高速増殖炉

原子力施設

夢の原子炉:高速増殖炉の仕組み

- 高速増殖炉核燃料を増やし続ける原子炉高速増殖炉(FBR)は、まるで錬金術のように、運転中に消費する以上の核燃料を作り出すことができることから「夢の原子炉」と称されています。通常の原子炉では、天然ウランの中にわずかに含まれるウラン235という核分裂しやすい同位体が燃料として使われています。一方、高速増殖炉では、天然ウランの大部分を占めるウラン238に高速の中性子を当てることで、プルトニウム239という核分裂しやすい物質を生み出し、これを燃料として利用します。高速増殖炉の最大の特徴は、プルトニウム239を燃やすと同時に、さらに多くのプルトニウム239を作り出すことができる点にあります。これは、炉の中にウラン238を置くことで、高速の中性子がウラン238に吸収され、プルトニウム239に変換されるためです。このサイクルによって、高速増殖炉は理論上、燃料であるプルトニウムを増やし続けながら、エネルギーを生み出すことが可能となります。高速増殖炉は、ウラン資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化、エネルギー安全保障への貢献など、多くの利点が期待されています。しかし、技術的な課題や安全性に対する懸念、開発コストの高さなど、解決すべき課題も残されています。
核燃料

増殖比:原子炉の燃料を増やす仕組み

原子炉は、ウランなどの核分裂しやすい物質を燃料として、莫大なエネルギーを生み出す装置です。燃料であるウランは、自然界に存在するウラン鉱石から抽出・精製され、原子炉で利用できる形に加工されます。この燃料は、原子炉の中心部に設置された多数の燃料集合体と呼ばれる部分に収納されます。 燃料集合体の中で、ウランは中性子を吸収すると核分裂を起こし、膨大な熱を発生させます。この熱は、原子炉内を循環する冷却材によって運び出され、蒸気を発生させるために利用されます。発生した蒸気は、タービンと呼ばれる羽根車を高速で回転させます。タービンに接続された発電機が回転エネルギーを電力に変換することで、私たちが家庭や工場で使う電気エネルギーが生まれます。 このように、原子炉と燃料は切っても切れない関係にあり、燃料の核分裂反応によって生み出される熱エネルギーを電気に変換することで、現代社会の重要なエネルギー源としての役割を担っています。
原子力発電の基礎知識

原子力の基礎: 速中性子とその役割

原子力の分野では、中性子はそのエネルギーによって分類されます。私たちの身の回りにある物質と反応を起こしやすい、エネルギーの低い熱中性子。そして、特にエネルギーの高い中性子は、速中性子と呼ばれます。 この速中性子は、具体的にどれくらいのエネルギーを持っていれば良いのか、実は明確な定義はありません。分野や用途によって、0.1MeV以上とする場合もあれば、0.5MeV以上とする場合もあります。MeVとは、メガ電子ボルトと読み、原子や原子核のエネルギーを表す際に用いられる単位です。 定義が曖昧であるにも関わらず、この高いエネルギーこそが、速中性子を原子力利用において重要な役割を担う存在にしています。例えば、ウランなどの重い原子核は、熱中性子ではなかなか分裂しませんが、速中性子であれば効率良く分裂させることができます。この性質を利用して、高速増殖炉という、消費する以上の核燃料を作り出すことができる夢の原子炉の開発が進められています。 このように、エネルギーの高い速中性子は、原子力の未来を担う重要な鍵を握っていると言えるでしょう。
核燃料

