宇宙を探る目: フォスイッチ型中性子検出器

宇宙を探る目: フォスイッチ型中性子検出器

電力を見直したい

先生、フォスイッチ型中性子検出器って、宇宙と地球で違うものが必要なんですか?

電力の研究家

いい質問だね!基本的には同じ原理で動くけど、宇宙と地球では中性子のエネルギーが違うから、検出できる範囲を変える必要があるんだ。

電力を見直したい

エネルギーが違うと、どうなるんですか?

電力の研究家

エネルギーが高いと検出器を通り抜けてしまう可能性があるんだ。だから、宇宙で使う場合は、より高いエネルギーの中性子を検出できるように工夫する必要があるんだよ。

フォスイッチ型中性子検出器とは。

「フォスイッチ型中性子検出器」は、原子力発電において使われる装置です。中性子はそのままでは電子機器で計測できないため、陽子に変換する必要があります。中性子は物質とぶつかると、高いエネルギーを持った陽子を飛び出させます。宇宙船や飛行機の中では、このような過程で生まれた陽子の他に、宇宙放射線から来た陽子も存在します。そこで、人工的に発生させた陽子と元から存在する陽子を区別するために、異なる種類のシンチレータを組み合わせた「フォスイッチ型中性子検出器」が用いられます。地上では、原子力発電所や加速器で使われる、エネルギーが15MeV/n以下の低い中性子を対象とした装置が多く作られており、「レムカウンタ」や「シーベルトカウンタ」と呼ばれています(図1)。宇宙空間では、中性子のエネルギーは15MeVをピークとした分布をしていますが、さらに高い100MeVを少し超えるあたりにもう一つのピークがあると考えられています。これは主にコンピュータシミュレーションによる結果です。100MeV以下と100MeV以上のエネルギーを持つ中性子による影響は、それぞれ50%と見積もられています。東北大学の研究グループは、このエネルギーの上限を100MeV以上に引き上げることで、宇宙で使える「フォスイッチ型検出器」の開発に取り組んでおり、加速器を用いた地上実験を行っています。

目に見えない中性子を捉える

目に見えない中性子を捉える

私たちが目にする物質は、原子という小さな粒からできています。原子は中心にある原子核とその周りを回る電子からなり、さらに原子核は陽子と中性子というさらに小さな粒子で構成されています。陽子はプラスの電荷、電子はマイナスの電荷を持つため、電気的な力で互いに影響し合っています。しかし、中性子は電荷を持ちません。そのため、電気的な力を利用する通常の検出器では捉えることができません。 電荷を持たない中性子をどのように検出するのでしょうか? その答えは、中性子が持つエネルギーにあります。

中性子は物質の中を進む時、他の原子と衝突することがあります。この衝突によって、中性子は自身のエネルギーを相手に渡し、自身は減速したり、方向を変えたりします。ビリヤードの球をイメージすると分かりやすいでしょう。動く球が静止している球にぶつかると、動いていた球はエネルギーを失い、静止していた球は動き出します。

中性子検出では、この衝突によって生じる現象を利用します。中性子が原子に衝突すると、原子から陽子が飛び出すことがあります。この陽子はプラスの電荷を持っているので、検出器で捉えることができます。つまり、直接見ることのできない中性子を、陽子という別の粒子を通して間接的に観測するのです。この検出方法を用いることで、原子力発電をはじめ、様々な分野で中性子の振る舞いを調べることが可能になります。

粒子の種類 電荷 検出方法
陽子 プラス 電気的な力を利用した検出器
電子 マイナス 電気的な力を利用した検出器
中性子 なし 中性子が原子に衝突した際に飛び出す陽子を検出

フォスイッチ型検出器の仕組み

フォスイッチ型検出器の仕組み

フォスイッチ型検出器は、中性子と陽子のように電荷の有無が異なる放射線を識別するために用いられる検出器です。 この検出器は、放射線を当てると光を発する物質であるシンチレータを二種類組み合わせることで、巧みに中性子を検出します。
まず、中性子が検出器に飛び込んでくると、最初のシンチレータと衝突します。中性子自体は電荷を持たないため、最初のシンチレータではほとんど光を発しません。しかし、中性子は物質中の原子核と衝突しやすく、特に水素の原子核である陽子とはほぼ同じ質量であるため、ビリヤードの球がぶつかり合うように効率よく運動量を交換します。この衝突によって陽子がはじき出され、はじき出された陽子は電荷を持っているため、最初のシンチレータと相互作用して光を発します
次に、はじき出された陽子は二つ目のシンチレータに到達します。陽子は二つ目のシンチレータでも物質と相互作用し、ここでも光を発します。
フォスイッチ型検出器は、これら二つのシンチレータが発する光の時間差と強度の情報を分析することで、中性子による信号を他の放射線による信号と区別します。具体的には、中性子によって生じた信号は、二つのシンチレータ間で特定の時間差を持ち、かつ、それぞれのシンチレータで特徴的な光の強度を示します。このように、時間差と強度の情報を組み合わせることで、高精度な中性子検出を実現しています。

