原子力発電における状態基準保全

原子力発電における状態基準保全

電力を見直したい

先生、「状態基準保全」って、どういう意味ですか?難しくてよくわからないです。

電力の研究家

そうだね。「状態基準保全」は、機械が壊れてから直すんじゃなくて、機械の状態を常に見ておいて、壊れそうになったら直す方法のことだよ。例えば、毎日体温を測って、熱が出そうになったらお薬を飲むのと同じようなイメージかな。

電力を見直したい

なるほど!だから、わざわざ壊れてもいないのに機械を分解して点検する必要がないんですね!でも、機械の状態ってどうやって調べるんですか?

電力の研究家

いい質問だね!機械にセンサーを取り付けて、温度や振動を測ったり、定期的に機械の中をカメラで検査したりするんだ。そうやって、機械が元気かどうかを常にチェックしているんだよ。

状態基準保全とは。

「状態基準保全」という原子力発電の言葉について説明します。これは、英語でcondition based maintenance(CBM)と言います。これは、機械の状態を常に見ていて、壊れそうなサインを見つけたら、その時に応じて修理や部品交換をする方法です。これは、「状態監視保全」と同じ意味で使われています。

従来、日本の工場や設備では、原子力に限らず、一定期間ごとに定期的に保守を行う「時間基準保全」が主流でした。しかし、この方法だと、設備が実際に壊れそうかどうか関係なく修理などを行うため、無駄な作業や費用が発生したり、作業中のミスが起こりやすくなるなどの問題点が指摘されていました。

このような問題に対して、欧米では、設備の状態をよく見て、故障の兆候があれば対応する「状態基準保全」を早くから取り入れており、原子力発電所でも導入されています。その結果、修理費用が減り、故障を事前に防ぐことで事故が減り、発電所を長い時間稼働できるようになり、大きな経済効果が証明されています。

そこで、日本の原子力発電所でも、従来の時間基準保全と合わせて、状態基準保全を取り入れることになりました。状態基準保全を行う際には、設備の重要度を考慮して、どのような方法で、どの程度の頻度で修理や点検を行うか計画することになっています。

従来の保守手法とその課題

従来の保守手法とその課題

日本の産業設備においては、長年にわたり、時間の経過を基準に定期的に保守を行う時間基準保全が一般的な手法として採用されてきました。これは、あらかじめ定められた期間や稼働時間ごとに、部品の交換や設備全体の点検を実施するというものです。
例えば、工場の機械であれば、3ヶ月に一度、あるいは、稼働時間が1000時間に達するごとに、部品交換や点検を行うといった具合です。
しかし、この時間基準保全には、いくつかの問題点が指摘されています。
一つは、設備の実際の状態を考慮せずに、機械的に保守を行ってしまうという点です。まだ十分に使える状態の部品であっても、決められた時期が来れば交換となるため、資源の無駄遣いやコスト増加につながりかねません。
さらに、必要以上の分解点検は、設備への負荷を増大させ、結果的に寿命を縮めてしまうというリスクもはらんでいます。人が頻繁に機械を分解し、部品を交換することは、一見、丁寧な保守のように思えますが、実際には、その過程で新たな故障を招いたり、部品の劣化を早めてしまう可能性もあるのです。

項目 内容
従来の保守手法 時間基準保全
定義 あらかじめ定められた期間や稼働時間ごとに、部品の交換や設備全体の点検を実施する。
・3ヶ月に一度の部品交換や点検
・稼働時間1000時間ごとの部品交換や点検
問題点 ・設備の状態に関わらず、機械的に保守を行うため、資源の無駄やコスト増加につながる可能性がある。
・必要以上の分解点検は、設備への負荷を増大させ、寿命を縮めるリスクがある。

状態基準保全:新しい保守の概念

状態基準保全:新しい保守の概念

– 状態基準保全新しい保守の概念

状態基準保全とは、従来の時間基準保全のように、決まった時期に一律に保守を行うのではなく、機器や設備の状態を常に把握し、その状態変化に基づいて適切なタイミングで必要なだけの保守を行う手法です。これは、人間の健康管理に例えられます。定期的な健康診断だけで安心するのではなく、日々の体調や健康状態を把握し、その変化に応じて必要な医療措置を受けることで、健康を維持することに似ています。

具体的な方法としては、センサーや診断技術を用いて設備の状態を常時監視します。例えば、振動、温度、圧力、音、油の状態などを測定し、これらのデータから設備の劣化や異常の兆候を早期に発見します。そして、異常の兆候が見られた場合にのみ、必要な保守作業を実施します。

この状態基準保全には、従来の時間基準保全に比べて、以下のような利点があります。

* 無駄な保守作業を減らし、設備の長寿命化につながります。
* 突発的な故障を未然に防ぎ、設備の稼働率向上に貢献します。
* 部品交換の最適化により、保全コストを削減できます。

状態基準保全は、特に原子力発電のように高い安全性が求められるプラントにおいて、その重要性を増しています。状態を的確に把握し、適切なタイミングで適切な保守を実施することで、安全かつ安定的なエネルギー供給に貢献します。

手法 説明 利点
状態基準保全 機器や設備の状態を常に把握し、その状態変化に基づいて適切なタイミングで必要なだけの保守を行う手法。
センサーや診断技術を用いて設備の状態を常時監視し、異常の兆候が見られた場合にのみ、必要な保守作業を実施する。
  • 無駄な保守作業を減らし、設備の長寿命化
  • 突発的な故障を未然に防ぎ、設備の稼働率向上
  • 部品交換の最適化により、保全コストを削減
時間基準保全 決まった時期に一律に保守を行う従来の手法