増殖性: 原子力の夢を叶える鍵

原子力発電は、ウランなどの核分裂しやすい物質が原子核分裂を起こす際に発生する莫大なエネルギーを利用しています。この核分裂しやすい物質を「核燃料物質」と呼び、原子炉の炉心に装荷されて熱エネルギーを生み出す役割を担います。 核燃料物質は原子炉の運転に伴い徐々に消費されていきますが、ある種類の原子炉では、消費される量よりも多くの核燃料物質を生み出すことができます。これを「増殖性」と呼びます。 増殖性を有する原子炉は、運転中に発生する中性子を効率的に利用することで、核燃料物質であるウラン238を核分裂可能なプルトニウム239に変換します。この過程を「核変換」と呼びます。 核変換によって生成されたプルトニウム239は、ウラン235と同様に核分裂を起こすことができるため、再び原子炉の燃料として利用することが可能です。このように、増殖性を有する原子炉は、核燃料資源の有効利用に大きく貢献する可能性を秘めています。 代表的な増殖炉として、高速増殖炉が挙げられます。高速増殖炉は、中性子の速度を落とさずに核分裂反応を起こすことで、高い増殖性能を実現しています。日本は、高速増殖炉の開発を長年進めており、高速実験炉「常陽」や原型炉「もんじゅ」などの開発実績があります。
核燃料

原子力発電における増殖:燃料が増えるしくみ

生物の世界では、細胞分裂などによって同じ種類の生き物が数を増やすことを増殖と言います。原子力発電の世界でも、これと似た現象が起こることがあります。原子力発電所で使われる燃料には、ウランやプルトニウムといった、核分裂を起こすことができる物質が含まれています。これらの物質は、発電のために核分裂を起こしていくと、だんだんと減っていくように思われます。しかし実際には、運転中にこれらの核分裂性物質が増える場合があるのです。これを、原子力における増殖と呼びます。 増殖は、主にウラン238という物質が、核分裂の際に発生する中性子を吸収することによって起こります。ウラン238は、中性子を吸収すると、いくつかの段階を経てプルトニウム239という物質に変化します。このプルトニウム239も、ウランと同じように核分裂を起こすことができる物質です。つまり、ウラン238が中性子を吸収することによって、核燃料となる物質が増えることになるのです。原子力発電において増殖は、核燃料をより効率的に利用できる可能性を秘めた現象として、現在も研究が進められています。
その他

日本のエネルギー未来: 原子力立国計画の展望

2006年8月に決定された原子力立国計画は、日本のエネルギー政策における重要な柱となっています。これは、2005年に閣議決定された「原子力政策大綱」に基づき、資源エネルギー庁が中心となって具体策をまとめたものです。 この計画は、原子力の利用促進だけを目的としたものではありません。エネルギーを海外からの輸入に頼っている現状を改善し、エネルギーの安定供給を図ること、原子力発電によって経済を活性化し、経済成長につなげること、そして、二酸化炭素の排出量を抑え、地球温暖化問題の解決に貢献することなど、様々な目標を達成することを目指しています。 原子力立国計画は、日本のエネルギーの未来、経済の将来、そして地球環境問題への取り組みを左右する重要な計画と言えるでしょう。
原子力発電の基礎知識

原子力発電における液体金属の役割

物質は温度変化によって、固体、液体、気体と姿を変えます。これは水と氷の関係を見ればよく分かりますね。金属も例外ではなく、熱を加えていくと液体になるものがあります。これを液体金属と呼びます。 常温で液体金属として存在するのは水銀だけです。体温計や蛍光灯など、私達の身の回りでも幅広く活用されています。水銀以外にも、ナトリウム、リチウム、カリウム、鉛、ビスマスといった金属も、比較的低い温度で液体になります。これらの金属は単独で利用されることもあれば、ナトリウム-カリウム合金や鉛-ビスマス合金のように、複数の金属を組み合わせて利用されることもあります。 液体金属は熱をよく伝える性質を持っているため、原子力発電所では冷却材として利用されています。原子炉内で発生した熱を効率的に運び出すことで、安全に発電を行うことができるのです。また、液体金属は電気を通しやすいという特徴も持っています。そのため、電池の電極材料など、様々な分野での応用が期待されています。
核燃料

原子力発電とワンススルー方式

エネルギー資源としての原子力は、ウランなどの核燃料が持つ莫大なエネルギーを利用して、電気を作る方法です。原子力発電では、ウランの原子核が核分裂する際に生じる熱を利用して水蒸気を発生させ、その蒸気の力でタービンを回転させることで電気を作り出します。火力発電のように石炭や石油を燃やす必要がないため、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を大幅に抑えることができます。 近年、地球温暖化は深刻な問題となっており、世界中で二酸化炭素の排出量削減が求められています。原子力発電は、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーと比べると、天候に左右されずに安定して電気を供給できるという利点もあります。 地球環境への負荷が小さく、安定したエネルギー供給が可能であることから、原子力発電は将来のエネルギー問題解決への貢献が期待されています。しかし、原子力発電は放射性廃棄物の処理や事故のリスクなど、解決すべき課題も抱えています。これらの課題を克服し、安全性を高めるための技術開発や制度の整備が重要です。
核燃料

