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原子力施設

地下深くに眠る研究施設:HADES

- 地下実験施設HADESとはベルギーの原子力センターが建設した地下実験施設HADESは、原子力発電に伴い発生する高レベル放射性廃棄物を、地下深くの粘土層に安全に処分する方法を研究するための施設です。1980年代から建設が進められ、地下230メートルという深さに主要な実験場が設けられています。この実験場は、直径2.65メートルの立坑と、そこから水平方向に伸びる直径3.5メートルの横抗回廊で構成されています。この地下空間を利用して、様々な研究活動が行われています。まず、処分場の候補地として選ばれた粘土層の特性を詳しく調べる研究が行われています。具体的には、粘土層の強度や透水性、そして放射性物質を吸着する能力などが調べられています。次に、実際に放射性廃棄物を粘土層に埋め込むための処分場の建設技術に関する研究も進められています。例えば、地下深くまで安全にトンネルを掘削する技術や、放射性廃棄物を安定して保管するための容器の開発などが挙げられます。さらに、万が一放射性物質が容器から漏洩した場合に備え、粘土層の中をどのように放射性物質が拡散していくのかを予測する研究も行われています。これらの研究を通して、HADESは高レベル放射性廃棄物の地層処分を安全かつ確実に実施するために必要なデータを取得し、その実現可能性を評価するという重要な役割を担っているのです。
原子力の安全

HAMMLAB:原子力発電における人と機械の協調

1967年、ノルウェーのハルデン炉において、原子力発電の安全性と効率性を向上させるための革新的な計画が開始されました。これは「ハルデン計画」と呼ばれ、コンピュータの力を駆使して原子炉の運転を自動化する、当時としては極めて先進的な試みでした。 ハルデン計画の最大の目的は、原子炉の運転データ収集と分析、そしてそれらに基づいた制御をコンピュータに任せることで、人間のオペレーターの負担を軽減し、ヒューマンエラーの可能性を最小限に抑えることにありました。これは、航空機の操縦システムに自動操縦装置が導入されたのと同様に、原子力発電の安全性と信頼性を飛躍的に向上させる可能性を秘めていました。 ハルデン計画では、原子炉の炉心内の中性子束分布や温度、圧力などの膨大なデータをリアルタイムで収集・分析し、その結果に基づいて制御棒の挿入量や冷却材の流量を自動的に調整することで、原子炉の出力を最適に保つことを目指しました。また、収集されたデータは、原子炉の安全性評価や運転効率向上のための研究開発にも活用されました。 ハルデン計画は、その後の原子力発電におけるコンピュータ応用の先駆けとなり、世界中の原子力発電所の設計・運転に大きな影響を与えました。今日では、コンピュータによる高度な制御システムは、原子力発電所の安全性と効率性を維持する上で不可欠なものとなっています。
原子力施設

韓国の多目的研究炉:HANARO

- HANAROの概要HANARO(High-flux Advanced Application Reactor)は、1995年2月に韓国の原子力研究の中枢機関である韓国原子力研究所(KAERI)に建設された多目的研究炉です。「研究炉」とは、原子力の平和利用を目的とした研究開発のために設計された原子炉のことを指します。HANAROは、その名の通り、高い熱中性子束密度を誇り、様々な研究分野に利用されています。HANAROの熱出力は30MWで、これは都市部に電力を供給するような大型原子力発電所と比べると小規模です。しかし、研究炉としてのHANAROの真価は、その高い熱中性子束密度にあります。最大で2〜3×10¹⁴n/cm²・sに達するこの数値は、物質の性質や構造を原子レベルで詳細に調べることを可能にする、非常に強力なツールと言えます。HANAROは、この高い熱中性子束密度を活かして、幅広い分野の研究開発に貢献しています。具体的には、新しい材料の開発や評価を行う材料科学分野、原子炉で使用する燃料や材料の耐久性を調べる照射試験、医療や工業分野で利用される放射性同位元素の製造、そして物質の構造や性質を解明するための中性子ビーム利用などが挙げられます。このように、HANAROは韓国における原子力研究の要として、多岐にわたる分野の進歩を支えています。
その他

食品の安全を守るHACCPとは?

