原子炉の守護神:非常用炉心冷却装置
電力を見直したい
『非常用炉心冷却装置』って、何だか難しそうな名前だけど、一体どんなものなの?
電力の研究家
そうだね。『非常用炉心冷却装置』は、原子力発電所で事故が起きた時に、原子炉を冷やすためのとても重要な装置なんだ。普段は使わないんだけど、もしもの時に備えているんだよ。
電力を見直したい
もしもの時って、どんな時?
電力の研究家
例えば、原子炉を冷やすための水が漏れてしまった場合などだね。そんな時でも、この装置がすぐに作動して、原子炉に新しい水を送り込んでくれるから、大事故になるのを防ぐことができるんだ。
非常用炉心冷却装置とは。
原子力発電所で使う言葉に「非常用炉心冷却装置」というものがあります。これは、原子炉の冷却材を運ぶ管が壊れるなどして、炉心から冷却材が漏れ出してしまったときに、すぐに冷却材を炉心に送り込んで冷やすための安全装置です。原子炉は、緊急事態が起きると核分裂の連鎖反応をすぐに止めますが、燃料にはまだ熱が残っていて、さらに核分裂で生まれた物質からも熱が出続けるため、燃料を冷やし続ける必要があります。沸騰させて水を蒸気にするタイプの原子炉の場合、「非常用炉心冷却装置」には、高圧注水系、自動減圧系、炉心スプレイ系、低圧注水系の4つの仕組みがあります。一方、水に圧力をかけて沸騰を抑えるタイプの原子炉の場合には、安全注入設備、格納容器圧力低減設備、余熱除去設備の3つが同様の役割を担います。
原子炉の安全を守る仕組み
私たちの暮らしを支える電気を作る原子力発電所は、安全確保のために様々な対策が施されています。原子炉は、発電の心臓部にあたる重要な施設です。万が一、事故が起きた場合でも、原子炉への影響を最小限に抑え、安全を確保するために、様々な安全装置が備わっています。
その中でも特に重要な役割を担うのが、非常用炉心冷却装置(ECCS)です。
ECCSは、原子炉で何か異常が発生し、冷却水が失われてしまうような事態になった場合に自動的に作動します。原子炉の炉心に冷却水を注入することで、炉心の過熱を防ぎ、放射性物質の放出を抑制する役割を担います。
ECCSは、複数の系統から構成されており、たとえ一部の系統が故障した場合でも、他の系統が機能することで、炉心を冷却し続けることができます。これは、原子力発電所の安全性を高めるための重要な設計思想です。
原子力発電所は、私たちの生活に欠かせない電力を供給していますが、その安全性を確保するために、様々な対策が講じられています。ECCSは、その中でも重要な役割を担う装置の一つであり、原子炉の安全性を維持するために不可欠なものです。
装置名 | 説明 | 備考 |
---|---|---|
非常用炉心冷却装置 (ECCS) |
原子炉の冷却水喪失時に自動で作動し、炉心に冷却水を注入することで、炉心の過熱を防ぎ、放射性物質の放出を抑制する。 | 複数の系統で構成されており、一部が故障しても他の系統が機能することで、炉心を冷却し続ける。 |
冷却材喪失事故とECCSの役割
原子力発電所では、核分裂反応によって発生する莫大な熱を制御し、安全に電気エネルギーへと変換しています。この熱の制御に極めて重要な役割を担うのが冷却材です。冷却材は、原子炉内で燃料棒を包み込むように循環し、核分裂反応で発生した熱を常に奪い続けることで、炉心を一定の温度に保っています。
しかし、万が一、配管の破損や弁の故障など、何らかの原因によって冷却材が原子炉から失われてしまうことがあります。これを冷却材喪失事故と呼びます。冷却材喪失事故は、適切な対策を講じなければ、炉心の過熱を引き起こし、燃料棒の溶融(メルトダウン)に至る可能性もある、原子力発電所における深刻な事故の一つです。
