原子炉を守る鉄水遮蔽体

原子炉を守る鉄水遮蔽体

電力を見直したい

先生、「鉄水遮蔽体」って、鉄板と水を重ねたものだってことはわかったんですけど、なんで鉄と水を使う必要があるんですか?

電力の研究家

いい質問ですね! 原子炉から出る放射線には、 mainly中性子とγ線って呼ばれるものがあるんだけど、この2つを効率よく遮る必要があるんだ。そこで、中性子を遮るのが得意な軽い元素、つまり水と、γ線を遮るのが得意な重い元素、つまり鉄を組み合わせているんだよ。

電力を見直したい

なるほど!それで鉄と水を使う必要があるんですね。ところで、鉄板と水を重ねるだけで、そんなに放射線を遮ることができるんですか?

電力の研究家

鉄水遮蔽体は、ただ重ねるだけじゃなくて、その厚さや水の量なども計算して設計されているんだ。例えば、新型転換炉「ふげん」や原子力船「むつ」では、鉄水遮蔽体の厚さは数メートルにもなるんだよ!このように、鉄と水を組み合わせた遮蔽体を適切な厚さで使うことで、原子炉から出る放射線を十分に遮ることができるんだ。

鉄水遮蔽体とは。

「鉄水遮蔽体」は、原子力発電で使われる言葉で、放射線を遮るためのものです。鉄の板と水を幾重にも重ねて作られています。原子炉の中心から外に漏れる放射線は、ほとんどが中性子とガンマ線と呼ばれるものなので、これらを遮る必要があります。そこで、中性子を遮るのが得意な軽い物質である水と、ガンマ線を遮るのが得意な重い物質である鉄を組み合わせた「鉄水遮蔽体」が使われます。「ふげん」という新型転換炉の炉心部にあるカランドリアタンクの周りや、「むつ」という原子力船の原子炉容器の胴体の周りなどに、この「鉄水遮蔽体」が使われています。この遮蔽体に使われている水は、ガンマ線によって熱くなった鉄板の温度を下げる役割も担っています。

鉄と水で放射線を防ぐ

鉄と水で放射線を防ぐ

原子力発電は、ウランという物質の核分裂反応を利用して膨大な熱エネルギーを生み出し、その熱で蒸気を作ってタービンを回し、電気を作り出すシステムです。しかし、この核分裂反応では、熱エネルギーだけでなく、人体に harmful な影響を及ぼす強力な放射線も発生します。この放射線から作業員や周辺住民を守るためには、原子炉を頑丈な構造で囲い、放射線が外に漏れないようにする必要があります。そこで重要な役割を担うのが、鉄水遮蔽体と呼ばれる特殊な構造です。

鉄水遮蔽体は、鉄の板と水を交互に重ねた多層構造になっています。鉄は、比重が大きく、放射線を遮る能力が高い物質です。特に、放射線のうち、透過力が強いガンマ線を効果的に吸収することができます。一方、水も放射線を遮蔽する効果があり、特に、中性子と呼ばれる粒子に対して有効です。さらに、水は熱を吸収する能力も高く、原子炉から発生する熱を冷却する役割も担っています。

このように、鉄水遮蔽体は、鉄と水、それぞれの物質が持つ特性を活かすことで、原子炉から発生する放射線を効果的に遮蔽し、安全性を確保する上で重要な役割を担っているのです。

構成要素 特徴 役割
– 比重が大きい
– 放射線を遮る能力が高い
– 特にガンマ線を効果的に吸収
放射線、特にガンマ線を遮蔽する
– 放射線を遮蔽する効果がある
– 特に中性子に対して有効
– 熱を吸収する能力が高い
– 放射線、特に中性子を遮蔽する
– 原子炉から発生する熱を冷却する

中性子とガンマ線を止める

中性子とガンマ線を止める

原子力発電所の中心である原子炉の中では、ウランやプルトニウムといった重い原子核が核分裂を起こし、膨大なエネルギーを放出しています。この時、エネルギー以外にも目に見えない放射線と呼ばれるものも放出されます。放射線には様々な種類がありますが、原子炉から放出される主なものとしては中性子とガンマ線があげられます。中性子は電気を帯びていないため、物質の奥深くまで入り込む性質があります。一方、ガンマ線は波長が非常に短い電磁波であり、中性子ほどではありませんが物質を透過する能力が高いです。

原子力発電所では、これらの放射線が外部に漏れ出すことを防ぐため、様々な遮蔽対策が施されています。その中でも、中性子とガンマ線を効果的に遮蔽するのが鉄水遮蔽体です。鉄水遮蔽体は、文字通り鉄と水からなる遮蔽体です。中性子を遮蔽するためには、水素原子のように軽い原子核を持つ物質が有効です。これは、中性子が軽い原子核と衝突すると、自身のエネルギーを大きく失うためです。鉄水遮蔽体では、水素を豊富に含む水が中性子のエネルギーを効率的に吸収します。一方、ガンマ線を遮蔽するためには、鉄のように密度が高く、重い原子核を持つ物質が有効です。ガンマ線は重い原子核と衝突すると、徐々にエネルギーを失っていくためです。鉄水遮蔽体では、鉄がガンマ線のエネルギーを効果的に減衰させます。このように、鉄水遮蔽体は、鉄と水のそれぞれの特性を活かすことで、中性子とガンマ線の両方を効果的に遮蔽しています。原子力発電所の安全性を確保する上で、鉄水遮蔽体は非常に重要な役割を担っていると言えるでしょう。

