SL-1

原子力の安全

原子力発電の安全性:出力暴走とその対策

- 出力暴走とは原子力発電所では、ウラン燃料の核分裂反応を利用して熱を作り出し、その熱で水を沸騰させて蒸気を発生させます。この蒸気の力でタービンを回し、発電機を動かすことで電気を生み出しています。 この核分裂反応は、中性子と呼ばれる粒子がウランの原子核にぶつかると、ウランが分裂し、さらに中性子が飛び出すという連鎖反応によって起こります。この連鎖反応がどれくらい活発に起こるかを示す指標が実効増倍率です。 実効増倍率が1よりも大きい状態は臨界超過状態と呼ばれ、この状態では連鎖反応が活発になりすぎて、原子炉内の熱や圧力が急激に上昇する可能性があります。 反対に、1よりも小さい状態は臨界未満状態と呼ばれ、連鎖反応は次第に収束していきます。ちょうど1の状態は臨界状態と呼ばれ、原子炉の出力を一定に保つことができます。 通常運転時、原子炉は臨界状態もしくは臨界未満状態に保たれており、制御棒と呼ばれる中性子を吸収する物質を炉内に挿入したり、引抜いたりすることで、実効増倍率を調整し、出力を制御しています。 出力暴走とは、何らかの原因で実効増倍率が1を超え、臨界超過の状態となり、原子炉の出力が制御できないほど急激に増大してしまう現象のことを指します。 出力暴走は、炉心の損傷や放射性物質の放出に繋がりかねない、非常に危険な現象です。
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SL-1事故:教訓と原子力安全への影響

- SL-1事故の概要1961年1月3日、アメリカ合衆国アイダホ州にある国立原子炉試験施設で、SL-1原子炉の事故が発生しました。SL-1は、アメリカ陸軍が開発した小型の原子炉で、軍事基地への電力供給を目的としていました。事故当時、原子炉は停止状態にありましたが、3名の作業員が定期保守作業の一環として、制御棒の駆動機構に接続する作業を行っていました。この作業中に、1本の制御棒が誤って完全に引き抜かれてしまったことが、事故の直接の原因となりました。制御棒は、原子炉内の核分裂反応を制御するために用いられます。制御棒が引き抜かれると、核分裂反応が急激に増加し、大量のエネルギーが放出されます。SL-1の場合では、制御棒の誤操作により、原子炉はわずか4ミリ秒で臨界状態に達したと推定されています。この急激なエネルギー放出により、原子炉容器内の水が瞬間的に沸騰し、蒸気爆発が発生しました。蒸気爆発の衝撃は非常に大きく、原子炉建屋の上部を吹き飛ばし、約12トンの原子炉容器を約3メートル上昇させました。 3名の作業員のうち2名は、この爆発による衝撃で即死しました。残る1名の作業員も、全身に致命的な放射線を受けており、搬送先の病院で死亡が確認されました。SL-1事故は、アメリカ合衆国における原子力発電の歴史の中で、初めて、そして唯一の作業員の死亡事故となりました。 この事故は、原子炉の設計、安全手順、作業員の訓練など、多くの教訓をもたらし、その後の原子力発電所の安全性の向上に大きく貢献しました。