チェルノブイル

原子力の安全

原子炉の制御とポジティブスクラム

- 原子炉の制御原子炉の心臓部では、ウランなどの核燃料が核分裂反応を起こし、莫大なエネルギーを生み出しています。 この反応を安全かつ安定的に継続させるためには、核分裂で発生する中性子の数を精密に制御することが不可欠です。原子炉の出力調整において中心的な役割を担うのが「制御棒」です。制御棒は、中性子を吸収する性質を持つ物質で作られており、炉心に挿入したり引き抜いたりすることで、核分裂反応の速度を調整します。 制御棒を炉心に深く挿入すると、多くの中性子が吸収され、核分裂反応は抑制され、原子炉の出力は低下します。 反対に、制御棒を引き抜くと、中性子を吸収する量が減り、核分裂反応は促進され、原子炉の出力は上昇します。緊急時には、制御棒を完全に炉心に挿入することで、中性子のほとんど全てが吸収され、核分裂反応は連鎖的に停止します。これにより、原子炉は安全な状態へと導かれます。 このように、制御棒は原子炉の出力調整という重要な役割だけでなく、緊急時の安全確保にも欠かせない役割を担っているのです。
原子力の安全

原子力事故と放射能雲

- 放射能雲とは放射能雲は、核爆発や原子力発電所の事故によって生じる、放射性物質を含んだ雲のことです。事故が起きると、非常に高い温度のガスや水蒸気が発生します。このガスや水蒸気によって、本来は地中や建屋内に封じ込められているはずの放射性物質が大気中へと拡散し、雲となってしまいます。放射能雲は、風に乗って遠くまで運ばれるため、広範囲に放射性物質を拡散させる危険性があります。風向きや風の強さによっては、国境を越えて広がる可能性も否定できません。そして、放射能雲から降ってくる雨や雪には、放射性物質が含まれている可能性があります。これを放射性降下物と呼びます。放射性降下物は、土壌や水、農作物などを汚染し、長期間にわたって環境や人体に影響を及ぼす可能性があります。放射能雲の発生は、私たちの生活に深刻な影響を与える可能性があるため、国際社会全体でその発生を防ぐ努力が続けられています。原子力発電所の安全対策の強化や、核兵器の開発・実験の禁止など、様々な取り組みが国際機関や各国政府によって行われています。私たち一人ひとりが放射能の危険性について正しく理解し、安全な社会の実現に向けて共に考えていくことが大切です。
原子力の安全

原子力発電におけるシビアアクシデントとは?

- シビアアクシデントの定義原子力発電所は、安全を最優先に設計・運転されています。しかし、万が一に備え、設計段階で想定されている事象をはるかに超える深刻な事故、すなわち「シビアアクシデント」についても検討が重ねられています。シビアアクシデントとは、原子炉の安全確保のために通常講じられている対策をもってしても、炉心の冷却や核分裂反応の制御が不可能となる事態を指します。これは、地震や津波といった外部事象や、機器の故障、人的ミスなど、様々な要因が重なり発生する可能性があります。シビアアクシデント発生時には、炉心内の燃料が高温となり、炉心融解に至る可能性があります。炉心融解とは、燃料が溶け落ちる現象であり、放射性物質を含む大量の蒸気やガスが発生するなど、深刻な事態を引き起こす可能性があります。原子力発電所において、シビアアクシデントは発生頻度は極めて低いものの、最も深刻なリスクとして認識されています。そのため、シビアアクシデントの発生防止対策はもちろんのこと、万が一発生した場合でも、その影響を最小限に抑えるための対策も講じられています。
原子力施設

RBMK炉:旧ソ連の独自技術

- RBMK炉とは RBMK炉とは、「Reaktory Bolshoi Moshchnosti Kanalynye」のロシア語の頭文字をとった略称で、日本語では「黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉」という長い名前で呼ばれています。これは、旧ソ連が独自に開発した原子炉の形式で、西側諸国では英語の頭文字をとってLWGR(Light Water-cooled Graphite-moderated Reactor軽水冷却黒鉛減速炉)とも呼ばれています。 この原子炉の特徴は、燃料に濃縮度の低いウラン酸化物を使い、減速材に黒鉛、冷却材に軽水を用いている点です。原子炉の心臓部である炉心には、多数の圧力管が縦に設置されています。それぞれの圧力管の中に燃料集合体が挿入され、その中を冷却水が下から上に流れながら沸騰し、燃料から熱を奪い出す構造になっています。 RBMK炉は、当時のソ連が掲げていた「核兵器と発電の両立」という目標のもと、プルトニウム生産も可能な原子炉として開発されました。ウラン資源が豊富で、技術力の面でも制約の多かったソ連にとって、RBMK炉は当時の技術で実現可能な、数少ない選択肢だったと言えるでしょう。 しかし、RBMK炉は、その設計上の特性から、安全性の面でいくつかの欠陥を指摘されていました。実際に、1986年に旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所で起きた大事故は、RBMK炉の持つ構造的な問題点が露呈した結果と言われています。
放射線について

同位体希釈:原子力分野における重要な技術

- 同位体希釈とは同位体希釈とは、分析したい物質に、それと全く同じ性質を持つものの、質量が僅かに異なる同位体を加えて薄める技術です。 これは、ちょうど赤い絵の具に、同じ赤色の、しかし少しだけ重い絵の具を混ぜて薄めるようなものです。 この技術は、物質の量を正確に測るために、分析化学や環境科学の分野で広く使われています。例えば、ある物質の濃度を正確に知りたいとします。 この時、同位体希釈法を用いると、分析したい物質と同じ元素で、質量の異なる安定同位体を、あらかじめ正確に測った量だけ加えて、よく混ぜ合わせます。 これを赤い絵の具に例えると、濃度を調べたい赤い絵の具に、既知の量の少し重い赤い絵の具を混ぜることに相当します。 その後、質量分析計などの分析装置を使って、混合物中の元の物質と加えた同位体の量比を精密に測定します。 絵の具の例えで言えば、混ぜ合わせた後の赤い絵の具の中で、元の赤い絵の具と、少し重い赤い絵の具の割合を調べるということです。この測定結果と、最初に加えた同位体の量から、元の物質の濃度を正確に計算することができます。 このように、同位体希釈法は、高精度な分析が必要とされる様々な分野で、物質の量を正確に測定するための強力なツールとして活用されています。
原子力の安全

チェルノブイル事故:教訓と未来への課題

1986年4月26日、チェルノブイリ原子力発電所4号機で、歴史に残る深刻な事故が発生しました。旧ソ連(現ウクライナ)に位置するこの発電所で、稼働中の原子炉が制御不能に陥り、大規模な爆発を引き起こしたのです。これは原子力の平和利用を大きく揺るがす、世界を震撼させる出来事となりました。 事故の直接的な原因は、実験中に安全装置を解除した状態で行われた操作ミスでした。このミスにより原子炉の出力が急上昇し、制御不能な状態に陥ったのです。その結果、原子炉内部で発生した水蒸気の圧力に耐え切れず、原子炉は破壊され、大量の放射性物質を大気中に放出するに至りました。 この爆発により、原子炉建屋は完全に破壊され、周辺地域は深刻な放射能汚染に見舞われました。事故の影響は広範囲に及び、風に乗って運ばれた放射性物質は、周辺国を含む広範囲に降り注ぎました。この事故は、原子力発電の安全性を根底から揺るがし、世界中に衝撃と不安を与えることになりました。