- HACCPの起源 HACCPは、「Hazard Analysis and Critical Control Point」の頭文字をとった言葉で、日本語では「危害分析重要管理点」と訳されます。食品の安全性を確保するための管理手法であるHACCPは、1960年代のアメリカで、宇宙食の安全性を確実なものにするために開発されました。 当時の宇宙開発は国家の威信をかけた競争のさなかにあり、宇宙飛行士には最高の体調で任務を遂行することが求められていました。しかし、宇宙空間という特殊な環境下では、食中毒が起きた場合、地上にいるようには簡単に対応できません。万が一、宇宙で食中毒が発生すれば、宇宙飛行士の生命はもちろんのこと、ミッション全体の成功にも重大な影響を及ぼす可能性がありました。 そこで、従来のように完成した食品の検査だけに頼るのではなく、食品の製造工程全体に目を向ける必要性が生まれました。HACCPは、原材料の受け入れから、製造、加工、包装、出荷に至るまでのすべての工程において、危害となる可能性のある要因(Hazard)を特定し分析します。そして、その危害要因を排除したり、安全なレベルまで減らしたりするための特に重要な管理ポイント(Critical Control Point)を定め、そのポイントを重点的に管理することで、より安全な食品の製造を目指そうという考え方から生まれました。
その他

地球温暖化とHFC: 冷媒ガスがもたらす影響

- HFCとは? HFCは、ハイドロフルオロカーボンと呼ばれる物質の略称です。 ハイドロフルオロカーボンは、炭素と水素からなる炭化水素の一部またはすべての水素をフッ素に置き換えた化合物です。 このHFCは、様々な製品の製造や利用に欠かせない役割を果たしています。 例えば、エアコンや冷蔵庫などの冷媒として使用されています。 また、食品の容器や断熱材に使われる発泡剤、電子機器の製造工程で使用される洗浄剤、スプレー缶などに使用される噴射剤など、幅広い用途で利用されています。 しかし、HFCは地球温暖化に影響を与える温室効果ガスの一種としても知られています。そのため、近年では、HFCの排出量を削減するための国際的な取り組みが進められています。 HFCは私たちの生活に欠かせないものですが、地球環境への影響も考慮していく必要があります。
放射線について

がん治療の未来を切り拓く重粒子線治療とは?

近年、がん治療の分野は目覚ましい進歩を遂げています。昔ながらの外科手術、薬物を使った治療、放射線を使った治療に加えて、全く新しい治療法が次々と生み出されています。中でも特に注目を集めているのが、重粒子線という特別な線を使う治療法です。 重粒子線治療は、手術と比べて体への負担が少なく、がん細胞だけを狙い撃ちできるという利点があります。従来の放射線治療では、正常な細胞にも少なからず影響が出てしまうことがありました。しかし、重粒子線治療では、狙った場所だけにピンポイントで線が届くため、周りの正常な細胞への影響を抑えられます。 これは、がん患者さんにとって身体的な負担を軽くできる可能性を秘めていると言えます。また、治療効果も期待されており、従来の治療法では難しかったがんにも効果を発揮するケースが報告されています。 もちろん、まだ新しい治療法のため、費用や治療を受けられる施設が限られているなど、課題も残されています。しかし、今後の研究開発によって、多くのがん患者さんにとって、より身近で効果的な治療法になることが期待されています。
核燃料

エネルギー源としての重水素:核融合炉への期待

- 水素の仲間、重水素 私たちにとって身近な元素である水素には、重水素と呼ばれる“仲間”が存在します。水素の原子核は陽子1つだけからできていますが、重水素の原子核には陽子に加えて中性子が1つ含まれています。このため、重水素は水素よりもわずかに重くなります。 自然界に存在する水素の大部分は原子核が陽子1つの軽水素ですが、ごくわずかに重水素も含まれています。海水中の水素原子のおよそ0.015%が重水素です。この割合は海水中のウランの含有率よりも高く、海水から抽出することで重水素を資源として利用することが可能です。 重水素は原子力発電において重要な役割を果たします。原子力発電ではウランの核分裂反応を利用しますが、この反応を制御するために重水素が利用されます。具体的には、重水素から作られる重水が、原子炉内で発生する熱を効率的に運ぶ冷却材や、核分裂反応の速度を調整する減速材として用いられます。 このように、重水素は水素の仲間でありながら、異なる性質を持つ元素です。そして、その特性を生かして、原子力発電をはじめとする様々な分野で利用されています。
核燃料

