放射性同位体

放射線について

放射性同位体の製造法:ミルキング

- はじめに原子力は、私たちの社会において、エネルギー源としてだけでなく、様々な分野で重要な役割を担っています。特に、放射性同位体は、医療、工業、科学といった多岐にわたる分野で欠かせない存在となっています。医療分野では、放射性同位体を用いた画像診断や治療が広く行われています。例えば、がんの診断には、特定の臓器に集まりやすい性質を持つ放射性同位体を含む薬剤を投与し、その分布を画像化することで、がんの有無や位置を特定します。また、放射線治療では、がん細胞に放射線を照射して死滅させる治療が行われていますが、ここでも放射性同位体が利用されています。工業分野では、製品の品質管理や安全性の確保のために、放射性同位体を用いた非破壊検査が活用されています。これは、放射線を材料に照射し、その透過や散乱の様子を調べることで、材料内部の欠陥や劣化状態を検査する技術です。橋梁や航空機などの大型構造物の検査にも利用され、私たちの安全な暮らしを支えています。科学分野では、物質の挙動や反応を調べるために、放射性同位体をトレーサーとして利用した実験が行われています。トレーサーとは、ごく微量でも検出できるため、複雑な系における物質の移動や化学反応を追跡するのに役立ちます。このように、放射性同位体は様々な分野で重要な役割を担っており、その需要は増加の一途をたどっています。それぞれの用途に応じて、適切な種類と量の放射性同位体を安定的に供給することが、今後ますます重要になってくるでしょう。
放射線について

意外と身近な放射性元素ポロニウム

- ポロニウムとはポロニウムは、原子番号84番の元素で、元素記号はPoと表されます。この元素は、1898年にキュリー夫妻によって発見されました。彼らは、ウラン鉱石であるピッチブレンドから、ウランやトリウムよりもはるかに強い放射能を持つ物質を分離することに成功し、これを新しい元素として「ポロニウム」と名付けました。この名称は、マリー・キュリーの祖国であるポーランドにちなんで付けられました。ポロニウムは、自然界ではウラン鉱石などに極めて微量にしか存在しません。地球の地殻全体でも、わずか100グラム程度しか存在しないと推定されています。このように、ポロニウムは非常に希少な元素です。ポロニウムは放射性元素の一種であり、アルファ線を放出して崩壊していく性質を持っています。アルファ線は、ヘリウム原子核の流れであり、紙一枚で遮ることができるほど透過力は弱いという特徴があります。しかし、体内に取り込まれると、細胞に損傷を与える可能性があり注意が必要です。ポロニウムは、その強い放射能を利用して、人工衛星の熱源や静電気除去装置などに利用されています。また、タバコの煙にも含まれており、喫煙による健康被害の一因として挙げられています。
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あまり知られていないラドンの仲間 – トロン

ラドンは、ウランやトリウムなどの放射性元素が崩壊する過程で発生する、無色無臭の気体です。自然界には複数の種類のラドンが存在しますが、その中でも特にラドン222は、私たちにとって身近な存在です。ラドン222はウラン系列と呼ばれる崩壊系列に属し、比較的寿命が長い(約3.8日)ため、地盤や建材などから発生した後、大気中を漂う間に私たちの体に影響を及ぼす可能性があります。ラドン222は、喫煙に次ぐ肺がんのリスク要因として知られており、その健康影響が懸念されています。 一方、トロンはラドン220の別名であり、トリウム系列と呼ばれる別の崩壊系列に属しています。ラドン222と比較して、トロンの寿命は約55秒と非常に短いため、発生源から離れるとすぐに崩壊し、大気中の濃度は低い傾向にあります。しかし、トロンもまた放射線を放出する物質であるため、その影響を軽視することはできません。特に、トロンは建材に含まれるトリウムから発生することがあるため、住宅内のトロン濃度にも注意が必要です。このように、ラドンには複数の種類があり、それぞれ特性が異なります。私たちは、それぞれのラドンの特性を理解し、適切な対策を講じる必要があります。
放射線について

SPECT:体内を探検する光の技術

- SPECTとは?SPECTは、単一光子放射型コンピュータ断層撮影(Single Photon Emission Computed Tomography)の略称です。レントゲンやCT検査、MRI検査と同様に、体内の状態を詳しく調べるために用いられる画像診断法の一つです。SPECT検査では、微量の放射線を出す薬剤を体内に投与し、その薬剤から放出される微弱なガンマ線を特殊なカメラで捉え、コンピューター処理によって体の断層画像を構築します。臓器や組織への薬剤の集積の程度によって、血流や代謝の状態を可視化することができるのが特徴です。SPECT検査は、心臓、脳、骨、腫瘍など、様々な臓器の検査に用いられています。例えば、狭心症の診断では、心臓の筋肉にどれだけ血液が行き渡っているかを調べることができます。また、認知症の診断では、脳の血流や代謝の状態を調べることで、アルツハイマー病などの早期発見に役立ちます。SPECT検査は、身体への負担が少なく、比較的短時間で検査を行うことができるという利点があります。一方で、得られる画像の解像度はCTやMRIに比べると劣るという側面もあります。このように、SPECT検査は、体内の機能を画像化する、いわば体内を探検するための有用な医療技術であり、様々な疾患の診断や治療効果の判定に役立っています。
放射線について

