原子炉の安全性と崩壊熱

原子炉の安全性と崩壊熱

電力を見直したい

先生、「崩壊熱」って、原子炉が止まっているときでも熱が出続けるってどういうことですか? 原子炉が止まったら、核分裂は起こらないんじゃないんですか?

電力の研究家

いい質問だね。確かに原子炉が止まると核分裂はほとんど起こらなくなる。でも、核燃料の中には、まだ放射線を出す物質がたくさん残っているんだ。 これらの物質が放射線を出すときに熱を出すんだね。

電力を見直したい

じゃあ、その放射線を出す物質がなくなれば、熱も出なくなるんですか?

電力の研究家

その通り!放射線を出す物質は時間とともに減っていき、熱の量も減っていくんだ。 だから、原子炉が停止した後も しばらくは冷却し続ける必要があるんだよ。

崩壊熱とは。

原子力発電で使われる「崩壊熱」という言葉は、放射線を出す物質が壊れるときに発生する熱のことです。放射線を出す物質は、アルファ線、ベータ線、ガンマ線といった目に見えない光のようなものを出して壊れていきますが、この光のエネルギーは周りの物質に吸収されて、最終的には熱に変わります。そのため、原子炉の運転を止めても、核分裂で生まれた物質のうち、放射線を出す物質が崩壊熱を出し続けます。運転を止めた直後では、運転中の出力の7~8%もの熱が出ます。冷却する機能が止まってしまうような事故の時は、この崩壊熱を取り除かないと、炉心の温度が上がってしまい、燃料が溶けてしまう事態になります。実際、TMI事故ではこのような事態が起こってしまいました。そのため、事故後は崩壊熱を取り除く仕組みについての規制が厳しくなりました。

目に見えない熱源、崩壊熱とは

目に見えない熱源、崩壊熱とは

原子力発電所では、ウランなどの核燃料が中性子を吸収して核分裂を起こし、膨大なエネルギーを放出します。このエネルギーの大部分は熱として取り出され、発電に利用されます。しかし、核分裂反応後も、原子炉内では目に見えない熱源である「崩壊熱」が発生し続けています

原子炉内で核分裂を起こした物質は、新たな放射性物質に変化します。これらの放射性物質は不安定な状態にあり、時間経過とともに放射線を放出しながらより安定な状態へと変化していきます。この過程を「放射性崩壊」と呼びます。放射性崩壊の過程では、放射線だけでなく熱も発生します。これが「崩壊熱」です。

崩壊熱は、原子炉の運転中にも発生していますが、運転停止後も発生し続けます。その量は時間とともに減衰していきますが、完全に消失するまでには非常に長い時間がかかります。そのため、原子炉の運転停止後も、崩壊熱を除去し続ける冷却システムが不可欠となります。冷却が適切に行われない場合、燃料が高温になり、炉心損傷などの深刻な事故につながる可能性もあるのです。

項目 内容
原子力発電のしくみ ウランなどの核燃料が中性子を吸収して核分裂を起こし、熱エネルギーを発生させる。
崩壊熱の発生源 核分裂後に生成される放射性物質が、放射性崩壊する過程で熱を発生する。
崩壊熱の特徴 – 原子炉運転中・停止後も発生し続ける
– 時間経過とともに減衰する
– 完全に消失するまで非常に長い時間がかかる
崩壊熱への対策 原子炉運転停止後も、冷却システムにより崩壊熱を除去し続ける必要がある。
冷却失敗のリスク 燃料が高温になり、炉心損傷などの深刻な事故につながる可能性がある。

運転停止後も続く熱発生

運転停止後も続く熱発生

原子力発電所では、ウランなどの核燃料が核分裂反応を起こすことで莫大なエネルギーを生み出し、発電を行っています。原子炉の運転を停止すると、この核分裂反応は止まりますが、発電のために利用していた熱源が完全に消滅するわけではありません。なぜなら、原子炉の中には運転中に生じた放射性物質が残っており、それらが崩壊を続けるからです。
放射性物質は不安定な状態にあり、より安定した状態になろうとして放射線を出しながら別の原子へと変化していきます。これを放射性物質の崩壊と呼びます。この崩壊の過程では、熱エネルギーが発生します。これが崩壊熱と呼ばれるもので、原子炉の運転停止後も発生し続けます。
原子炉を停止した直後には、運転中の出力の約7〜8%にも相当する崩壊熱が発生します。これは、家庭用の電気ストーブ1台分を動かすことができるほどの熱量に匹敵します。時間経過とともに崩壊する放射性物質の量が減っていくため、崩壊熱の量も徐々に減少していきます。しかしながら、崩壊熱が完全にゼロになるまでには非常に長い年月を要します。

