「T」

核燃料

原子力発電の陰の立役者:TBP

- TBPとはTBPは、リン酸トリブチルの略称で、化学式は(C4H9)3PO4と表される有機化合物です。常温では、無色透明で、少し変わった匂いがする液体状の物質です。水にはほとんど溶けませんが、アルコールや灯油など、有機物からできている液体には非常によく溶けるという性質を持っています。 -80℃という非常に低い温度で凍り始め、289℃で沸騰します。 TBPは、このような特徴を活かして、原子力発電の分野で重要な役割を担っています。原子力発電では、核燃料のウランを再処理する過程で、ウランとプルトニウムを分離する必要があります。この分離の際に、TBPは抽出剤として使用されます。具体的には、使用済み核燃料を硝酸に溶かし、そこにTBPを混ぜることで、ウランとプルトニウムだけを選択的に取り出すことができます。このように、TBPは原子力発電の再処理工程において、ウランとプルトニウムの分離に欠かせない物質なのです。
核燃料

原子力発電の未来を切り開くTRADE計画

エネルギー資源の乏しい我が国において、高い発電効率と安定供給を両立できる原子力発電は、将来にわたって重要な役割を担うと考えられています。しかし、その一方で、原子力発電は放射性廃棄物の処理という課題を抱えています。放射性廃棄物は、その有害性のために厳重な管理と長期にわたる保管が必要とされ、そのことが原子力発電に対する社会的な懸念の一つとなっています。 こうした課題を克服し、原子力発電をより安全で持続可能なエネルギー源とするために、世界中で様々な研究開発が進められています。中でも注目されている技術の一つが、加速器駆動核変換システム(ADS)です。 ADSは、加速器を用いて生成した陽子を、重金属ターゲットに衝突させることで中性子を発生させ、その中性子を使って原子炉から排出される高レベル放射性廃棄物に含まれるマイナーアクチノイドと呼ばれる長寿命の放射性物質を、短寿命の核種あるいは安定核種に変換する技術です。この技術によって、放射性廃棄物の量を大幅に減らし、保管期間を短縮することが期待されています。 アメリカで進められてきたTRADE計画は、このADSの実現に向けた重要な研究計画の一つです。TRADE計画では、大強度の陽子加速器と鉛ビスマス冷却炉を組み合わせたADSの実験炉を建設し、マイナーアクチノイドの核変換を実証することを目指していました。 TRADE計画は2000年代初頭に開始され、概念設計や要素技術の開発が進められましたが、資金的な問題などから2011年に計画は中止となりました。しかし、TRADE計画で得られた研究成果は、その後のADS研究開発に大きく貢献しています。現在、世界各国でADSの研究開発が進められており、日本でも、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などで、ADSの実現に向けた研究が行われています。
原子力の安全

原子力安全の要: TRACYの役割

- 臨界事故を模擬するTRACY 原子力施設における安全確保のために、想定外の核分裂の連鎖反応が急激に進む臨界事故を模擬する実験装置、TRACY(過度臨界実験装置)が重要な役割を担っています。原子力施設では、発電の燃料となるウランやプルトニウムなどの核燃料を扱う際に、常に臨界事故のリスクがつきまといます。臨界事故が発生すると、大量の放射線や熱が発生し、作業員や周辺環境に深刻な被害をもたらす可能性があります。 TRACYは、このような万が一の事態に備え、実際の臨界事故を模擬的に発生させることで、事故の状況を詳細に把握し、より効果的な安全対策を立てるための実験データを取得することを目的としています。具体的には、ウランやプルトニウムなどの核燃料を溶液の形でTRACYの炉心に投入し、臨界状態を作り出すことで、様々な条件下における臨界事故の挙動を観測します。 TRACYで得られた実験データは、臨界事故時の放射線の放出量や温度変化、圧力変化などを分析するために活用されます。これらの分析結果に基づき、原子力施設の設計や運転手順の改善、事故時の緊急対応計画の策定などが進められ、より安全な原子力発電の実現に貢献しています。
核燃料