このような事態を想定し、燃料の溶融を未然に防ぐために設置されているのが非常用炉心冷却装置(ECCS)です。ECCSは、冷却材喪失事故を検知すると自動的に作動し、大量の水を原子炉内に注入します。これにより、冷却材を失った炉心を緊急的に冷却し、燃料の過熱と溶融を防ぎます。ECCSは、原子力発電所の安全性を確保するための最後の砦と言える重要なシステムです。
原子力発電の仕組 | 冷却材喪失事故 | 対策 |
---|---|---|
核分裂反応で発生した熱を冷却材が奪い、炉心を一定温度に保つことで安全に電気エネルギーに変換する。 | 配管の破損や弁の故障などで冷却材が失われる事故。炉心の過熱、燃料棒の溶融(メルトダウン)に至る可能性もある。 | 燃料の溶融を防ぐため、非常用炉心冷却装置(ECCS)が設置されている。冷却材喪失事故を検知すると自動的に作動し、大量の水を原子炉内に注入することで炉心を冷却する。 |
沸騰水型原子炉におけるECCS
原子力発電所では、万が一の事故時に原子炉を安全に停止させ、燃料の損傷を防ぐために、緊急時炉心冷却装置(ECCS)が備わっています。ECCSは、原子炉の種類によってシステム構成が異なり、沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)では、それぞれに適した冷却方式が採用されています。
沸騰水型原子炉の場合、ECCSは主に高圧注水系、自動減圧系、炉心スプレイ系、低圧注水系の四つのシステムから構成されています。原子炉内で蒸気を発生させてタービンを回し発電するBWRでは、冷却材の循環が失われると、蒸気が発生しなくなり原子炉内の圧力が上昇します。このような状況では、まず高圧注水系が作動し、高圧の冷却水を原子炉に注入して冷却を行います。しかし、配管の破断などで原子炉内の圧力が下がっている場合には、高圧注水系だけでは十分な冷却水を注入できません。そこで、自動減圧系が原子炉の圧力を下げ、低圧注水系が作動できるようにします。低圧注水系は、復水貯蔵タンクなどの水をポンプで原子炉に送り込み、炉心を冷却します。さらに、炉心スプレイ系は、冷却水を炉心上部から噴霧することで、燃料集合体を直接冷却し、炉心の損傷を防止します。
このように、沸騰水型原子炉のECCSは、複数のシステムを状況に応じて使い分けることで、様々な事故に対応できるよう設計されています。
ECCSの構成要素 | 役割 | 作動条件 |
---|---|---|
高圧注水系 | 高圧の冷却水を原子炉に注入して冷却 | 原子炉内の圧力が高い場合 |
自動減圧系 | 原子炉の圧力を下げる | 配管の破断などで原子炉内の圧力が下がっている場合 |
低圧注水系 | 復水貯蔵タンクなどの水をポンプで原子炉に送り込み、炉心を冷却 | 原子炉内の圧力が下がった場合 |
炉心スプレイ系 | 冷却水を炉心上部から噴霧することで、燃料集合体を直接冷却し、炉心の損傷を防止 | 炉心の損傷防止 |
加圧水型原子炉におけるECCS
– 加圧水型原子炉におけるECCS
原子力発電所では、万が一の事故時にも炉心を冷却し、放射性物質の放出を防ぐために、非常用炉心冷却設備(ECCS)が設置されています。ECCSは原子炉の種類によって構成が異なり、加圧水型原子炉では、安全注入設備、格納容器圧力低減設備、余熱除去設備の三つの設備が連携してECCSの役割を担います。
安全注入設備は、炉心の冷却水が失われた場合に、高圧または低圧のポンプを用いて、ホウ酸水を注入することで、炉心を冷却します。ホウ酸水は中性子を吸収する性質があるため、核分裂反応を抑え、炉心の出力上昇を防ぎます。
格納容器圧力低減設備は、原子炉内で蒸気発生器の配管が破断するなどして、格納容器内の圧力が上昇した場合に、格納容器内の蒸気を冷却水で凝縮させることで、圧力を下げる役割を担います。
余熱除去設備は、原子炉が停止した後も、燃料から発生する熱(崩壊熱)を冷却水で除去し続けることで、炉心が過熱することを防ぎます。
