
電子スピン共鳴:物質のミクロ構造を探る
- 電子スピン共鳴とは
物質を構成する原子は、中心にある原子核とその周りを回る電子から成り立っています。電子は自転しており、この自転運動によって小さな磁石としての性質を持ちます。これを電子のスピンと呼びます。
通常、物質中の電子は2つずつペアになり、互いのスピンによる磁力が打ち消し合っています。しかし、ラジカルや遷移金属イオンといった物質中では、ペアになっていない電子、すなわち不対電子が存在します。不対電子は打ち消されない磁力を持つため、物質全体が微小な磁石としての性質を持つようになります。
電子スピン共鳴(ESR)は、この不対電子の磁気的な性質を利用して、物質の構造や性質を調べる分析方法です。具体的には、外部から磁場をかけると、不対電子のエネルギー準位が二つに分裂します。この状態にマイクロ波を照射すると、不対電子は特定の周波数のマイクロ波を吸収し、低いエネルギー準位から高いエネルギー準位へと遷移します。この現象を共鳴と呼びます。
マイクロ波の共鳴周波数や吸収される強度は、不対電子を取り巻く環境、つまり物質の構造や電子状態によって微妙に変化します。ESRはこの変化を精密に測定することで、物質の構造や化学結合の状態、反応における中間生成物などを原子レベルで明らかにします。そのため、化学、物理、生物、医学、材料科学など幅広い分野で利用されています。