原子力発電の草分け的存在:炭酸ガス冷却炉

原子力発電の草分け的存在:炭酸ガス冷却炉

電力を見直したい

先生、「炭酸ガス冷却炉」ってどんな原子炉のことですか?

電力の研究家

炭酸ガス冷却炉は、原子炉を冷やすために炭酸ガスを使うんだよ。原子炉で熱くなった部分を冷やすのに、空気ではなく炭酸ガスを使うんだね。他に何か気になることはあるかな?

電力を見直したい

へえ、炭酸ガスを使うんですね。なんだか、昔の原子炉って感じがします。今はないんですか?

電力の研究家

いいところに気がついたね。炭酸ガス冷却炉は初期の原子炉で、日本では東海発電所で使われていたんだ。今は、もっと効率のいい原子炉が使われているから、新しいものは作られていないんだよ。

炭酸ガス冷却炉とは。

「炭酸ガス冷却炉」は、原子力発電に使われる言葉の一つで、原子炉を冷やすために炭酸ガスを使うタイプの原子炉のことです。このタイプの原子炉は全て、黒鉛を使って原子炉内の核分裂反応の速度を調整する仕組みで、初期のものはコールダーホール型炉という形式でした。また、燃料を包む材料にちなんで「マグノックス炉」と呼ばれることもあります。1966年7月、日本で初めて電力会社が運営する原子力発電所として運転を始めた東海発電所は、このタイプの原子炉を使っていました。東海発電所は31年8か月間運転した後、1998年3月に営業運転を止めました。1970年代に入ると、イギリスとフランスが協力して、燃料を天然のウランから少し濃縮した酸化ウランに変えた、改良型のガス冷却炉AGRが開発されました。しかし、次第にPWRと呼ばれる別のタイプの原子炉に置き換えられていき、現在では炭酸ガス冷却炉は少なくなりました。今動いているのは、イギリスにある4基のマグノックス炉と14基のAGRだけです。

炭酸ガス冷却炉とは

炭酸ガス冷却炉とは

– 炭酸ガス冷却炉とは炭酸ガス冷却炉は、原子炉で発生する莫大な熱を効率的に冷やすために、冷却材として炭酸ガスを用いる原子炉です。原子炉の中では、核分裂反応によってウラン燃料から熱が絶えず生み出されます。この熱を適切に取り除かなければ、原子炉の温度が過度に上昇し、炉心溶融などの深刻な事故につながる可能性があります。炭酸ガス冷却炉では、高温になった燃料集合体から熱を奪い取るために、炭酸ガスが冷却材として循環しています。炭酸ガスは熱に対して非常に安定した性質を持つため、高温になっても容易に分解したり、他の物質と反応したりすることがありません。これは、原子炉の安全性を確保する上で非常に重要な要素です。炉内で加熱された炭酸ガスは、熱交換器である蒸気発生器へと送られます。蒸気発生器では、炭酸ガスのもつ熱が水に伝えられ、水が沸騰して蒸気が発生します。発生した高温・高圧の蒸気はタービンを回転させるための動力源となり、タービンにつながった発電機によって電気が生み出されます。さらに、炭酸ガスは水と反応しにくいという特徴も持ち合わせています。これは、万が一原子炉内で水漏れが発生した場合でも、冷却材としての炭酸ガスの性能が大きく損なわれにくいことを意味し、原子炉の安全性をより一層高めることに貢献しています。

項目 内容
定義 原子炉で発生する熱を冷やすため、冷却材として炭酸ガスを用いる原子炉
冷却材 炭酸ガス
炭酸ガスの利点
  • 熱に対して安定した性質を持ち、高温でも分解や反応を起こしにくい
  • 水と反応しにくい
冷却システム
  1. 高温の燃料集合体から炭酸ガスが熱を奪う
  2. 加熱された炭酸ガスが蒸気発生器に送られる
  3. 蒸気発生器で水の沸騰・蒸気発生
  4. 蒸気がタービンを回転させ、発電機が電気を生成

黒鉛減速材との組み合わせ

黒鉛減速材との組み合わせ

– 黒鉛減速材との組み合わせ原子炉で核分裂反応を持続させるためには、ウラン燃料から放出される中性子の速度を制御する必要があります。この役割を担うのが減速材と呼ばれる物質です。中性子の速度を適切に調節することで、ウラン燃料の原子核に中性子が吸収されやすくなり、効率的に核分裂反応を引き起こすことができます。黒鉛は、この減速材として優れた特性を持つ物質の一つです。黒鉛は中性子の減速能力が高く、効率的に中性子の速度を落とすことができます。また、高温になっても安定した性質を保つため、高温で動作する原子炉にも適しています。さらに、黒鉛は比較的安価で入手しやすいという利点もあります。これらの特性から、初期の原子炉開発においては、二酸化炭素を冷却材として用いる原子炉と黒鉛を減速材として組み合わせたものが多く建設されました。この組み合わせは、黒鉛減速炉と呼ばれ、現在も世界各地で稼働しています。しかし、黒鉛減速炉は、黒鉛が燃えやすいという欠点も抱えています。そのため、黒鉛減速炉では、万が一の事故に備え、黒鉛の燃焼を防ぐための安全対策が厳重に講じられています。

減速材の役割 黒鉛減速材の特徴 黒鉛減速炉のメリット 黒鉛減速炉のデメリット
ウラン燃料から放出される中性子の速度を制御し、核分裂反応を効率的に持続させる。 – 中性子の減速能力が高い
– 高温でも安定した性質を持つ
– 比較的安価で入手しやすい
– 黒鉛の減速能力と二酸化炭素の冷却能力を組み合わせることで、効率的にエネルギーを生み出すことができる。 – 黒鉛が燃えやすいという欠点があり、安全対策が重要となる。