高レベル放射性廃棄物:未来への負の遺産

- 高レベル放射性廃棄物とは原子力発電所では、電気を作る過程で、使用済み核燃料と呼ばれる、使い終えた燃料が発生します。この使用済み核燃料には、まだ燃料として使用できるウランやプルトニウムといった物質が含まれています。そこで、使用済み核燃料を化学処理して、これらの有用な物質を取り出す工程を「再処理」と言います。 再処理を行う過程で、どうしても発生してしまうのが、高レベル放射性廃棄物です。高レベル放射性廃棄物は、再処理によってウランやプルトニウムを取り除いた後に残る廃液や、その廃液をガラスと混ぜ合わせて固めたガラス固化体などを指します。 高レベル放射性廃棄物には、ウランの核分裂によって生じる核分裂生成物や、プルトニウムなどのアクチノイド元素が含まれており、非常に強い放射能を持っています。そのため、人の健康や環境への影響を考えると、厳重に管理することが極めて重要です。具体的には、高レベル放射性廃棄物は、冷却処理を施した後、頑丈な容器に封入され、地下深くの安定した地層に最終的に処分されることになります。このように、高レベル放射性廃棄物は、その発生から処分に至るまで、長い時間をかけて厳重に管理されるのです。
核燃料

高レベル放射性廃棄物:エネルギー利用と向き合う

原子力発電は、ウラン燃料の核分裂反応を利用して莫大なエネルギーを生み出し、私たちの生活を支える電気という形で供給しています。火力発電と比べて二酸化炭素の排出量が少ないという点で、地球温暖化対策としても期待されています。しかし、原子力発電は、電気を生み出すと同時に、取り扱いに注意が必要な高レベル放射性廃棄物も生み出します。 これは、原子力発電所で使い終わった燃料から、まだ使えるウランやプルトニウムを取り出す再処理の過程で発生します。再処理を行うと、放射能レベルの高い廃液や、それを固形化処理したものが発生し、これらを高レベル放射性廃棄物と呼びます。 高レベル放射性廃棄物は、非常に高い放射能を持つため、人の健康や環境への影響を最小限にするために、適切な方法で管理する必要があります。具体的には、ガラスと混ぜて固化処理を行い、金属製の容器に封入した上で、地下深くに作った施設で長期間にわたって保管します。 このように、原子力発電は、電気を生み出す一方で、高レベル放射性廃棄物という課題も抱えています。原子力発電の利用に関しては、エネルギー源としてのメリットだけでなく、高レベル放射性廃棄物の問題点についても理解を深めることが重要です。
核燃料

高レベル廃液(HALW)とは?

原子力発電所では、ウラン燃料が原子炉内で核分裂反応を起こすことで熱エネルギーを生み出しています。この時、燃料の中には核分裂反応によって生じた様々な放射性物質が含まれていきます。 燃料は一定期間使用すると、新しい燃料と交換されます。この使用済みの燃料のことを使用済み核燃料と呼びます。 使用済み核燃料には、まだウランやプルトニウムといった燃料として使用できる物質が約95%も含まれています。そこで、使用済み核燃料を化学処理して、ウランやプルトニウムを取り出し、再利用する技術が開発されています。これを再処理といいます。 再処理を行うと、ウランやプルトニウムは燃料として再利用できますが、同時に高レベル放射性廃液と呼ばれる、非常に放射能レベルの高い廃液が発生します。これが、高レベル廃液の発生源です。 高レベル廃液には、様々な放射性物質が含まれており、長期間にわたって強い放射線を出し続けるため、適切に処理・処分する必要があります。
原子力施設

高温ガス炉HTTR:未来のエネルギー

- 高温ガス炉HTTRとは高温ガス炉HTTRは、「高温工学試験研究炉」(High Temperature Engineering Test Reactor)の略称で、茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構が保有する試験研究炉です。1991年に建設が始まり、1998年には原子炉内で核分裂反応が連鎖的に起きる状態、つまり初臨界を達成しました。HTTRは、黒鉛減速ヘリウム冷却型原子炉という形式を採用しています。これは、中性子の速度を減速する減速材に黒鉛を、炉心を冷却する冷却材にヘリウムガスを用いる原子炉のことです。熱出力は30MWで、これはおよそ10万世帯分の電力を供給できる能力に相当します。HTTRは、発電を主な目的とした原子炉ではありません。その代わりに、高温ガス炉の技術実証や、将来のエネルギー源となりうる水素製造など、様々な分野への応用を目指した研究開発に利用されています。具体的には、原子炉から発生する高温の熱を利用して水素を製造する技術の開発や、高温の熱を化学プラントなどに供給する高温熱供給システムの実証などが進められています。HTTRは、安全性が高く、燃料の有効利用や高温熱利用といった利点を持つことから、次世代の原子炉として期待されています。
原子力施設