項目 説明
核分裂反応 ウランなどの核燃料が分裂し、莫大なエネルギーを生み出す反応。原子炉の運転中はこの反応によって熱が供給される。
放射性物質 原子炉の運転中に生じる、不安定な物質。崩壊する際に放射線を放出し、別の原子へと変化する。
崩壊 放射性物質がより安定した状態になろうとして、放射線を出しながら別の原子へと変化する現象。
崩壊熱 放射性物質の崩壊に伴って発生する熱エネルギー。原子炉の運転停止後も発生し続ける。
崩壊熱の量 原子炉停止直後は運転中の出力の約7〜8%に相当する。時間経過とともに徐々に減少するが、完全にゼロになるまでには非常に長い年月を要する。

崩壊熱と原子炉の安全性

崩壊熱と原子炉の安全性

原子力発電所では、ウランなどの核燃料が核分裂反応を起こすことで熱を生み出し、その熱を利用して蒸気を発生させ、タービンを回して発電を行います。核分裂反応を停止しても、原子炉内では核分裂生成物と呼ばれる物質が崩壊を続け、熱を生み出し続けます。この熱を崩壊熱と呼びます。
崩壊熱は、運転中の原子炉から発生する熱に比べると小さなものですが、原子炉の安全性を考える上で非常に重要な要素です。なぜなら、原子炉の冷却機能が停止すると、この崩壊熱によって炉心の温度が徐々に上昇し、最悪の場合、燃料が溶けてしまう可能性があるからです。
過去には、アメリカのスリーマイル島原子力発電所で、冷却機能の喪失により崩壊熱が除去できなくなり、炉心溶融事故に繋がった事例があります。この事故を教訓に、原子力発電所では、崩壊熱除去システムの信頼性向上や、炉心損傷に至るまでの時間的な余裕を増やすなど、様々な安全対策が強化されてきました。具体的には、複数の非常用ディーゼル発電機や、原子炉を自然の力だけで冷却できるシステムなどが導入されています。
このように、崩壊熱は原子力発電所の安全性を考える上で極めて重要な要素であり、今後も安全性の確保に向けた技術開発や対策が進められていくでしょう。

項目 内容
崩壊熱とは 核分裂反応停止後も、核分裂生成物の崩壊により発生し続ける熱
重要性 冷却機能停止時に炉心温度上昇を引き起こし、炉心溶融に繋がる可能性があるため、原子炉の安全性を考える上で非常に重要
過去の事故 アメリカのスリーマイル島原子力発電所事故

  • 冷却機能喪失により崩壊熱除去が不可能になり、炉心溶融事故に発展
安全対策
  • 崩壊熱除去システムの信頼性向上
  • 炉心損傷に至るまでの時間的余裕の増加
    • 例:複数台の非常用ディーゼル発電機の導入、原子炉を自然の力だけで冷却できるシステムの導入

崩壊熱の制御と利用

崩壊熱の制御と利用

原子力発電では、ウランなどの核燃料が核分裂反応を起こす際に膨大なエネルギーを生み出します。このエネルギーを利用してタービンを回し発電を行いますが、発電所を停止した後も、核燃料からは熱が放出され続けます。これは、核分裂反応で生じた放射性物質が、安定した状態になるために放射線を出しながら崩壊する際に発生する熱で、崩壊熱と呼ばれています。崩壊熱は、発電所の運転中と比べるとわずかな熱量ですが、適切に制御しなければ、炉心の過熱や損傷を引き起こす可能性があります。そのため、原子力発電所では、冷却水を循環させて崩壊熱を常に除去し、安全を確保する仕組みが備えられています。

一方、この崩壊熱を資源として捉え、積極的に活用しようとする動きもあります。崩壊熱は、発電所を停止した後も長期間にわたって発生し続けるため、安定した熱源として利用できる可能性を秘めているのです。例えば、この熱を利用して水を分解し、次世代エネルギーとして期待される水素を製造する研究開発が進められています。また、崩壊熱を電気に変換する熱電変換素子の技術開発も注目されています。

このように、崩壊熱は安全管理の観点からは慎重な制御が必要不可欠ですが、別の側面からは、新たなエネルギー源としての可能性も秘めています。崩壊熱を安全かつ有効に利用することで、原子力エネルギーの持続可能性をさらに高め、社会に貢献できる可能性が広がっています。

項目 内容
定義 核分裂反応で生じた放射性物質が、安定した状態になるために放射線を出しながら崩壊する際に発生する熱
特徴 発電所の運転停止後も長期間にわたって発生し続ける
安全性
  • 適切に制御しないと炉心の過熱や損傷の可能性
  • 冷却水を循環させて崩壊熱を除去し安全を確保
活用例
  • 水を分解して水素を製造
  • 熱電変換素子による発電