このように、加圧水型原子炉におけるECCSは、それぞれ異なる機能を持つ設備が連携することで、事故時の炉心冷却を多層的に行い、安全性を確保しています。
設備名 | 機能 |
---|---|
安全注入設備 | 炉心冷却材喪失時にホウ酸水を注入し、炉心を冷却する。ホウ酸は中性子を吸収し、核分裂反応を抑制する。 |
格納容器圧力低減設備 | 格納容器内の圧力上昇時に蒸気を冷却水で凝縮し、圧力を下げる。 |
余熱除去設備 | 原子炉停止後、崩壊熱を冷却水で除去し、炉心の過熱を防ぐ。 |
燃料体の残留熱と崩壊熱
原子炉の運転を停止すると、核分裂反応は連鎖的に止まります。しかし、燃料体内部では、これまで生成されてきた放射性物質が不安定な状態のまま残っており、それらが安定な状態に移行する過程で熱を発生し続けます。これが崩壊熱と呼ばれるもので、原子炉の運転停止後も燃料体から熱が放出され続ける主要な原因です。
崩壊熱は、原子炉の運転中から存在する熱とは性質が異なります。運転中の燃料体には、核分裂反応によって直接発生する熱に加えて、燃料体そのものが保有する熱、すなわち顕熱も蓄積されています。これは、高温の物体であれば当然持ち合わせている熱エネルギーです。
原子炉の緊急時冷却システム(ECCS)は、これらの熱を適切に除去するように設計されています。燃料体の損傷を防ぐためには、運転停止直後の高い熱発生率に対応するだけでなく、時間経過と共に減衰していく崩壊熱の特性を踏まえ、長期間にわたって安定的に冷却水を供給できる能力が求められます。崩壊熱は時間と共に減少していきますが、完全にゼロになるまでには非常に長い時間を要します。そのため、ECCSの設計においては、長期間にわたる冷却機能の維持が重要な要素となります。
種類 | 発生源 | 特徴 | 対応 |
---|---|---|---|
崩壊熱 | 燃料体内部の放射性物質の崩壊 | – 原子炉停止後も発生し続ける – 時間経過とともに減衰 |
– 長期間にわたる安定的な冷却水の供給 |
核分裂熱 | 核分裂反応 | – 原子炉運転中に発生 | 緊急時冷却システム(ECCS)による冷却 |
顕熱 | 燃料体自身 | – 高温の物体であれば当然持つ熱エネルギー |
多層防御とECCS
原子力発電所では、人々の安全を守るため、「多層防御」という考え方に基づいた安全対策がとられています。これは、例えるならば、家の防犯対策と同じです。鍵を一つだけかけるよりも、複数の鍵をかけたり、窓に柵を取り付けたりする方が、より強固な防犯対策となるように、原子力発電所でも、幾重にも安全対策を重ねることで、事故の可能性を極限まで低減しているのです。
この多層防御において、最後の砦として重要な役割を担うのがECCS(非常用炉心冷却装置)です。ECCSは、原子炉で万が一冷却水が失われるような事態が発生した場合でも、炉心を冷却し続けることで、放射性物質の放出を防止する緊急対応システムです。
ECCSは、複数の冷却系統から構成されており、それぞれが独立して作動するように設計されています。これは、たとえ一つの系統に故障が発生しても、他の系統が機能することで、炉心の冷却を維持できるようにするためです。このように、ECCSは、多層防御の一環として、他の安全対策と連携しながら、原子炉の安全を最後の最後まで守り抜くという重要な役割を担っています。
概念 | 説明 | 例 |
---|---|---|
多層防御 | 複数の安全対策を重ねることで事故の可能性を極限まで低減する考え方 | 家の防犯対策(複数の鍵、窓の柵) |
ECCS (非常用炉心冷却装置) |
炉心冷却水の喪失時でも炉心を冷却し続け、放射性物質の放出を防止する緊急対応システム 多層防御の一環として機能 |
複数の冷却系統による多重化設計 |