放射線 特徴 遮蔽方法
中性子 電気を帯びておらず、物質の奥深くまで入り込む 水素原子のように軽い原子核を持つ物質と衝突させエネルギーを吸収させる(例:水)
ガンマ線 波長が非常に短い電磁波で物質を透過する能力が高い 鉄のように密度が高く、重い原子核を持つ物質と衝突させエネルギーを減衰させる(例:鉄)

鉄と水の協力体制

鉄と水の協力体制

原子力発電所の中核である原子炉は、運転中に大量の中性子やガンマ線といった放射線を発生させます。そこで、この放射線から作業員や周辺環境を守るために、鉄と水を組み合わせた遮蔽体が重要な役割を担っています。

鉄水遮蔽体は、それぞれの物質が持つ特性を最大限に活かすことで、高い遮蔽効果を発揮します。まず、水は中性子を減速・吸収させる能力に優れています。原子炉から放出された高速の中性子は、水分子と衝突を繰り返すことでエネルギーを失い、速度が低下します。そして、速度が遅くなった中性子は、水分子に吸収されやすくなるのです。

一方、鉄は減速された中性子やガンマ線を遮蔽する能力が高い物質です。鉄は原子番号が大きく、密度も高いため、放射線が鉄原子に衝突し、そのエネルギーを失うことで、放射線の透過を防ぐ効果があります。

さらに、水は遮蔽体としての役割に加えて、鉄板がガンマ線によって加熱されるのを防ぐ冷却材としての役割も担っています。ガンマ線はエネルギーが高いため、物質に吸収されると熱に変わります。水は熱を吸収しやすい性質を持つため、鉄板の温度上昇を抑え、遮蔽体の性能を維持するのに貢献しているのです。

このように、鉄と水は互いの特性を活かし、補い合うことで、原子炉を放射線から安全に守るという重要な役割を果たしているのです。

材料 役割 詳細
中性子の減速・吸収
冷却
– 水分子との衝突により中性子を減速
– 熱中性子の吸収
– ガンマ線による鉄板の加熱を抑える
減速された中性子とガンマ線の遮蔽 – 高い原子番号と密度による遮蔽効果

新型転換炉「ふげん」での活躍

新型転換炉「ふげん」での活躍

新型転換炉「ふげん」は、将来の原子力発電の在り方として期待された、ウラン資源をより効率的に活用できる炉型でした。1979年から2003年までの間、福井県敦賀市で運転され、その安全運転に鉄水遮蔽体が大きく貢献しました。「ふげん」の炉心はカランドリアタンクと呼ばれる大きな容器に収められており、その周囲を鉄と水が交互に配置された遮蔽体が囲んでいました。
鉄は中性子を吸収し、水は中性子を減速させながら吸収する性質を持つため、鉄と水を組み合わせることで効率的に放射線を遮蔽することができました。これは、従来の軽水炉で一般的に用いられるコンクリート遮蔽体に比べて、遮蔽体の厚さを大幅に減らすことができ、炉の小型化に寄与しました。
「ふげん」は、新型転換炉の技術実証という重要な役割を終え、2003年に運転を終了しました。現在、日本は高速増殖炉の実用化に向けて研究開発を進めていますが、「ふげん」で培われた鉄水遮蔽体を含む技術は、将来の原子力発電の安全確保に活かされていくと考えられます。

項目 内容
炉型 新型転換炉
運転期間 1979年~2003年
場所 福井県敦賀市
特徴 ウラン資源の効率的活用

鉄水遮蔽体による小型化
鉄水遮蔽体の仕組み 鉄が中性子を吸収、水が中性子を減速させながら吸収することで放射線を効率的に遮蔽
今後の展望 「ふげん」で培われた技術は、将来の高速増殖炉の安全確保に活かされる見込み

原子力船「むつ」でも採用

原子力船「むつ」でも採用

原子力船「むつ」は、世界で初めて原子力を動力源として建造された貨物船です。1974年に進水し、将来の日本の海上輸送を担う船として大きな期待が寄せられていました。「むつ」の心臓部である原子炉には、安全性を高めるために、鉄と水を交互に重ねた鉄水遮蔽体が採用されていました。これは、原子炉から発生する放射線を効果的に遮蔽する役割を担っていました。しかし、1974年9月、実験航海中に原子炉から放射線が漏れるという事故が発生しました。幸いなことに、鉄水遮蔽体がその役割をしっかりと果たしたため、大事故には至らずに済みました。この事故は、原子力船の安全性を改めて問う大きな契機となりました。その後、「むつ」は原子力船としての役目を終え、現在は原子力技術の普及啓発を目的とした施設として活用されています。青森県むつ市にある「むつ科学技術館」では、「むつ」が当時のままの姿で展示されており、その雄姿を見ることができます。訪れた人々は、原子力技術の歴史と未来について考える貴重な機会を得ることができるでしょう。

項目 内容
船名 むつ
種類 原子力貨物船
進水年 1974年
原子炉の特徴 鉄と水を交互に重ねた鉄水遮蔽体
1974年の事故 実験航海中に原子炉から放射線漏れ
事故の影響 大事故には至らず
原子力船の安全性を問う契機に
現在の状況 原子力技術の普及啓発を目的とした施設として活用
青森県むつ市の「むつ科学技術館」で展示