遺伝線量

放射線について

最大許容遺伝線量:過去の概念とその変遷

- 最大許容遺伝線量の定義最大許容遺伝線量とは、過去の国際放射線防護委員会(ICRP)が提唱した概念で、放射線による子孫への影響を考慮した線量限度のことです。これは、被ばくの影響が将来世代に及ぶことを防ぐために設定されました。従来の被ばく線量限度は、個人が生涯にわたって浴びても健康に影響が出ないと考えられる量を基準に定められていました。しかし、放射線は遺伝物質であるDNAに損傷を与える可能性があり、その影響は次世代に遺伝する可能性も否定できません。そこで、個人単位ではなく、集団全体の遺伝的健康を守るために、最大許容遺伝線量が新たに導入されたのです。具体的には、1958年に発表されたICRP Publication 1の中で、30年間で5レム(50ミリシーベルト)という値が提示されました。これは、当時の個人に対する最大許容線量よりも低い値であり、子孫への影響を考慮した、より慎重な姿勢を示すものでした。しかし、その後の研究により、遺伝による放射線の影響は当初考えられていたよりも低い可能性が示唆されるようになりました。そのため、現在では最大許容遺伝線量という概念は用いられていません。ただし、放射線が生殖細胞に与える影響については、現在も研究が進められています。将来、新たな知見が得られれば、放射線防護の考え方が再び見直される可能性もあります。