原子炉の安全性を高めるGEMとは

原子炉の安全性を高めるGEMとは

電力を見直したい

先生、GEMって原子力発電の安全装置の一つですよね?でも、それがどうやって原子炉を安全に保つのか、よくわかりません。

電力の研究家

いい質問ですね。GEMは、原子炉で冷却材が失われた際に、炉の出力上昇を抑える仕組みです。冷却材がなくなると、GEMの中のガスが膨張します。

電力を見直したい

ガスが膨張するとどうなるんですか?

電力の研究家

膨張したガスは、炉心の中を通る中性子の動きを妨げます。中性子は核分裂を起こすのに必要なものですから、動きを妨げられると、核分裂が減って出力も下がります。これがGEMの仕組みです。

GEMとは。

原子力発電所で使われる高速炉には、事故が起きても深刻な事態にならないように色々な工夫が凝らされています。その一つに「GEM」という装置があります。これは、アメリカ合衆国にあるアルゴンヌ国立研究所が開発した「PRISM」という新しいタイプの高速炉に搭載された仕組みです。GEMは「ガス膨張機構」の略称で、簡単に言うと、ガスを膨らませたり縮ませたりすることで炉内の熱をコントロールする装置です。

炉内では冷却材と呼ばれる液体金属が循環して熱を運び出していますが、もしもの事故で冷却材が失われてしまうと、炉内の熱暴走の危険性があります。このような事態を防ぐために、GEMは冷却材の流量が減るとガスを膨張させます。膨張したガスは炉心内の空間を広くすることで、中性子が炉心から外に逃げやすくします。中性子が減ると核分裂反応も抑えられるため、炉内の温度が上がりすぎるのを防ぐことができるのです。

革新的な高速炉PRISM

革新的な高速炉PRISM

原子力発電の安全性をより高めるために、世界中で様々な技術開発が進められています。中でも注目されている技術の一つに、高速炉と呼ばれる原子炉があります。アメリカ合衆国にあるアルゴンヌ国立研究所が開発を進めていたPRISMも、この高速炉の一種です。PRISMは、従来の原子力発電所で広く使われている軽水炉とは異なり、冷却材に水ではなく液体ナトリウムを使用していることが大きな特徴です。

軽水炉では、燃料であるウランを核分裂させて熱エネルギーを取り出す際に、水を使用しています。一方、PRISMのような高速炉では、液体ナトリウムを冷却材として使用します。液体ナトリウムは水に比べて熱を伝える能力が高く、より高い温度で冷却することができます。このため、PRISMは従来の軽水炉よりも高い熱効率で発電することが可能となります。さらに、PRISMは液体ナトリウムの優れた熱伝導特性を活かすことで、原子炉の運転をより安定的に行うことができ、安全性も向上すると期待されています。

PRISMは革新的な原子炉設計として注目されましたが、残念ながら実用化には至っていません。しかしながら、PRISMで培われた高速炉技術は、将来の原子力発電の安全性向上や効率化に貢献する可能性を秘めています。

項目 軽水炉 高速炉 (PRISM)
冷却材 液体ナトリウム
熱効率 低い 高い
安全性 従来型 向上に期待
実用化 済み 未達

GEM:安全性を支える重要な機構

GEM:安全性を支える重要な機構

– GEM安全性を支える重要な機構原子力発電において、安全確保は最も重要な要素です。革新的な原子炉として期待されるPRISMにも、万が一の事態に備え、幾重もの安全対策が講じられています。その中でも、GEM(ガス膨張機構)は、炉心の安全を維持する上で極めて重要な役割を担っています。GEMは、その名の通りガスを用いた安全装置です。通常運転時は、GEM内に設置された中性子吸収材によって原子炉の出力が適切に制御されています。しかし、炉心冷却材の流量が何らかの要因で低下した場合、GEMは自動的に作動します。GEM内部には、熱に反応して体積が変化する特殊な金属が封入されています。冷却材流量の低下を感知すると、この金属が熱の影響で膨張し、中性子吸収材を炉心から引き離します。 中性子吸収材が炉心から離れることで核分裂反応が抑制され、原子炉の出力が安全なレベルまで低下します。GEMの優れた点は、外部からの電力供給や人為的な操作を一切必要とせずに、受動的に作動することです。これは、地震や津波など、予期せぬ外部事象が発生した場合でも、確実に炉心の安全を確保できることを意味します。このように、GEMは、PRISMの安全性を支える上で欠かせない機構であり、原子力発電の安全性向上に大きく貢献するものと言えるでしょう。

機構 作動条件 作動原理 結果
GEM
(ガス膨張機構)
炉心冷却材の流量低下時 1. GEM内の特殊金属が熱で膨張
2. 中性子吸収材を炉心から引き離し
核分裂反応が抑制され、原子炉の出力が低下

GEMの仕組みと働き

GEMの仕組みと働き

原子力発電所では、万が一、冷却材の循環が失われた場合でも、安全に炉を停止させる仕組みが備わっています。GEM(ガス膨張モジュール)もその一つで、一次冷却系ポンプの吐出圧力の変化を巧みに利用して、炉内の出力を制御する装置です。