原子炉の精密構造:ワイヤスペーサーの役割

原子力発電所では、燃料を無駄なく使うことがとても大切です。発電効率を高めるために、ナトリウム冷却高速増殖炉(FBR)では、燃料を効率よく燃やす工夫がされています。 FBRでは、燃料ピンと呼ばれる棒状の燃料を束にして燃料集合体を作ります。この燃料集合体は、出来るだけ多くの燃料ピンを詰め込むことで、炉心内の燃料の密度を高めています。燃料ピン同士の間隔を狭くすることで、より多くの燃料を炉心に装荷することができ、その結果、炉心の出力密度を高めることが可能となります。 燃料ピンは、三角形の形に規則正しく並べられており、その間を液体ナトリウムが流れ冷却しています。 燃料集合体の高密度化は、FBRの重要な技術の一つであり、燃料の増殖性能の向上に大きく貢献しています。燃料の増殖性能とは、燃料として使用できるウラン238をプルトニウム239に変換する能力のことです。高密度化により、この変換効率を高めることができます。 このように、燃料集合体の高密度化は、原子力発電の効率を高め、資源の有効利用に繋がる重要な技術です。
原子力施設

炉心・機器熱流動試験装置:高速増殖炉開発の要

高速増殖炉は、ウラン資源を有効利用できる未来の原子炉として期待されています。この炉は、従来の原子炉とは異なり、熱伝導率の高いナトリウムを冷却材として使用することで、高い熱効率と安全性の両立を目指しています。しかし、ナトリウム冷却材を用いる高速増殖炉の開発には、熱や流れの動きを正確に把握することが非常に重要です。 ナトリウムは水と比べて熱伝導率が低いため、炉心内での温度分布や流量分布が複雑になります。この複雑な現象を正確に予測し、炉心の安全性を確保するためには、詳細な熱流動解析が欠かせません。 熱流動試験は、この熱流動解析の精度を向上させるために重要な役割を担っています。実寸大模型や縮小模型を用いた試験や、コンピュータシミュレーションを用いた解析など、様々な手法を組み合わせることで、炉心内の熱と流れの挙動を詳細に把握することができます。これらの試験を通して得られたデータは、炉心の設計や安全性の評価に活用され、高速増殖炉の実現に大きく貢献しています。
核燃料

劣化ウラン:資源か廃棄物か?

原子力発電所では、ウラン燃料を使って熱と電気を作っています。しかし、地球上に存在する天然のウランをそのまま発電に使うことはできません。ウランには、核分裂を起こしやすいウラン235と、そうでないウラン238の二種類が存在します。発電に適しているのは、核分裂を起こしやすく、より多くのエネルギーを生み出すウラン235の方です。しかし、天然ウランにおけるウラン235の割合は約0.7%と非常に少なく、ほとんどがウラン238で占められています。そこで、ウラン235の割合を人工的に高める必要があり、この作業をウラン濃縮と呼びます。ウラン濃縮を行うことで、原子炉内で効率的に核分裂を起こせるようになり、より多くのエネルギーを取り出すことができるのです。 ウラン濃縮では、まず天然ウランをガス状の化合物に変換し、遠心分離機などを使って軽いウラン235と重いウラン238を分離します。この過程で、必然的にウラン235の割合が減ったウラン、すなわち劣化ウランが生じます。 劣化ウランは、ウラン濃縮の際に取り除かれるため、放射能のレベルは天然ウランよりも低くなっています。しかし、重金属としての性質を持つため、その扱いには注意が必要です。主に、砲弾や装甲車の装甲など、軍事目的で利用されています。
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原子力発電の心臓部:ループ型原子炉

