トリウム232

核燃料

未来のエネルギー: トリウムサイクルの可能性

- トリウムサイクルとはトリウムサイクルは、トリウム232という物質を原子炉で利用し、ウラン233という核燃料を生成しながらエネルギーを生み出すサイクルです。 トリウム232自体は核分裂を起こしませんが、中性子を吸収することでウラン233に変換されます。ウラン233は核分裂を起こしやすい性質を持つため、再び燃料として利用することができます。従来のウラン燃料サイクルでは、天然ウランに含まれる核分裂しやすいウラン235の割合は約1%に過ぎず、残りの大部分を占めるウラン238は核分裂を起こしにくいという課題がありました。一方、トリウムサイクルでは、トリウム232から生成されるウラン233を燃料として利用するため、天然に存在するトリウム資源をほぼ全てエネルギーに変換できる可能性を秘めています。また、トリウムサイクルは、核拡散の抑制や廃棄物の低減といった点でも注目されています。トリウムサイクルで生成されるプルトニウムの量は、ウラン燃料サイクルと比べて少なく、核兵器への転用リスクを低減できる可能性があります。さらに、トリウムサイクルで発生する廃棄物は、ウラン燃料サイクルと比べて放射能の強さが弱く、半減期が短いため、廃棄物処理の負担軽減も期待されています。このように、トリウムサイクルは、エネルギー問題の解決策として、また、より安全な原子力利用を実現する技術として、大きな期待が寄せられています。
核燃料

トリウム系列:地球の鼓動を刻む放射性崩壊

- トリウム系列の始まり 地球の奥深く、私たちの足元で静かに時を刻む元素、トリウム232(Th-232)。それは、ウランとともに自然界に存在する放射性元素の一つであり、トリウム系列と呼ばれる壮大な原子核崩壊の物語の主人公です。 トリウム232は、α崩壊というプロセスを経て、まずラジウム228(Ra-228)へと姿を変えます。α崩壊とは、原子核がヘリウム原子核(α粒子)を放出することで、原子番号が2減り、質量数が4減る現象です。 ラジウム228への変化は、トリウム232の長きにわたる変身のほんの始まりに過ぎません。ラジウム228は、β崩壊と呼ばれる別のプロセスを経て、さらに別の元素へと変化していきます。β崩壊とは、原子核が電子を放出することで、原子番号が1増える現象です。 こうして、トリウム232から始まった原子核崩壊の連鎖は、様々な放射性元素を経て、最終的に安定な鉛208(Pb-208)へと到達するまで続きます。この一連の崩壊過程が、トリウム系列と呼ばれるものです。 トリウム系列は、地球の年齢を測定したり、地質学的な年代測定に利用されたりするなど、様々な分野で重要な役割を担っています。
原子力施設

夢のエネルギーへ、核融合と核分裂の融合

未来のエネルギー源として期待される核融合。太陽が莫大なエネルギーを生み出す仕組みと同じ原理であり、その実現は人類の夢でもあります。核融合は、核分裂のように放射性廃棄物を大量に排出することが無く、安全性も高いという利点があります。しかし、実用化には解決すべき課題も残されています。 その一つが、核融合反応を起こすために必要なエネルギーの量です。核融合は非常に高い温度と圧力下でなければ起こらず、現状では投入エネルギーに対して得られるエネルギー量が十分ではありません。この課題を克服するために、近年注目されているのが「核融合−核分裂ハイブリッド炉」です。 これは、核融合炉だけでは達成が難しいエネルギー増倍率向上を目指し、既存の核分裂技術を組み合わせた革新的なシステムです。具体的には、核融合反応で発生する中性子を核分裂反応の燃料に利用します。核融合反応で放出される高速中性子は、核分裂反応の効率を飛躍的に高めることができると期待されています。 このハイブリッド炉は、核融合と核分裂、それぞれの技術が持つ利点を最大限に活かすことで、より効率的なエネルギー創出を目指します。将来的には、核融合反応の安定稼働に必要なトリチウムの増殖にも応用できる可能性を秘めており、エネルギー問題解決の切り札として期待されています。