黒鉛減速ガス冷却炉:歴史と未来

黒鉛減速ガス冷却炉:歴史と未来

電力を見直したい

先生、「黒鉛減速ガス冷却炉」って何か難しそうだけど、どんなものなんですか?

電力の研究家

そうだね。「黒鉛減速ガス冷却炉」は、簡単に言うと、黒鉛とガスを使って原子炉の熱をコントロールするんだよ。黒鉛は中性子を減速させる役割、ガスは熱を運ぶ役割があるんだ。

電力を見直したい

黒鉛とガスを使う炉なんだね。具体的にどんな種類があるの?

電力の研究家

大きく分けると炭酸ガスを使うものとヘリウムガスを使うものがあるよ。炭酸ガスを使うものにはマグノックス炉や改良型ガス炉があり、ヘリウムガスを使うものには高温ガス炉があるんだ。それぞれ特徴や歴史が異なるんだよ。

黒鉛減速ガス冷却炉とは。

「黒鉛減速ガス冷却炉」っていう原子力発電の言葉は、黒鉛で中性子のスピードを落とし、炭酸ガスかヘリウムで冷やす原子炉のことです。炭酸ガスで冷やす炉には、イギリスで初めて実用化された発電用のマグノックス炉(GCR;天然のウラン燃料)、それを改良した改良型ガス炉(AGR;濃度の低いウラン酸化物燃料)があります。また、ヘリウムで冷やす炉には高温ガス炉(HTGR;被覆燃料粒子)があり、1960年代から1980年代にかけて実験炉や原型炉が作られ、動かされてきましたが、政治や経済の都合で今はもう動いていません。現在、イギリスではGCRとAGRを合わせて19基が稼働中で、日本ではヘリウム冷却の高温ガス炉開発として、高温工学試験研究炉(HTTR;30MWt)が動いていて、安全性を確かめる試験が行われています。(注)被覆燃料粒子:小さいセラミックスの燃料粒子を熱分解炭素(PyC)や炭化ケイ素(SiC)で幾重にも包んで、核分裂で出た物質を直径約1mmの粒の中に閉じ込めたもの。

黒鉛減速ガス冷却炉とは

黒鉛減速ガス冷却炉とは

– 黒鉛減速ガス冷却炉とは黒鉛減速ガス冷却炉とは、原子炉の核心部で発生する核分裂反応の速度を制御し、安全かつ安定的に熱エネルギーを取り出すために、減速材として黒鉛を、冷却材として炭酸ガスやヘリウムを使用する原子炉のことを指します。原子炉内でウラン燃料が核分裂反応を起こすと、高速の中性子が放出されます。この高速中性子をそのままにしておくと、ウラン燃料との反応確率が低く、効率的な核分裂の連鎖反応を維持できません。そこで、中性子の速度を落とす役割を果たすのが減速材です。黒鉛は中性子の減速能力が高く、化学的に安定しているため、減速材として優れた特性を持っています。一方、発生した熱を炉心から運び出す役割を担うのが冷却材です。炭酸ガスやヘリウムは、中性子をあまり吸収せず、黒鉛との相性が良いという特徴があります。これらのガスは原子炉内を循環し、核分裂反応で発生した熱を吸収してタービンを回し、電気を生み出すために利用されます。黒鉛減速ガス冷却炉は、燃料の種類や冷却材の種類、炉心の設計などによっていくつかの種類に分類されます。世界で初めて運転を開始したイギリスの「コールダーホール型炉」や、日本で開発が進められた「高温ガス炉」などがその代表例です。

項目 内容
炉型 黒鉛減速ガス冷却炉
減速材 黒鉛
– 中性子の減速能力が高い
– 化学的に安定している
冷却材 炭酸ガスやヘリウム
– 中性子の吸収が少ない
– 黒鉛との相性が良い
冷却材の役割 炉心で発生した熱を吸収し、タービンを回して発電する
特徴 – 世界で初めて運転を開始した原子炉
– 日本では高温ガス炉の開発が進められた

炭酸ガス冷却炉の種類と歴史

炭酸ガス冷却炉の種類と歴史

二酸化炭素を冷却材として利用する原子炉には、主にマグノックス炉と改良型ガス炉の二種類が存在します。

まず、マグノックス炉について説明します。マグノックス炉は、イギリスで初めて実用化された発電用の原子炉です。燃料には天然ウランを使用し、黒鉛を減速材として利用することで、効率的に核分裂反応を起こすことができます。マグノックス炉は、1950年代から1960年代にかけてイギリスを中心に建設が進められ、初期の原子力発電を支えました。しかし、熱効率が低いという欠点があり、その後、より効率の高い原子炉が開発されたため、現在では稼働しているものは少なくなっています。

一方、改良型ガス炉は、マグノックス炉の欠点を改良した原子炉です。マグノックス炉と同様に二酸化炭素を冷却材、黒鉛を減速材として使用しますが、燃料には低濃縮ウラン酸化物を採用しています。これにより、熱効率が向上し、より多くの電力を発電することが可能となりました。改良型ガス炉は、現在でも日本を含むいくつかの国で稼働しており、安全性と信頼性の高さから、今後も一定の役割を担うと予想されています。

特徴 マグノックス炉 改良型ガス炉
冷却材 二酸化炭素 二酸化炭素
減速材 黒鉛 黒鉛
燃料 天然ウラン 低濃縮ウラン酸化物
熱効率 低い 高い
現状 稼働しているものは少ない 日本を含むいくつかの国で稼働中