原子力発電所の中枢を担う原子炉は、その構造によって大きく二つに分類されます。一つはループ型原子炉、もう一つはタンク型原子炉と呼ばれています。この分類は、原子炉冷却材、つまり原子炉内で発生した熱を運ぶための物質の循環方式の違いに基づいています。 ループ型原子炉は、原子炉圧力容器と呼ばれる頑丈な容器の中で核分裂反応を起こし、そこで発生した熱を冷却材へと伝えます。この冷却材は配管によって原子炉の外にある蒸気発生器へと送られ、そこで熱交換によって水を沸騰させて蒸気を発生させます。発生した蒸気はタービンを回し、発電機を駆動する仕組みです。ループ型原子炉は、冷却材が循環する経路がループ状になっていることからその名がつけられました。 一方、タンク型原子炉は、原子炉圧力容器の中に原子炉の主要な機器と冷却材をすべて収納する構造となっています。原子炉内で発生した熱は、冷却材を自然循環またはポンプによって循環させることで蒸気発生器へと伝えられます。ループ型原子炉に比べて構造がシンプルであることが特徴です。 このように、原子炉には大きく分けて二つの型が存在し、それぞれに特徴があります。原子力発電所の設計や運用においては、これらの特徴を理解した上で最適な型を選択することが重要となります。
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原子力開発の要、原型炉とは?

原子力発電は、使用済み核燃料の処理といった問題を抱えているものの、エネルギー源を安定して確保できるという点や地球温暖化問題への対策という観点から、私たちにとって重要な役割を担っています。この原子力発電を将来的にも安定して利用していくためには、現在稼働している原子力発電所の改良を進めていくことはもちろんのこと、安全性や経済性、核燃料の循環利用の効率などを従来よりも向上させた新型炉の開発が必要不可欠です。 新型炉を開発するためには、実際に設計図通りに原子炉が機能するか、安全上の問題はないかなどを検証する必要がありますが、このような新型炉の実証実験を行うための炉が「原型炉」と呼ばれるものです。原型炉は、文字通り新型炉の試作品であり、開発した技術が実用レベルで機能するかを確認するために建設されます。そして、この原型炉での運転データや実験結果の分析を通じて、更なる技術の向上や設計の改良などが図られます。つまり、原型炉は新型炉の実現に向けた開発段階において、必要不可欠な存在と言えるのです。
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夢の原子炉:スーパーフェニックスの栄光と挫折

原子力発電は、ウランの核分裂反応を利用して膨大なエネルギーを生み出す技術です。しかし、現在広く使われている原子炉では、天然に存在するウランのうち、ほんの一部分しかエネルギーに変換することができません。残りの大部分は使い切れずに残ってしまいます。 このような現状を打破し、資源を有効活用するために開発されたのが高速増殖炉です。高速増殖炉は、核分裂反応で発生する高速中性子を利用するという画期的な特徴を持っています。この高速中性子を使うことで、従来の原子炉では利用できなかったウランまでをもエネルギーに変換することが可能になります。 さらに、高速増殖炉は、運転中に発生する高速中性子をウランに照射することで、核燃料であるプルトニウムを新たに作り出すことができます。これは、石炭を燃やしつつ、その燃えカスから新しい石炭を作り出すようなもので、燃料を増殖させることができるため「増殖炉」と呼ばれています。 高速増殖炉は、エネルギー資源の有効活用という点で非常に優れた技術であり、エネルギー問題の解決に貢献することが期待されています。
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「もんじゅ」:日本の高速増殖炉開発の道のり

「もんじゅ」は、日本のエネルギー問題解決の切り札として、「夢の原子炉」と期待を込めて呼ばれていました。従来の原子炉とは異なり、ウラン燃料をより効率的に活用できる高速増殖炉という技術を採用していました。高速増殖炉は、ウランを核分裂させてエネルギーを取り出すだけでなく、その過程で発生する中性子を吸収させてプルトニウムを生成します。生成されたプルトニウムは、再び燃料として使用することができるため、資源の有効利用に大きく貢献します。さらに、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して再利用することで、核廃棄物の量を大幅に減らすことも期待されていました。このように、「もんじゅ」はエネルギーの自給率向上と環境負荷低減の両面から、日本の未来を担う夢の技術として、大きな注目を集めていたのです。