原子力発電における増殖:燃料が増えるしくみ
生物の世界では、細胞分裂などによって同じ種類の生き物が数を増やすことを増殖と言います。原子力発電の世界でも、これと似た現象が起こることがあります。原子力発電所で使われる燃料には、ウランやプルトニウムといった、核分裂を起こすことができる物質が含まれています。これらの物質は、発電のために核分裂を起こしていくと、だんだんと減っていくように思われます。しかし実際には、運転中にこれらの核分裂性物質が増える場合があるのです。これを、原子力における増殖と呼びます。
増殖は、主にウラン238という物質が、核分裂の際に発生する中性子を吸収することによって起こります。ウラン238は、中性子を吸収すると、いくつかの段階を経てプルトニウム239という物質に変化します。このプルトニウム239も、ウランと同じように核分裂を起こすことができる物質です。つまり、ウラン238が中性子を吸収することによって、核燃料となる物質が増えることになるのです。原子力発電において増殖は、核燃料をより効率的に利用できる可能性を秘めた現象として、現在も研究が進められています。