ヘリウム冷却炉:高温ガス炉

ヘリウム冷却炉:高温ガス炉

– ヘリウム冷却炉高温ガス炉

原子力発電所では、原子核反応で発生する莫大な熱エネルギーを、いかに効率よく取り出すかが重要な課題です。従来型の原子炉では、水蒸気を用いてタービンを回し発電していますが、近年注目されているのがヘリウムガスを冷却材に用いる高温ガス炉です。

高温ガス炉最大の特徴は、ヘリウムガスが化学的に安定しているという点にあります。水と異なり腐食性が低いため、金属製の配管や機器の劣化を抑え、長期にわたる運転が可能となります。また、ヘリウムガスは中性子を吸収しにくい性質を持っているため、原子炉の運転効率を高めることにも繋がります。

さらに、高温ガス炉では被覆燃料粒子と呼ばれる特殊な燃料を使用しています。これは、微小なウラン燃料をセラミックの層で覆ったもので、高温でも核分裂生成物の放出が抑えられます。このため、従来の原子炉よりも高い温度で運転することが可能となり、発電効率の向上だけでなく、水素製造など様々な分野への応用も期待されています。

高温ガス炉は、1960年代から1980年代にかけて実験炉や原型炉が建設・運転され、技術的な知見を積み重ねてきました。しかし、建設費用の高さや、当時のエネルギー事情の変化などから、現在は運転を終了しています。しかしながら、近年、安全性やエネルギー効率の高さが見直され、次世代の原子力発電技術として再び注目を集めています。

項目 内容
冷却材 ヘリウムガス
特徴 – 化学的安定性が高く、腐食性が低い
– 中性子を吸収しにくい
メリット – 長期運転が可能
– 原子炉の運転効率が高い
– 高温運転による発電効率向上
– 水素製造などへの応用
燃料 被覆燃料粒子(微小なウラン燃料をセラミックで覆ったもの)
歴史 1960~80年代に実験炉・原型炉が稼働していたが、現在は運転終了
現状 安全性・エネルギー効率の高さから、次世代原子力発電技術として注目

日本の高温ガス炉開発

日本の高温ガス炉開発

我が国では、次世代の原子炉として期待される高温ガス炉の開発が精力的に進められています。高温ガス炉は、従来の原子炉と比べてより高い温度で運転することが可能であり、安全性と効率性の両面で優れた特性を持つとされています。

現在、日本原子力研究開発機構が茨城県大洗町に建設した高温工学試験研究炉(HTTR)が、高温ガス炉の実証炉として稼働中です。HTTRは、ヘリウムガスを冷却材に用いた炉であり、世界で初めて原子炉から水素を製造することに成功しました。これは、高温ガス炉が将来的に水素エネルギー社会を実現する上で重要な役割を担う可能性を示すものです。

HTTRの運転を通じて、高温ガス炉の高い安全性と信頼性が実証されつつあります。高温ガス炉は、炉心がセラミックで覆われているため、メルトダウンのリスクが極めて低いとされています。また、冷却材のヘリウムガスは化学的に安定しているため、反応による爆発の危険性もありません。

さらに、高温ガス炉は発電だけでなく、高温の熱エネルギーを化学工業や水素製造など、様々な分野に利用できるという利点も備えています。将来的には、高温ガス炉がエネルギー源の多様化や地球温暖化対策に大きく貢献することが期待されています。

項目 内容
炉型 高温ガス炉
開発状況 実証炉(HTTR)が稼働中
運転温度 従来の原子炉より高い
冷却材 ヘリウムガス
特徴 – 高い安全性(炉心はセラミック、冷却材は安定したヘリウムガス)
– 高い効率性
– 水素製造が可能
– 高温の熱エネルギーを様々な分野に利用可能
期待される役割 – 水素エネルギー社会の実現
– エネルギー源の多様化
– 地球温暖化対策

黒鉛減速ガス冷却炉の将来展望

黒鉛減速ガス冷却炉の将来展望

黒鉛減速ガス冷却炉は、黒鉛を中性子の減速材に、ガスを冷却材に用いる原子炉です。他の原子炉と比較して、安全性、燃料の多様性、高い熱効率といった利点を持つため、次世代の原子炉として期待されています。
中でも、高温ガス炉と呼ばれるタイプの原子炉は、約900度という高温の熱を取り出すことが可能です。この高温の熱は、発電だけでなく、水素製造や石油精製など、様々な産業分野への応用が期待されています。
水素製造においては、高温ガス炉の熱を利用することで、二酸化炭素の排出を抑えた水素製造が可能となります。これは、地球温暖化対策の観点からも非常に重要です。
さらに、高温ガス炉は、従来の原子炉よりも安全性が高いという特徴もあります。炉心冷却材にヘリウムガスを用いることで、水冷却型原子炉で懸念される水素爆発のリスクを回避できます。また、燃料には被覆粒子燃料と呼ばれる、セラミックで覆われた燃料を使用するため、燃料の溶融や放射性物質の漏洩の可能性が極めて低くなっています。
このように、高温ガス炉は安全性と環境性能の両面で優れた原子炉と言えるでしょう。世界各国で研究開発が進められており、今後の発展が期待されています。

項目 内容
炉型 黒鉛減速ガス冷却炉(高温ガス炉)
減速材 黒鉛
冷却材 ガス(ヘリウムガス)
特徴
  • 安全性が高い
  • 燃料の多様性が高い
  • 熱効率が高い
  • 高温(約900度)の熱を取り出せる
利点
  • 発電
  • 水素製造(CO2排出抑制)
  • 石油精製
  • その他産業分野への応用
安全性
  • 水素爆発リスク回避(ヘリウムガス冷却)
  • 燃料溶融、放射性物質漏洩の可能性極低(被覆粒子燃料)