状態基準保全のメリット

状態基準保全のメリット

– 状態基準保全のメリット

従来の時間基準保全では、定期的に設備のメンテナンスを実施していました。これは、まだ使える部品を交換してしまう可能性や、逆に故障の兆候を見逃し、重大な事故につながるリスクも孕んでいました。

一方、状態基準保全では、設備の状態を常時監視し、そのデータに基づいてメンテナンスの必要性を判断します。具体的には、温度や振動、音、油の状態などをセンサーで計測し、異常があれば必要なタイミングで部品交換や修理を行います。

この方法には、多くのメリットがあります。まず、無駄な部品交換や整備を減らせるため、コスト削減につながります。また、故障の兆候を早期に発見し、重大な故障を未然に防ぐことで、工場の安定稼働につながり、結果として生産性の向上にも貢献します。さらに、部品の寿命を最大限に活用できるため、資源の有効活用にもつながります。

このように状態基準保全は、経済性、安全性、環境保全の観点からも、従来の方法より優れた保全体系と言えるでしょう。

保全方式 内容 メリット デメリット
時間基準保全 定期的なメンテナンス – 定期的なメンテナンスにより、突発的な故障をある程度予防できる。 – まだ使用可能な部品を交換してしまう可能性がある。
– 故障の兆候を見逃し、重大な事故につながるリスクがある。
状態基準保全 設備の状態を常時監視し、データに基づいてメンテナンスを実施 – 無駄な部品交換や整備を減らせる。
– 故障の兆候を早期に発見し、重大な故障を未然に防ぐ。
– 部品の寿命を最大限に活用できる。
– センサーの設置など、初期費用がかかる場合がある。
– 常時監視システムの構築やデータ分析など、専門的な知識や技術が必要となる。

原子力発電所における導入状況

原子力発電所における導入状況

– 原子力発電所における導入状況近年、欧米を中心に、様々な産業において、設備の劣化状態を定期的に診断し、その結果に基づいて保全を行う「状態基準保全」が普及しています。この手法は、従来の時間に基づいて定期的に保全を行う「時間基準保全」と比較して、設備の寿命を最大限に活用できることや、保全コストを削減できることなど、多くの利点があると考えられています。
原子力発電所においても、設備の安全性や信頼性をより一層向上させるために、状態基準保全の導入が進められています。

日本では、原子力発電所を含む多くの産業で、長年時間基準保全が採用されてきました。その一方で、近年では、状態基準保全の考え方を段階的に取り入れ、より効率的かつ効果的な保全体制の構築を目指しています。特に、原子力発電所においては、安全上重要な機器や、故障した場合にプラント全体に大きな影響を及ぼす可能性のある機器に対して、状態基準保全の導入が検討されています。

状態基準保全の導入により、設備の状態を常時把握することで、故障の未然防止や計画的な補修・交換が可能となります。これにより、設備の長寿命化、保全費用の低減だけでなく、突発的な設備の停止リスクを低減し、安定的な電力供給にも貢献できると期待されています。

しかし、状態基準保全を導入するためには、高度な診断技術やデータ分析の専門知識、設備の状態を適切に評価するための基準などが必要となります。そのため、日本国内においては、状態基準保全の導入に向けた技術開発や人材育成、評価基準の整備などが重要な課題となっています。

項目 内容
背景 欧米を中心に、設備の状態に基づいて保全を行う「状態基準保全」が普及。
従来の「時間基準保全」と比較し、設備の長寿命化や保全コスト削減などの利点あり。
原子力発電所への導入状況 安全性・信頼性向上のため、状態基準保全の導入が進む。
日本では、時間基準保全から状態基準保全への段階的な移行を図っている。
特に、安全上重要な機器やプラント全体への影響が大きい機器への導入を検討。
メリット ・設備の状態把握による故障の未然防止
・計画的な補修・交換による設備の長寿命化
・保全費用低減
・突発的な設備停止リスクの低減
・安定的な電力供給への貢献
課題 高度な診断技術、データ分析の専門知識、設備の状態評価基準の整備などが必要。
技術開発、人材育成、評価基準の整備が課題。

今後の展望

今後の展望

– 今後の展望

状態基準保全は、設備の状態を常に監視し、その状態に基づいて保守を行うことで、従来の時間基準保全よりも効率的かつ効果的に設備の健全性を維持できる手法として注目されています。近年、情報通信技術の急速な発展に伴い、状態基準保全はIoTやAIなどの最新技術と融合することで、更なる進化を遂げようとしています。

例えば、原子力発電所の様々な場所に設置されたセンサーから集められた膨大な運転データは、IoT技術によってリアルタイムで収集・蓄積されます。そして、蓄積されたデータはAI技術によって自動的に分析されることで、従来の人間の目視 inspection では見つけるのが困難であった、僅かな異常兆候も、高い精度で検知することが可能になります。さらに、AIは過去の運転データや機器の劣化メカニズムに関する知見を学習することで、将来の設備の状態を予測し、適切な保守時期を自動的に予測することも可能にします。

このように、状態基準保全にIoTやAIなどの技術革新を組み合わせることで、原子力発電所の安全性と信頼性をこれまで以上に高め、より効率的な運用を実現することが期待されています。将来的には、人間の作業負担を軽減し、より高度な安全性確保に貢献する技術として、その役割がますます重要性を増していくと考えられます。

技術 効果
IoT センサーデータのリアルタイム収集・蓄積
AI
  • 膨大なデータの自動分析による異常兆候の検知
  • 過去のデータと劣化メカニズムに基づく、適切な保守時期の自動予測