原子力発電の立役者:トレーサー

- トレーサーとは トレーサーとは、原子力分野だけでなく、様々な研究や開発において、物質や元素の動きや変化を調べるための「追跡子」として用いられる物質のことです。 広大な海に流したメッセージボトルがどこへ流れ着くかを追跡するように、トレーサーは、通常では目に見えない物質の動きを明らかにする役割を担います。 具体的には、対象となる物質に、ごく微量の放射性同位体や安定同位体などをトレーサーとして添加します。これらのトレーサーは、元の物質と同じように振る舞いながらも、特別な測定器で検出することができます。 この性質を利用することで、トレーサーの移動や濃度変化を調べることで、 * 水や大気の動き * 植物の栄養吸収 * 薬の効果 * 化学反応のメカニズム など、様々な現象を解明することができます。 このように、トレーサーは、私たちの身の回りの様々な現象を理解するために欠かせないツールとなっています。
核燃料

トリチウム:核融合の燃料

- トリチウムとは水素は私達の身の回りにありふれた元素ですが、その仲間であるトリチウムは、原子核の中に陽子1個と中性子2個を持つ特別な水素です。私達が普段目にする水素は原子核に陽子を1つだけ持ちますが、トリチウムは中性子を2つも余分に持っているため、その分だけ重くなります。そのため、トリチウムは三重水素とも呼ばれます。通常の元素記号では水素はHと表しますが、トリチウムは3HあるいはTと表記されます。このトリチウムは、放射線を出す性質を持つ放射性同位体として知られています。自然界では、トリチウムは宇宙から飛来する宇宙線と大気中の窒素や酸素が反応することでごく微量ですが生まれています。また、原子力発電所では原子炉の中でウランが核分裂する際に人工的にトリチウムが生成されます。原子力発電所では、使用済み燃料の再処理を行う際に、このトリチウムが環境中に放出されることがあります。
核燃料

トリチウム:核融合の未来を担う元素

- トリチウムとは?水素は、私たちの身の回りにもっとも多く存在する元素の一つです。水素の仲間であるトリチウムも、自然界にごくわずかに存在しています。では、このトリチウムとは一体どんな物質なのでしょうか。トリチウムは、水素の一種ですが、普通の水素とは原子核の構造が異なります。原子は、中心にある原子核と、その周りを回る電子からできています。さらに原子核は、陽子と中性子で構成されています。 水素の原子核は、陽子1つだけでできています。一方、トリチウムは、陽子1つに加えて、中性子を2つも含んでいます。このため、トリチウムは「三重水素」とも呼ばれます。トリチウムは、自然界では、宇宙線と大気の反応によってごく微量ですが生まれています。 また、原子力発電所などでは、原子炉の中でリチウムという元素に中性子をぶつけることで人工的に作られています。トリチウムは、弱いベータ線を出す放射性物質として知られていますが、その放射能は非常に弱く、紙一枚で遮ることができる程度です。また、トリチウムは水と容易に結合する性質があるため、環境中に放出された場合には、水蒸気として拡散したり、雨水に溶け込んだりして薄まります。
放射線について

RI中性子源:持ち運び可能な中性子の泉

- RI中性子源とはRI中性子源とは、放射性同位体(RI)を利用して中性子を生み出す装置です。RI中性子源は、特定の放射性物質とベリリウムを組み合わせることで中性子を発生させます。仕組みは、まず放射性物質が放射線の一種であるアルファ線やガンマ線を放出します。次に、放出された放射線が周りのベリリウムと反応することで、中性子が飛び出してくるのです。この反応は、ちょうど小さな泉から絶えず水が湧き出すように、安定して中性子を供給することができます。RI中性子源は、持ち運びできるほど小型のものもあるという特徴があります。そのため、様々な場所で使用することが可能です。例えば、地中の資源探査や、材料の検査など、幅広い分野で活用されています。さらに、RI中性子源は、大学や研究機関などにおける研究活動にも役立てられています。このようにRI中性子源は、コンパクトながらも安定した中性子源として、様々な分野で重要な役割を担っています。
原子力の安全

