 重水と普通の水は、見た目はほとんど同じように見えるんだけど、水の分子を作っている水素に違いがあるんだ。普通の水は軽い水素、重水は重い水素を含んでいるんだよ。

電力を見直したい

重い水素って? 水素は全部同じじゃないんですか?

電力の研究家

実は水素にも種類があるんだ。普通の水素は陽子1つだけだけど、重い水素は陽子1つと中性子1つからできているんだ。だから重水は普通の水より少しだけ重くなるんだよ。

重水とは。

原子力発電でよく聞く「重水」という言葉は、普段は「重水(D₂O)」のことを指します。しかし、酸素の重い仲間(O-18やO-17など)をたくさん含む水も「重水」と呼ぶことがあります。普段私たちが目にしている水は、ほとんどがH₂O(O-16)で、99.76%を占めています。その他に、H₂O(O-18)が0.71%、H₂O(O-17)が0.037%、HDO(O-16)が0.032%などが含まれています。この普通の水に対して、重水は「軽水」と呼ばれることもあります。重水は、原子炉で核分裂反応の速度を調整したり、中性子を反射させたりするのに役立ちます。また、常温核融合反応では、重水を電気分解して反応を起こします。さらに、重水から重水素を取り出して、高温核融合反応の燃料として使用することもあります。

重水とは

重水とは

私たちにとって欠かせない存在である水。実は、その水の中にごくわずかだけ含まれる「重水」と呼ばれる特別な水が、原子力発電で重要な役割を担っています。

私たちが普段目にしたり、触れたりしている水は、水素原子2個と酸素原子1個が結合してできた「H₂O」という分子でできています。しかし、重水の場合は、この水素原子の代わりに、「重水素」と呼ばれる、少し重い水素の仲間が使われているのです。

では、この重水素は普通の水素と何が違うのでしょうか?

原子の構造を見てみると、違いが分かります。原子の中心には原子核があり、その周りを電子が回っています。

水素の原子核は、陽子と呼ばれる粒子が1個だけですが、重水素の原子核は陽子に加えて中性子と呼ばれる粒子も1個持っています。この中性子が重水素を少し重くしている理由です。

このように、水素原子と重水素原子は、その原子核の構成が異なっています。そのため、重水は普通の水と比べてわずかに重くなり、密度や融点、沸点といった物理的な性質も少しだけ変わってくるのです。

項目 水素 重水素
原子核の構成 陽子 1個 陽子 1個
中性子 1個
重さ 軽い 少し重い
備考 中性子の存在により重くなる

原子炉における減速材としての重水

原子炉における減速材としての重水

原子力発電は、ウランなどの核分裂反応で生まれる熱エネルギーを電力に変換するシステムです。この核分裂反応を効率良く起こすには、原子炉内を飛び回る中性子の速度を適切に調整することが重要です。 中性子の速度が速すぎるとウラン原子核に捕獲されにくく、逆に遅すぎると核分裂反応が止まってしまいます。 そこで、中性子の速度を適切なレベルにまで落とす物質として、減速材が使われています。

重水は、この減速材として優れた特性を持つ物質です。通常の水と比べて中性子を吸収しにくい性質を持つため、中性子の速度を効率的に低下させることができます。そのため、重水は原子炉内での核分裂反応の制御に非常に役立ちます。 特に、濃縮ウランではなく天然ウランを燃料とする原子炉では、重水は減速材として欠かせない存在です。これは、天然ウランは核分裂を起こしやすいウラン235の含有量が少なく、中性子の速度を十分に落とさないと効率的な核分裂反応を維持できないためです。

減速材 役割 特徴 使用される原子炉
重水 中性子の速度を適切なレベルにまで落とす
  • 通常の水と比べて中性子を吸収しにくい
  • 中性子の速度を効率的に低下させる
天然ウランを燃料とする原子炉

その他の用途

その他の用途

重水は、原子炉において核分裂の速度を調整する減速材として知られていますが、その活躍は原子炉の中だけに留まりません。原子炉の能力をさらに引き出すためには、中性子を効率よく炉心に反射させる必要があります。重水は反射材としても優秀であり、原子炉の運転効率向上に貢献しています。