原子力発電の心臓部!TRISO型被覆燃料粒子

原子力発電所では、莫大なエネルギーを生み出すために、ウラン燃料を高温で長時間運転する必要があります。特に、高温ガス炉と呼ばれる種類の原子炉では、1000度を超える高温にさらされながらも、安定して運転を続けることが求められます。このような過酷な環境に耐えうる心臓部として活躍するのが、「TRISO型被覆燃料粒子」です。 TRISO型被覆燃料粒子は、直径1ミリメートルにも満たない小さな球状をしています。この小さな球の中に、ウラン燃料が何層もの特殊な材料で覆われています。それぞれの層は、高温や放射線による損傷から燃料を守る役割を担っています。 まず、中心部のウラン燃料を包むように、多孔質炭素層が配置されています。これは、核分裂によって発生するガスを吸収する役割を担います。その外側には、さらに緻密な炭化ケイ素層があり、燃料が外部に漏れるのを防ぐ役割を担います。さらに、その外側にも炭素層と炭化ケイ素層が重ねて配置されており、何重にも燃料を保護しています。 このように、TRISO型被覆燃料粒子は、小さな体に高度な技術が詰め込まれた、原子力発電を支える重要な部品と言えるでしょう。
その他

TIG溶接:高品質な溶接を実現する技術

- TIG溶接とはTIG溶接は、Tungsten Inert Gas weldingの頭文字を取ったもので、日本語ではタングステン不活性ガス溶接と呼ばれます。この溶接方法は、タングステンで作られた電極と溶接する金属の間にアークと呼ばれる電気の火花を発生させ、その熱を利用して金属同士を溶かし合わせるというものです。TIG溶接の最大の特徴は、溶接部の品質の高さとされています。その理由は、溶接を行う際にアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスを溶接部分に吹き付けることで、溶けている金属が空気中の酸素や窒素と反応することを防ぎ、酸化や窒化による強度低下を防ぐことができるためです。また、TIG溶接では、電極自体が溶けて母材と混ざるということがありません。これは、電極に非常に融点の高いタングステンを使用しているためです。 そのため、TIG溶接は他の溶接方法と比べて、非常に精密な溶接を行うことが可能です。これらの特徴からTIG溶接は、原子力発電所の配管のように、高い強度と精度が求められる箇所の溶接に適しています。原子力発電所では、わずかな欠陥も大きな事故につながる可能性があるため、TIG溶接の高い信頼性が不可欠と言えるでしょう。
放射線について

放射線を見守る光:TLDの仕組み

- 熱ルミネセンス線量計(TLD)とは? 私たちの身の回りには、目には見えないけれど、微量の放射線が常に飛び交っています。太陽や宇宙から降り注ぐ自然放射線や、レントゲン検査などで利用される人工放射線など、様々な放射線が私たちの生活空間には存在しています。 これらの放射線は、大量に浴びると人体に悪影響を及ぼす可能性がありますが、微量であれば通常は問題ありません。しかし、医療現場や原子力施設、研究機関など、放射線を扱う職場では、作業者や周囲の環境を守るために、日頃から厳重に放射線量を管理する必要があります。そこで活躍するのが、熱ルミネセンス線量計(TLD)です。 TLDは、物質に照射された放射線の量を蓄積し、後から加熱することで、蓄積された線量に比例した光として放出する現象を利用して、放射線量を測定する装置です。 小型で軽量、かつ電源を必要としないため、個人が身につけて作業中の被ばく線量を測定する個人線量計として広く利用されています。また、環境放射線の測定など、様々な分野でも活用されています。
原子力施設

幻の原子炉:THTR-300

- 夢の原子炉 「夢の原子炉」。それは、従来の原子炉が抱える問題を克服し、より安全で効率的なエネルギーを生み出す、人類の希望を託された存在でした。その夢を現実のものとするべく、ドイツで開発されたのが高温ガス炉「THTR-300」です。 高温ガス炉は、その名の通り高温のガスを用いて熱エネルギーを生み出す原子炉です。従来の原子炉と比べて、以下のような特徴から「夢の原子炉」と期待されていました。 まず、安全性です。高温ガス炉は、燃料をセラミックで覆い、さらに耐熱性の高い黒鉛でできた炉心に封じ込めています。この構造により、炉心溶融のリスクが大幅に低減されます。 次に、燃料効率です。高温ガス炉は、従来の原子炉よりも高い温度で運転することができます。そのため、より効率的に熱エネルギーを生み出し、発電効率の向上に繋がります。 THTR-300は、これらの利点を活かし、未来のエネルギー供給を担う存在として期待されていました。しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。技術的な課題や建設コストの増大など、様々な困難に直面することになります。
その他