GEMの内部には、中性子を吸収しにくい性質を持つガスが封入されています。通常運転時は、冷却材の圧力によってこのガスは圧縮された状態にあります。しかし何らかの原因で冷却材の流量が失われると、ポンプの吐出圧力が低下し、GEM内のガスが膨張を始めます。このガスの膨張は、原子炉の出力調整に重要な役割を果たします。なぜなら、ガスが膨張することで中性子が炉心から周囲のブランケットや反射体の方へ移動しやすくなり、核分裂の連鎖反応が抑制されるからです。これは、例えるなら、部屋の中でボールを投げ合うときに、人が増えるとボールがぶつかりにくくなるのと同じような現象です。

このようにGEMは、冷却材の喪失という異常事態においても、ガスの膨張という物理現象を利用して受動的に炉心を制御し、原子炉の出力を安全に低下させる重要な役割を担っています。

状態 冷却材圧力 GEM内ガス 中性子の動き 出力
通常運転時 圧縮 炉心内で核分裂反応 一定
冷却材喪失時 膨張 炉心外へ移動しやすくなる 低下

負のボイド反応度とGEMの関係性

負のボイド反応度とGEMの関係性

原子炉の安全性を語る上で、冷却材の挙動と反応度の関係は非常に重要です。反応度とは、原子炉内の核分裂の連鎖反応がどれくらい持続するかを示す指標であり、冷却材の密度変化によってこの反応度は影響を受けます。この影響の程度をボイド反応度と呼び、冷却材の密度が低下すると反応度も低下する場合、これを「負のボイド反応度」と呼びます。
高速炉の一種であるPRISMは、冷却材の密度が低下すると反応度も低下する、つまり負のボイド反応度を持つように設計されています。これは、万が一、冷却材喪失事故などが発生した場合でも、核分裂の連鎖反応を抑制し、原子炉の出力を安全に低下させるための重要な安全設計です。
GEM(ガス膨張モジュール)は、この負のボイド反応度をさらに強化するために設置される装置です。GEMは、原子炉内で冷却材の密度が低下すると、内部のガスが膨張することで中性子を吸収し、核分裂の連鎖反応をより抑制する働きをします。 つまりGEMは、冷却材喪失時の安全性をより高めるための、二重三重の安全装置として機能していると言えます。

項目 説明
反応度 原子炉内の核分裂の連鎖反応がどれくらい持続するかを示す指標。冷却材の密度変化による影響を受ける。
ボイド反応度 冷却材の密度変化が反応度に与える影響の程度。
負のボイド反応度 冷却材の密度が低下すると反応度も低下する性質。冷却材喪失時の安全性を高める。
PRISM 負のボイド反応度を持つように設計された高速炉の一種。冷却材喪失時でも核分裂の連鎖反応を抑制し、原子炉の出力を安全に低下させる。
GEM(ガス膨張モジュール) 負のボイド反応度をさらに強化するために設置される装置。冷却材の密度低下時にガスが膨張し中性子を吸収、核分裂の連鎖反応を抑制する。

さらなる安全性の追求に向けて

さらなる安全性の追求に向けて

原子力発電は、地球温暖化対策の切り札として期待されていますが、その安全性については、依然として国民の皆様の懸念があります。これらの懸念を払拭し、原子力発電に対する信頼を回復するためには、従来の技術の延長線上ではない、抜本的に安全性を向上させた革新的な原子炉の開発が不可欠です。

ガス冷却高速炉(GEM)は、こうした背景のもと、産学官の英知を結集して開発が進められてきた夢の原子炉です。GEMは、従来の原子炉とは異なるメカニズムを採用することで、炉心溶融事故の発生確率を限りなくゼロに近づけることを目指しています。また、運転中の放射性物質の放出量も大幅に低減できるなど、安全性において飛躍的な進歩を遂げている点が特徴です。

GEMの開発は、2010年に開始された革新的な原子炉の研究開発プロジェクトの一環として、電力会社やメーカー、大学などが連携して取り組みを進めてきました。しかしながら、開発コストや電力需要の低迷などを背景に、2016年に実証炉の開発計画は中断されました。

GEMの実証炉開発は中断されましたが、GEMで培われた高い安全性に関する設計思想は、将来の原子炉開発においても重要な指針となるでしょう。原子力発電が、持続可能な社会を実現するためのエネルギー源として、真にその役割を果たしていくためには、GEMのような革新的な技術開発を、粘り強く継続していくことが重要です。

項目 内容
概要 原子力発電の安全性向上のため、革新的な原子炉の開発が求められている。
GEMの特徴 – 炉心溶融事故発生確率を限りなくゼロに近づける
– 運転中の放射性物質放出量を大幅に低減
GEMの開発状況 – 2010年:革新的な原子炉の研究開発プロジェクト開始
– 2016年:実証炉の開発計画は中断(開発コスト、電力需要低迷等が要因)
今後の展望 GEMの開発で培われた高い安全性に関する設計思想は、将来の原子炉開発の重要な指針となる。