重水の活躍の場は原子力分野以外にも広がっています。医療分野では、体の断面画像を撮影するMRI検査において、より鮮明な画像を得るための造影剤として重水が用いられています。さらに、体内の物質の動きを調べるトレーサーとして、代謝の研究などにも利用されています。

そして、未来のエネルギー源として期待されている核融合発電においても、重水は重要な役割を担っています。核融合反応の燃料となる重水素は、重水を電気分解することによって得られます。このように、重水はエネルギー分野の未来を切り開く鍵を握っているとも言えるでしょう。

分野 用途 詳細
原子力発電 減速材 核分裂の速度を調整
原子力発電 反射材 中性子を炉心に効率よく反射
医療 造影剤 MRI検査において、より鮮明な画像を得る
医療 トレーサー 体内の物質の動きを調べ、代謝などの研究に利用
核融合発電 原料 重水を電気分解して、燃料となる重水素を得る

重水の製造方法

重水の製造方法

– 重水の製造方法水素の仲間には、質量の異なるものがいくつか存在します。私達のよく知る通常の水素は質量数が1ですが、質量数が2の水素は「重水素」と呼ばれ、この重水素を含む水を「重水」と呼びます。重水は、自然界のありふれた水の中にごくわずかですが存在しています。しかし、その割合はわずか0.015%程度と大変低いため、原子力発電などで利用するためには、人工的に濃縮する必要があります。重水を製造する方法としては、主に次の二つの方法が挙げられます。一つは「水の電気分解」です。水を電気分解すると、水素と酸素に分解されますが、この時、わずかに含まれる重水は分解されにくく、反応容器に残ります。この作業を何度も繰り返すことで、重水の濃度を高めていくことができます。もう一つは「硫化水素と水との間の同位体交換反応」を利用する方法です。異なる物質の間で水素と重水素の交換反応が起こる性質を利用して、硫化水素と水との間で繰り返し接触させることで、水の中に含まれる重水素の濃度を高めていきます。これらの方法以外にも、様々な重水の製造方法が研究されています。これらの技術発展により、高純度の重水を大量に製造することが可能になり、原子力発電をはじめとした様々な分野で利用されるようになっています。

方法 概要
水の電気分解 水を電気分解すると、わずかに含まれる重水は分解されにくく残る。これを繰り返すことで濃縮する。
硫化水素と水との間の同位体交換反応 硫化水素と水との間で水素と重水素の交換反応を起こし、水中の重水素濃度を高める。

今後の展望

今後の展望

– 今後の展望

地球温暖化は、人類にとって喫緊の課題です。その解決策として、二酸化炭素排出量の少ない原子力エネルギーの利用拡大が世界的に議論されています。原子力エネルギーの利用拡大に伴い、そのカギとなる「重水」の需要もますます高まると予想されます。

原子力発電には、ウラン資源を有効に利用できる「天然ウラン燃料炉」の開発が進められていますが、このタイプの原子炉には、通常の軽水炉とは異なり、中性子の減速材として重水が必要不可欠です。そのため、天然ウラン燃料炉の開発が進むにつれて、重水の需要はますます増加していくと考えられます。

さらに、将来のエネルギー源として期待されている核融合発電においても、重水は重要な役割を担います。核融合発電の燃料となる重水素は、重水を原料として製造されます。核融合発電の実現に向けて研究開発が進む中、重水素の需要増加に伴い、その原料となる重水の重要性も今後ますます高まっていくと考えられています。

このように、重水は原子力エネルギーの利用拡大、そして将来のエネルギー問題の解決に大きく貢献する物質として、今後も世界中から注目を集めていくことでしょう。

原子力分野 重水の役割 将来展望
天然ウラン燃料炉 中性子の減速材 開発の進展に伴い、重水の需要増加が見込まれる
核融合発電 燃料となる重水素の原料 実現に向けた研究開発が進む中で、重水の重要性はさらに高まると予想される