宇宙のエネルギー単位:TeV入門

私たちの日常生活は、電気や熱などのエネルギーなしには成り立ちません。例えば、照明を灯したり、温かい食事を作ったり、車を走らせたりと、あらゆる場面でエネルギーが使われています。私たちが普段使うエネルギーの単位は、ジュール(J)やカロリー(cal)ですが、これはマクロな世界での尺度と言えます。目に見えないミクロの世界では、原子核や素粒子といった極めて小さなものが飛び交い、全く異なるエネルギーのスケールで動いています。 ミクロの世界のエネルギーを表す単位としてよく使われるのが、「エレクトロンボルト(eV)」です。1eVは、電子1個が1ボルトの電圧で加速されたときに得るエネルギーに相当します。電子は非常に小さな粒子なので、1eVというエネルギーも非常に小さなものになります。しかし、原子や分子といった極微の世界では、この1eVというエネルギーが重要な意味を持つのです。例えば、水素原子の最もエネルギーの低い状態(基底状態)と、次にエネルギーの高い状態(励起状態)とのエネルギー差は約10eVです。このように、エレクトロンボルトは、原子や分子のエネルギー準位、化学反応におけるエネルギー変化、光のエネルギーなどを表すのに便利な単位となっています。
核燃料

原子力発電とTRU廃棄物

- 原子力発電の仕組み 原子力発電は、ウランなどの原子核が核分裂を起こす際に生じる巨大なエネルギーを利用して電気を起こす発電方法です。 原子力発電所の中心には原子炉と呼ばれる装置があります。この原子炉の中で、ウラン燃料に中性子と呼ばれる小さな粒子がぶつかると、ウランの原子核が分裂します。この時、莫大な熱エネルギーと、新たな中性子が発生します。 この新たに生まれた中性子が、さらに別のウラン原子核にぶつかると、また核分裂が起こり、連鎖反応が続きます。この連鎖反応によって、原子炉内は高温に保たれます。 原子炉で発生した熱は、冷却材と呼ばれる水などの液体によって蒸気発生器に運ばれます。蒸気発生器では、冷却材の熱によって水が沸騰し、高温・高圧の蒸気が作られます。 この蒸気の力でタービンと呼ばれる羽根車を回し、タービンに連結された発電機を回転させることで電気が作られます。火力発電と異なり、発電する際に地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないという利点があります。
その他

カナダの気候変動対策プログラムTEAM

- TEAMプログラムの概要TEAMプログラム(Technology Early Action Measures)は、カナダ連邦政府が地球温暖化対策の一環として導入した、複数の省庁が連携して取り組む技術投資プログラムです。このプログラムの目的は、国内外で温室効果ガス排出量の削減に貢献できる技術開発を支援することにあります。TEAMプログラムは、単に新しい技術を開発するだけでなく、経済や社会の成長を持続させながら、温室効果ガス排出量の大幅な削減を可能にする可能性を秘めた、革新的な技術を特に重視しています。具体的には、実用化に近い段階にある技術を対象として、資金提供や技術的な支援などを行います。このプログラムは、カナダが世界全体の地球温暖化対策に積極的に貢献していく姿勢を示すものであり、環境保護と経済成長の両立を目指す、カナダ政府の重要な取り組みといえます。
その他

研究成果を社会へ!TLO法

- 技術移転の促進 1998年5月、それまで大学などの研究機関内で閉じがちだった優れた研究成果を、社会全体で広く活用し、経済や産業の発展に役立てていこうという目的で、画期的な法律が施行されました。それが「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」、通称TLO法です。 この法律は、大学や研究所などの研究機関が新しく生み出した技術や知識を、企業が受け取って実用化していく、いわゆる「技術移転」を促進するための法律です。具体的には、大学などの中にTLOと呼ばれる専門の機関を設立することを推進しています。TLOは「Technology Licensing Organization」の略で、日本語では「技術移転機関」と訳されます。 このTLOが、大学などの研究機関と民間企業との間に入って、橋渡し役を担います。例えば、企業にとって有益そうな研究成果を大学側から紹介したり、逆に企業から技術的な課題をヒアリングして、解決できそうな研究を行っている研究者を紹介するなど、様々な活動を行います。 TLO法の施行により、これまで以上に産学連携が促進され、日本の科学技術の発展と、それを活用した新産業の創出、ひいては経済の活性化が期待されています。
放射線について

TENR:高められた自然放射線とは?

