晩発障害

放射線について

トロトラスト:過去に利用された造影剤とその影

- かつての万能薬1930年代から1940年代にかけて、医療の世界に新たな光をもたらす薬が現れました。それは「トロトラスト」という名の、X線診断用の造影剤です。 特に血管を鮮明に映し出す能力に優れており、当時の医療技術においてはまさに画期的な発明でした。 医師たちはこれまで見えなかった血管の状態を詳細に把握することができるようになり、診断の精度が飛躍的に向上したのです。患者にとっても、自身の体の奥底で何が起きているのかをよりはっきり知ることができるようになり、より的確な治療を受けられるという希望が持てるようになりました。 まさにトロトラストは、当時の医療現場において万能薬のように思われたのです。しかし、この画期的な薬には、後に大きな影を落とすこととなる、恐ろしい秘密が隠されていたのです。
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多分割照射:副作用を抑えつつ効果を高める放射線治療

- 多分割照射とは放射線治療は、がん細胞に放射線を照射して死滅させる治療法ですが、正常な細胞にも影響を与える可能性があります。そこで、治療の効果を高めつつ、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えるために、さまざまな照射方法が開発されてきました。その一つが多分割照射です。従来の一括照射では、必要な放射線量を一度に照射していました。これに対して多分割照射では、1回の照射量を少なくし、照射回数を増やすことで、総治療期間は従来とほぼ同じ期間を維持しながら、腫瘍に多くの線量を照射することが可能となります。具体的には、一括照射では数回で治療を終えていたところを、多分割照射では数週間から数ヶ月に渡って、毎日、あるいは週に数回、照射を行います。この方法の利点は、正常な細胞が放射線のダメージから回復する時間を与えながら、腫瘍細胞へダメージを蓄積できる点にあります。多分割照射では、総線量は一括照射と比較して10〜20%増加しますが、晩期障害と呼ばれる、治療後数年から数十年経ってから現れる副作用のリスクを低減できることが知られています。また、腫瘍によっては、従来の一括照射よりも、多分割照射の方が治療効果が高いという報告もあります。このように、多分割照射は、放射線治療における重要な技術の一つであり、がん患者にとってより安全で効果的な治療を提供するための重要な役割を担っています。
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原子力発電と晩発障害:将来に影を落とすリスク

- 放射線被ばくによる晩発障害とは原子力発電は、私たちの暮らしに欠かせない電気を供給してくれる一方で、放射線被ばくという危険な側面も持ち合わせています。放射線は目に見えず、臭いもしないため、被ばくしたことに気づかない場合もあります。放射線被ばくによる健康への影響は、被ばくした量や時間、身体の部位によって様々ですが、特に注意が必要なのが「晩発障害」と呼ばれるものです。晩発障害とは、放射線を浴びてから症状が現れるまでに長い年月を要する障害のことを指します。放射線は細胞の遺伝子を傷つける性質があり、その傷ついた細胞が長い年月をかけてがん細胞へと変化することで、白血病や固形がんといった病気を発症するリスクが高まります。晩発障害は、被ばくしてから数年後、あるいは数十年後に発症することもあり、将来にわたり健康に影を落とす可能性を秘めているのです。具体的には、骨髄に影響が及べば白血病、甲状腺に影響が及べば甲状腺がん、肺に影響が及べば肺がんなど、身体の様々な部位でがんが発生するリスクが高まります。また、白内障や不妊症といった病気のリスクも高まるとされています。晩発障害のリスクを低減するためには、放射線からの防護が何よりも重要です。原子力発電所では、放射線被ばくを最小限に抑えるための様々な対策が講じられています。私たち一人ひとりが放射線被ばくについて正しく理解し、安全に対する意識を高めていくことが大切です。