原子炉の制御と遅発臨界

原子炉の制御と遅発臨界

電力を見直したい

先生、「遅発臨界」って、どういう意味ですか?なんだか難しそうです。

電力の研究家

そうだね。「臨界」は原子炉の中で核分裂が連鎖的に起きる状態のことだけど、「遅発臨界」は、その連鎖反応がゆっくり進む状態を指すんだ。これは、「遅発中性子」というものが関係しているんだよ。

電力を見直したい

「遅発中性子」ですか?

電力の研究家

そう。「遅発中性子」は、核分裂のときにすぐには飛び出してこない、ちょっと遅れて出てくる中性子のことなんだ。この遅れて出てくる中性子のおかげで、原子炉の運転をゆっくりと安全に制御できるんだよ。

遅発臨界とは。

原子力発電では、「遅発臨界」という言葉がよく出てきます。これは、「即発臨界」と対比となる言葉です。原子炉の中で核分裂が連続的に起こる状態を「臨界」といいますが、この状態になるのに「遅発中性子」が重要な役割を果たすことを強調する際に「遅発臨界」という言葉を使います。

核分裂が起こると中性子が飛び出してきますが、すべての neutron がすぐに出てくるわけではありません。ウラン235 が核分裂する場合、99.25% は「即発中性子」として核分裂とほぼ同時に放出されますが、残りの 0.75% は「遅発中性子」として時間差をおいて放出されます。これは、核分裂で生まれた物質(先行核)が壊れる時に遅れて中性子が飛び出してくるためです。

この「遅発中性子」を出す物質には約30種類あり、0.4秒から数10秒、平均すると0.14秒遅れて放出されます。「遅発中性子」はゆっくり放出されるため、その間に制御棒を使って中性子の数を調整することで、核分裂の反応をコントロールすることができます。つまり「遅発中性子」は、原子炉の運転を安定させるために非常に重要な役割を担っているのです。

原子炉と臨界

原子炉と臨界

– 原子炉と臨界原子炉は、ウランなどの核分裂しやすい物質が中性子を吸収すると、更に中性子を放出して二つに分裂する現象、すなわち核分裂を利用して莫大なエネルギーを生み出す施設です。この原子炉の運転においては、「臨界」という状態の維持が極めて重要になります。臨界とは、核分裂の連鎖反応が継続的に起こっている状態を指します。ウランなどの核分裂性物質に中性子が衝突すると、核分裂が起こり新たな中性子が放出されます。このとき放出された中性子が、更に別の核分裂性物質に衝突すると連鎖的に核分裂反応が継続します。臨界状態では、この核分裂の連鎖反応が一定の割合で持続的に行われます。原子炉では、この臨界状態を精密に制御することによって、安定したエネルギー生産を実現しています。具体的には、制御棒と呼ばれる中性子を吸収しやすい物質を炉心に挿入したり引抜いたりすることで、中性子の量を調整し、核分裂の連鎖反応の速度を制御しています。臨界には、連鎖反応が一定の割合で継続する「臨界」、反応が増加していく「超過臨界」、反応が減衰していく「未臨界」の三つの状態が存在します。原子炉の運転開始時には超過臨界状態にして核分裂反応を加速させ、安定出力になったら臨界状態を維持します。そして停止時には、制御棒を炉心に深く挿入することで未臨界状態にして核分裂反応を停止させます。このように、原子炉では臨界状態を緻密に制御することで、安全かつ安定したエネルギー供給を可能にしているのです。

状態 説明 制御棒の状態
臨界 核分裂の連鎖反応が一定の割合で継続する状態 中性子の量を調整し、核分裂の連鎖反応の速度を制御
超過臨界 連鎖反応が増加していく状態 制御棒を引き抜き、中性子の量を増やす
未臨界 連鎖反応が減衰していく状態 制御棒を挿入し、中性子の量を減らす

即発臨界と遅発臨界

即発臨界と遅発臨界

– 即発臨界と遅発臨界原子炉内で核分裂反応が継続的に起こる状態を「臨界」と呼びますが、臨界には大きく分けて「即発臨界」と「遅発臨界」の二つがあります。「即発臨界」とは、核分裂の際に瞬時に放出される「即発中性子」のみで連鎖反応が持続する状態を指します。ウラン235のような核分裂物質に中性子が衝突すると、核分裂反応が起こり、新たな中性子が放出されます。この時、放出された中性子が次の核分裂を引き起こすことで、連鎖的に反応が継続します。一方、「遅発臨界」は、即発中性子だけでは連鎖反応を持続できず、「遅発中性子」の存在が不可欠な状態です。即発中性子は、その名の通り核分裂とほぼ同時に放出されますが、遅発中性子は、核分裂生成物の一部が放射性崩壊する過程で放出されます。そのため、遅発中性子は、即発中性子に比べて放出されるまでに時間がかかります(数秒から数分)。原子力発電所では、安全性確保の観点から、遅発臨界状態を維持することが重要です。即発臨界状態では、中性子数が急激に増加し、反応の制御が困難になる可能性があります。一方、遅発臨界状態では、反応速度が遅いため、仮に中性子数が想定以上に増加した場合でも、制御棒を挿入するなどの対策を講じる時間を確保できます。このように、即発臨界と遅発臨界は、原子炉の安全性を考える上で非常に重要な概念です。