ステップ シンチレータ1 シンチレータ2
中性子入射 中性子が陽子と衝突、陽子をはじき出す
陽子の相互作用 はじき出された陽子が光を発する
陽子の到達 陽子が到達し、光を発する
信号分析 時間差と強度の情報から中性子を識別

地上と宇宙における中性子の違い

地上と宇宙における中性子の違い

私たちの身の回りにも存在する中性子ですが、地球上で観測されるものと、広大な宇宙空間で飛び交うものとでは、その性質に違いがあります。

地上で中性子が生まれる主な発生源としては、原子力発電所や加速器などが挙げられます。これらの施設では、ウランなどの原子核が分裂する際に、比較的速度の遅い、つまりエネルギーの低い中性子が放出されます。一方、宇宙空間は、目には見えない宇宙線が飛び交う世界です。宇宙線とは、宇宙から地球へ絶えず降り注ぐ高エネルギーの粒子のことで、太陽活動や超新星爆発などによって生み出されます。これらの宇宙線が星間物質などと衝突すると、その衝撃で非常に高いエネルギーを持った中性子が生成されるのです。

このようにして生まれた宇宙由来の中性子は、地上で観測されるものと比べて、速度が桁違いに速く、エネルギーも非常に高いという特徴があります。そのため、地上で一般的に用いられている中性子検出器では、これらの高エネルギー中性子を捉えることは容易ではありません。宇宙から飛来する高エネルギー中性子を捉え、その謎を解き明かすためには、検出器の感度を格段に向上させる必要があるのです。

項目 地上の中性子 宇宙由来の中性子
発生源 原子力発電所、加速器など 宇宙線と星間物質などの衝突
速度・エネルギー 比較的遅く、エネルギーが低い 桁違いに速く、エネルギーが非常に高い
検出の難易度 容易 非常に難しい(高感度の検出器が必要)

宇宙の謎を解き明かす挑戦

宇宙の謎を解き明かす挑戦

広大な宇宙は、私たち人類にとって未だ謎と神秘に満ちた未知の世界です。その謎を解き明かすべく、世界中の研究者たちが日々探求を続けています。その中でも、宇宙から降り注ぐ宇宙線は、宇宙の起源や進化を探る上で重要な手がかりとなります。宇宙線は、陽子やヘリウム原子核などの荷電粒子が主成分ですが、ごくわずかに中性子も含まれています。この中性子は、荷電粒子のように宇宙空間の磁場の影響を受けずに地球に到達するため、宇宙線の発生源や物質との相互作用に関する貴重な情報を持っていると考えられています。

東北大学グループは、この宇宙線に含まれる高エネルギー中性子をより高精度に捉えるため、フォスイッチ型検出器の改良に取り組んでいます。従来の検出器では、100MeV以上のエネルギーを持つ中性子を検出することが困難でした。そこで、検出器のエネルギー上限を100MeV以上に引き上げることで、より広範囲のエネルギー帯域の中性子を捉え、宇宙における中性子のエネルギー分布をより正確に測定しようとしています。この改良により、宇宙線の発生源や宇宙空間における物質の進化に関する理解が飛躍的に進むと期待されています。

本研究は、宇宙の謎を解き明かすための重要な一歩となるでしょう。今後、観測データの蓄積と解析が進み、宇宙の謎がさらに解明されていくことを期待します。

研究対象 課題 取り組み 期待される成果
宇宙線に含まれる高エネルギー中性子 従来の検出器では100MeV以上のエネルギーを持つ中性子を検出することが困難だった 検出器のエネルギー上限を100MeV以上に引き上げる – より広範囲のエネルギー帯域の中性子を捉え、宇宙における中性子のエネルギー分布をより正確に測定できるようになる
– 宇宙線の発生源や宇宙空間における物質の進化に関する理解が飛躍的に進む