私たちは、宇宙や大地など自然から常に放射線を浴びています。これは自然放射線と呼ばれ、ごく微量なので、通常は健康に影響を与えません。 しかし、人間の活動が原因で、この自然放射線のレベルが意図せずに高くなってしまうことがあります。これがTENR(Technologically Enhanced Natural Radiation)、日本語では「人為的に高められた自然放射線」です。 自然放射線は、ウランやトリウムといった放射性物質が崩壊する際に発生します。これらの放射性物質は、土壌や岩石の中にごく微量に含まれており、私たちはその影響を常に受けています。 一方、TENRは、人間の産業活動などによって、これらの放射性物質が環境中に濃縮・拡散されることで発生します。 例えば、石炭火力発電所からは、石炭の中に含まれるウランやトリウムが大気中に放出されます。また、リン鉱石から肥料を製造する過程でも、ウラン系列の放射性物質が副産物として発生し、土壌や水環境に蓄積していく可能性があります。 TENRは、自然放射線をわずかに高めるものの、健康にすぐに影響を与えるレベルではありません。しかし、長期間にわたる被ばくは、将来世代への影響も懸念されるため、その発生源や影響範囲を把握し、適切な管理を行うことが重要です。
核燃料

エネルギー問題の鍵、超ウラン元素の可能性

原子力発電の燃料として広く知られているウランですが、原子番号92番のウランよりもさらに原子番号の大きい元素が存在することをご存知でしょうか? これらの元素は、「超ウラン元素」と総称され、原子番号93番のネプツニウム以降の元素が該当します。超ウラン元素は、自然界にはごく微量しか存在しない非常に貴重な元素です。地球誕生時には存在したと考えられていますが、そのほとんどは長い年月を経て崩壊し、現在の地球上にはほとんど残っていません。 超ウラン元素は、ウランに中性子を照射するなどの原子核反応を利用した人工的な方法で作り出されます。例えば、原子力発電所などで使用されるウラン燃料が原子炉の中で中性子を吸収することによって、ごく微量のプルトニウムなどの超ウラン元素が生成されます。 超ウラン元素は、ウランとは異なる原子核の構造を持つため、それぞれ特有の性質を示します。これらの元素は、ウランよりもさらに多くのエネルギーを放出する可能性を秘めており、原子力分野以外でも、医療分野や工業分野など、様々な分野での応用が研究されています。 例えば、アメリシウム241は、煙感知器に利用され、カリホルニウム252は、がん治療など医療分野で利用されています。このように、超ウラン元素は、私たちの生活の様々な場面で活用され始めています。しかしながら、超ウラン元素は、放射能を持つため、その取り扱いには十分な注意が必要です。安全性を確保しながら、これらの元素の特性を最大限に活かすための研究開発が、世界中で進められています。
原子力の安全

スリーマイル島事故:教訓と未来への影響

- 事故の概要1979年3月28日、アメリカ合衆国ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所2号炉で、原子力発電所の歴史を大きく変える深刻な事故が発生しました。 この事故は、原子炉の冷却水喪失に端を発し、炉心の一部が溶融する炉心溶融に至るという、危機的な状況となりました。 事故の背景には、設計上の問題点と人間の操作ミスが複雑に絡み合っていたことが、後の調査によって明らかになっています。事故当日、原子炉内の冷却水の循環が何らかの原因で停止し、蒸気発生器への熱供給が途絶えました。 この影響で原子炉内の圧力と温度が急上昇し、自動的に原子炉が緊急停止する事態となりました。 しかし、緊急時に作動するはずの冷却システムにも不具合が発生し、事態はさらに悪化しました。 冷却機能を失った原子炉内では、核燃料が高温状態に晒され続け、一部が溶融してしまったのです。 この事故による放射性物質の放出量は比較的少量に抑えられましたが、周辺住民は一時的に避難を余儀なくされました。 スリーマイル島原子力発電所事故は、原子力発電が孕む潜在的な危険性を世界に知らしめ、その後の原子力発電所の設計や安全基準、そして人々の原子力に対する意識に大きな影響を与えることになりました。
原子力施設

ガラス固化で未来へつなぐ安全:TVFの役割

原子力発電は、二酸化炭素の排出を抑え、エネルギー安全保障にも貢献するエネルギー源として期待されています。しかし、その一方で、運転に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の処理は、解決すべき重要な課題として認識されています。高レベル放射性廃棄物は、放射能のレベルが高く、長期間にわたって人体や環境に影響を及ぼす可能性があるため、適切に処理し、安全に保管する必要があります。 この課題解決に向け、青森県六ヶ所村の再処理施設と共に重要な役割を担うのが、東海事業所内に建設された東海ガラス固化施設(TVF)です。TVFは、使用済み燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃棄物を、ガラス原料と混合し、高温で溶融した後、冷却して固化体にする施設です。こうして生成されたガラス固化体は、放射性物質をガラスの中に閉じ込め、安定した状態を保つことができます。ガラスは、化学的に安定しており、放射線の遮蔽効果も高く、長期保管に適した材料です。TVFは、我が国における高レベル放射性廃棄物のガラス固化技術を実証するための重要な施設であり、ここで得られた知見や経験は、将来の商業用ガラス固化施設の設計や運転に役立てられます。