マグノックス炉という呼び名

マグノックス炉という呼び名

初期の原子炉開発において、冷却材に炭酸ガスを用いた炉形式が注目されました。その中でも特に、「コールダーホール型炉」と呼ばれる形式が初期に多く採用されました。このコールダーホール型炉は、減速材として黒鉛のブロックを使用し、その黒鉛ブロックに格子状に燃料棒を挿入する構造を持っていました。

このコールダーホール型炉ですが、燃料棒を覆う被覆材にマグネシウム合金を採用していたことから、「マグノックス炉」という別称でも呼ばれていました。マグネシウム合金は、原子炉の運転に欠かせない中性子をあまり吸収しないという特性を持っていました。この特性により、中性子を効率的に利用できるようになり、原子炉の効率向上に繋がると期待されました。しかし、マグノックス炉はその後、技術的な課題が明らかになり、主流の原子炉形式からは姿を消していきました。

炉形式 別称 減速材 冷却材 燃料棒被覆材 特徴 課題
コールダーホール型炉 マグノックス炉 黒鉛ブロック 炭酸ガス マグネシウム合金 ・中性子の吸収が少なく、効率的な運転が期待された。 ・技術的な課題により、主流の炉形式からは姿を消した。

日本の原子力発電の始まり

日本の原子力発電の始まり

昭和41年、東海村に建設された東海発電所は、日本で初めて電力会社によって商業運転が開始された原子力発電所です。この発電所は、イギリスで開発されたガス冷却型炉という形式の原子炉を採用していました。これは、黒鉛を減速材に、二酸化炭素を冷却材に用いる方式で、運転時の温度が低く、安全性が高いとされていました。
東海発電所は、31年8か月という長期間にわたり安定的に運転を続け、日本の電力供給の一翼を担ってきました。その間、約2億1000万キロワット時にも及ぶ電力を供給し、これは一般家庭の電力消費量に換算すると約6000万世帯分に相当します。しかし、設備の老朽化や、より効率の高い新型の原子力発電所の登場などにより、平成10年3月に運転を終了しました。東海発電所の運転終了は、日本の原子力発電の歴史における一つの時代の終わりを告げるとともに、将来のエネルギー政策を考える上での重要な転換点となりました。

項目 内容
名称 東海発電所
所在地 東海村
運転開始 昭和41年
運転終了 平成10年3月
運転期間 31年8か月
総発電量 約2億1000万キロワット時 (一般家庭約6000万世帯分相当)
原子炉形式 ガス冷却型炉 (イギリスで開発)
減速材 黒鉛
冷却材 二酸化炭素
特徴 運転時の温度が低く、安全性が高い
運転終了理由 設備の老朽化、より効率の高い新型原子力発電所の登場
歴史的意義 日本の原子力発電の歴史における一つの時代の終わり、将来のエネルギー政策を考える上での重要な転換点

改良型ガス冷却炉の登場

改良型ガス冷却炉の登場

1970年代に入ると、イギリスとフランスは協力して、それまで使われていたマグノックス炉の改良に乗り出しました。マグノックス炉は天然ウランを燃料としていましたが、より効率の高い原子炉を目指して、改良型のガス冷却炉であるAGR(改良型ガス冷却炉)が開発されました。
AGRの大きな特徴は、燃料に微濃縮ウランを採用している点です。微濃縮ウランとは、天然ウランにわずかにウラン235を加えて濃度を高めたものです。ウラン235は核分裂を起こしやすい性質を持っているため、微濃縮ウランを使用することで、より多くのエネルギーを生み出すことができるようになりました。
この改良により、AGRは従来のマグノックス炉と比べて、出力と熱効率が共に大きく向上しました。その結果、より効率的に電力を供給することが可能となり、イギリスやフランスをはじめ、世界各国で原子力発電の重要な選択肢の一つとなっています。

項目 内容
炉型 AGR(改良型ガス冷却炉)
開発国 イギリス、フランス
燃料 微濃縮ウラン
特徴 出力と熱効率が従来のマグノックス炉より向上
結果 より効率的な電力供給が可能に

PWRへの移行と現状

PWRへの移行と現状

原子力発電所の形式として、かつては沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)、黒鉛減速材を用いる炉など、様々なタイプのものが開発・建設されていました。しかし、技術の進歩とともに、安全性と経済性に優れたPWRが主流になっていきました。
PWRは、原子炉で発生した熱を、加圧された水(一次冷却水)によって蒸気発生器に運び、そこで二次冷却水を沸騰させて蒸気タービンを回転させる仕組みです。この一次冷却水と二次冷却水を分離する構造により、放射性物質の拡散リスクを低減できる点が、大きな利点として挙げられます。
一方、初期に開発された原子炉の中には、黒鉛減速材を用いるものもありました。しかし、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故では、このタイプの炉で深刻な事故が発生し、安全性の問題が改めて認識されることとなりました。
現在では、世界中で稼働している原子力発電所の約7割がPWRであり、原子力発電の標準的な形式となっています。一方、かつてイギリスで開発・運用されていた炭酸ガス冷却炉は、現在ではマグノックス炉4基とAGR14基のみが稼働を続けています。

原子炉の種類 特徴 現状
加圧水型軽水炉(PWR) 安全性と経済性に優れる。一次冷却水と二次冷却水を分離する構造により、放射性物質の拡散リスクを低減。 世界で稼働している原子力発電所の約7割を占める主流な形式。
沸騰水型軽水炉(BWR) かつて開発・建設されていた。 記載なし
黒鉛減速材を用いる炉 初期に開発された。チェルノブイリ原子力発電所事故で安全性の問題が露呈。 記載なし
炭酸ガス冷却炉 かつてイギリスで開発・運用されていた。 マグノックス炉4基とAGR14基のみ稼働。