未来のエネルギー:高温ガス炉HTR-500

- 次世代の原子炉 「高温ガス炉」。聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは、ドイツで開発が進められている、未来のエネルギーを担うかもしれない革新的な原子炉の名前です。「HTR-500」という名称で知られるこの原子炉は、「HochtemperaturReactor-500」の略称であり、従来の原子炉とは大きく異なる特徴を持っています。 従来の原子炉では、水を冷却材として使用していますが、高温ガス炉は、その名の通りヘリウムガスを冷却材として使用します。ヘリウムガスは化学的に安定しているため、水のように水素爆発を起こす危険性がありません。また、高温ガス炉は、運転中に燃料を交換できるという利点も持っています。これは、従来の原子炉では停止しなければならなかった作業であり、稼働率の向上に大きく貢献します。 さらに、高温ガス炉は、非常に高い温度で運転することができます。この高温の熱は、発電だけでなく、水素製造などの化学プラントにも利用することができ、エネルギー効率の向上と二酸化炭素排出量の削減に貢献することが期待されています。 高温ガス炉は、安全性、経済性、環境適合性に優れた、まさに次世代の原子炉と言えるでしょう。実用化に向けて、更なる研究開発が進められています。
原子力施設

HOP法:原子力発電所の解体に向けた除染技術

- HOP法とは原子力発電所を安全に解体し、その土地を将来の世代に引き継ぐためには、発電所の運転によって生じた放射性物質を適切に除去する「除染」が欠かせません。長年稼働した原子炉の配管や機器の表面には、放射性物質を含む酸化物が付着してしまいます。これを効率的に除去するために開発された化学除染法の一つが、HOP法(ヒドラジン-シュウ酸-過マンガン酸カリウム法)です。HOP法は、三つの薬品を組み合わせて酸化物を溶解・剥離します。まず、ヒドラジンという薬品が酸化物を還元し、溶解しやすい状態に変えます。次に、シュウ酸が鉄などの金属イオンと結合し、安定な錯体を形成することで、金属の腐食を抑えながら酸化物を溶解していきます。最後に、過マンガン酸カリウムが残ったヒドラジンと反応し、処理液を中和することで除染工程が完了します。HOP法は、従来の除染方法と比べて、除染効果が高く、金属への影響が少ないという利点があります。そのため、原子炉の配管や機器など、複雑な形状をした対象物に対しても有効な除染方法として期待されています。しかし、処理時に二次廃棄物が発生するため、その処理方法が課題として残されています。今後、より環境負荷の少ない除染技術の開発が求められています。
原子力の安全

原子力施設の安全を守るHEPAフィルタ

- HEPAフィルタとはHEPAフィルタは、High Efficiency Particulate Air Filterの略称で、日本語では「超高性能エアフィルタ」と呼ばれています。その名の通り、空気中に漂う、目に見えないほど小さな粒子を非常に高い効率で捕集することができるフィルターです。0.3マイクロメートルという、髪の毛の太さの約100分の1ほどの極めて小さな粒子に対して99.97%以上の捕集効率を誇ります。これは、花粉やダニはもちろんのこと、風邪やインフルエンザの原因となるウイルス、食中毒を引き起こす細菌など、様々な微生物も除去できることを意味します。この優れた性能から、HEPAフィルタは、医療施設や精密機器工場など、空気中の清浄度が特に求められる場所で広く活用されています。例えば、手術室や集中治療室では、空気中に浮遊する細菌やウイルスから患者を守るために、HEPAフィルタを組み込んだ空気清浄機が欠かせません。また、半導体や医薬品などの製造工場では、製品の品質に影響を与える微粒子を除去するために、HEPAフィルタを通して清浄された空気が使用されています。最近では、その高い空気清浄能力が評価され、一般家庭でもHEPAフィルタを搭載した空気清浄機が普及しています。特に、花粉症やアレルギーに悩む人、小さな子供がいる家庭などでは、HEPAフィルタは、クリーンな空気環境を実現するための有効な手段と言えるでしょう。