項目 即発臨界 遅発臨界
定義 即発中性子のみで連鎖反応が持続する状態 即発中性子だけでは連鎖反応を持続できず、遅発中性子の存在が不可欠な状態
中性子の放出 核分裂とほぼ同時に放出 核分裂生成物の放射性崩壊の過程で放出されるため、放出までに時間がかかる(数秒~数分)
反応速度 速い 遅い
制御の難易度 困難 容易
原子力発電所における状態 維持されない 安全性確保のため、この状態が維持される

遅発中性子の役割

遅発中性子の役割

原子力発電において、ウランなどの重い原子核が中性子を吸収すると、核分裂という現象が起こり、莫大なエネルギーが放出されます。この核分裂の際に、熱エネルギーと同時に中性子も放出されますが、実はこれらの中性子が放出されるタイミングは一様ではありません

核分裂直後に放出される中性子を即発中性子と呼び、ほとんどの中性子はこの即発中性子として観測されます。しかし、ごく一部ですが、核分裂後、少しの時間遅れを持って放出される中性子も存在します。これが遅発中性子と呼ばれるものです。

ウラン235の場合、核分裂によって生じる中性子のうち、約0.75%が遅発中性子です。これらの遅発中性子は、即発中性子に比べて発生が遅く、平均で約0.14秒の時間差があります。一見、このわずかな時間差は取るに足らないように思えるかもしれません。しかし、原子炉の運転において、この遅発中性子の存在は非常に重要な役割を果たしています。

原子炉内における連鎖反応の制御は、中性子の数を調整することによって行われます。もし、すべての核分裂で生じる中性子が即発中性子のみであれば、中性子の数は非常に短時間で増減し、原子炉の出力制御は極めて困難なものとなるでしょう。しかし、遅発中性子の存在により、中性子数変化の速度が遅くなり、結果として原子炉の出力を緩やかに制御することが可能となるのです。

中性子の種類 説明 ウラン235の場合 原子炉への影響
即発中性子 核分裂直後に放出される中性子。ほとんどの中性子がこれに該当。 約99.25% 数が急激に変化しやすいため、制御が困難になる。
遅発中性子 核分裂後、少しの時間遅れを持って放出される中性子。 約0.75%(平均発生遅延時間:約0.14秒) 中性子数変化の速度を遅くするため、出力を緩やかに制御することを可能にする。

原子炉制御と遅発臨界

原子炉制御と遅発臨界

原子炉の運転は、核分裂反応で生じる中性子数を一定に保つ「臨界」という状態で行われます。臨界には、核分裂とほぼ同時に放出される「即発中性子」だけを考慮した「即発臨界」と、ごくわずかに遅れて放出される「遅発中性子」を含めた「遅発臨界」の二種類があります。
原子炉の運転は、安全性の観点から、この遅発臨界の状態で行われます。もし即発臨界の状態になると、中性子数は瞬時に増加し、制御が困難になります。これは、例えるならば、火のついたマッチを薪の山に投げ込むようなもので、一気に燃え広がり、消火が非常に困難になる状況に似ています。
一方、遅発臨界の状態では、遅発中性子の発生時間差を利用することで、中性子の増加速度を抑え、制御しやすくなります。これは、マッチを一本ずつ追加していくように、火の勢いを調整しながら燃焼を維持する状況に似ています。
具体的には、原子炉内には中性子を吸収する性質を持つ「制御棒」が挿入されており、この制御棒を上下させることで中性子吸収量を調整し、原子炉の出力を制御します。遅発臨界であれば、仮に中性子数がわずかに増加した場合でも、制御棒を挿入することで遅発中性子の発生を抑え、安全に中性子数を減少させることができます。このように、遅発臨界は原子炉の安全な運転に不可欠な要素と言えるでしょう。

項目 説明 イメージ
即発臨界 核分裂とほぼ同時に放出される即発中性子だけで臨界状態となること。制御が非常に困難。 火のついたマッチを薪の山に投げ込む
遅発臨界 ごくわずかに遅れて放出される遅発中性子を含めて臨界状態となること。遅発中性子の時間差を利用して制御が可能。 マッチを一本ずつ追加していく

遅延臨界の重要性

遅延臨界の重要性

原子炉の安全な運転には、「遅延臨界」という状態が極めて重要です。これは、原子炉内で核分裂反応が連鎖的に起こる際に、わずかながら「遅発中性子」と呼ばれる中性子が関与しているために起こる現象です。

原子炉内で核分裂が起きると、中性子が放出されます。この中性子は、次の核分裂を引き起こす役割を担っています。ほとんどの中性子は、核分裂とほぼ同時に放出されますが、一部の中性子は、少し遅れて放出されます。これが「遅発中性子」です。

もし、この遅発中性子が存在しなければ、原子炉内の出力は急激に上昇し、制御不能に陥る可能性があります。しかし、実際には遅発中性子が存在するため、原子炉内の出力変化は緩やかになり、制御しやすくなります。

このように、遅延臨界は、原子炉の出力変化を緩やかにし、制御を容易にすることで、原子力発電所の安全な運転に大きく貢献している重要な概念なのです。

状態 中性子の種類 特徴 原子炉への影響
遅延臨界 遅発中性子 核分裂後、少し遅れて放出される 出力変化が緩やかになり、制御しやすい
(即発中性子) 核分裂とほぼ同時に放出される (遅発中性子がなければ出力は急激に上昇し、制御不能になる可能性)