地下水の流れと透水係数

- 透水係数とは水は、高いところから低いところへ流れるように、地下でも同じように水圧の高いところから低いところへと流れていきます。この地下水の流れやすさを表す指標となるのが透水係数です。透水係数は、土や岩石など、様々な地層がどれくらい水を透過させるのかを示すものです。例えば、砂浜で遊んだ時、バケツの水を砂に撒くとすぐに地面にしみ込んでいくのを経験したことがあるでしょう。これは、砂浜の透水係数が高く、水が通り抜けやすい性質を持っているためです。逆に、粘土質の地面に水を撒くと、なかなか地面にしみ込まず、水たまりができやすいです。これは、粘土質の地面の透水係数が低く、水が通り抜けにくい性質を持っているためです。このように、透水係数は、場所によって異なり、砂や礫など、粒の大きな土壌ほど高く、粘土のように粒の小さな土壌ほど低くなります。また、同じ土壌であっても、密度や土の構造によっても変化します。透水係数は、地下水の流れを理解する上で非常に重要な指標であり、井戸の揚水量や、地下ダムの設計、汚染物質の移動予測など、様々な場面で利用されています。
原子力発電の基礎知識

原子力発電の鍵、同位体とは?

私たちの身の回りにある物質は、建物でも、空気中でも、そして私たち自身も、すべて目には見えない小さな粒子である原子からできています。原子はさらに小さな陽子、中性子、電子という粒子から構成されていて、陽子の数がその原子が何という元素であるかを決める重要な要素となっています。例えば、陽子が1つだけなら水素、8つなら酸素といった具合です。 ところで、同じ元素であっても、原子核の中にある中性子の数が異なる場合があります。これを同位体と呼びます。例えば水素の場合、陽子が1つで中性子を持たない軽水素、陽子が1つと中性子が1つの重水素、さらに陽子が1つと中性子が2つの三重水素(トリチウム)の3種類が存在します。このように、同位体は原子番号、つまり陽子の数は同じですが、質量数、すなわち陽子と中性子の数の合計が異なるのです。 原子力発電で利用されるウランにも、同位体が存在します。ウランは原子番号92番の元素ですが、天然に存在するウランの大部分は質量数238のウラン238で、核分裂を起こしやすいウラン235はわずか0.7%程度しか含まれていません。原子力発電では、このウラン235の割合を増加させた濃縮ウランが燃料として使われています。同位体は、原子力発電において重要な役割を担っているのです。
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放射性同位体:原子核の世界を探る

物質を構成する最小単位である原子は、中心にある原子核と、その周りを回る電子から成り立っています。原子核はさらに陽子と中性子という小さな粒子で構成されています。陽子の数は元素の種類を決めるもので、例えば水素であれば陽子は1つ、炭素であれば6つと決まっています。 一方、同じ元素であっても中性子の数が異なる場合があります。これを同位体と呼びます。水素を例に挙げると、中性子を含まない水素、中性子を1つもつ重水素、2つもつ三重水素といった同位体が存在します。 同位体のうち、放射線を出す性質を持つものを放射性同位体と呼びます。放射性同位体は、原子核が不安定な状態にあり、より安定な状態になろうとして放射線を放出します。この放射線は、透過力やエネルギーの大きさによってアルファ線、ベータ線、ガンマ線などに分類されます。 放射性同位体は、炭素14のように自然界にも存在しますが、原子炉などを使って人工的に作り出すこともできます。人工的に作られた放射性同位体は、医療分野における診断や治療、工業分野における非破壊検査、農学分野における品種改良など、様々な分野で広く利用されています。
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驚異の元素!カリホルニウム252とは

- カリホルニウムの発見カリホルニウムは、1949年にアメリカのカリフォルニア大学バークレー校の研究チームによって、初めて人工的に作り出されました。原子番号98番のこの元素は、アクチノイドと呼ばれるグループに属しています。アクチノイドは、周期表でウランの右側に位置する、放射能を持つ元素の仲間たちです。カリホルニウムは、自然界には存在しません。そのため、人工的に作り出す必要がありました。研究チームは、キュリウムという元素に、高速のヘリウムイオンを衝突させるという方法を用いました。この衝突によって、キュリウムの原子核にヘリウムの原子核が融合し、カリホルニウムの原子核が生成されたのです。この発見は、当時の原子力研究において非常に画期的な出来事でした。なぜなら、それまで発見されていた元素よりもさらに重い元素を、人工的に作り出すことができたからです。これは、原子核の構造や性質を理解する上で、重要な一歩となりました。カリホルニウムは、現在でも医療分野や工業分野など、様々な分野で利用されています。例えば、癌治療における放射線治療や、金属探知機、石油探査などにも役立っています。このように、カリホルニウムは私たちの生活に欠かせない元素の一つとなっています。
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身近に潜む放射性物質:カリウム40

- カリウムの秘密 皆さんは「カリウム」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?多くの方は、バナナに豊富に含まれていて、健康維持に欠かせない栄養素である「ミネラル」の一種というイメージを持つのではないでしょうか。 実際、カリウムは人体にとって重要な役割を担っており、不足すると脱力感や食欲不振などの症状が現れることがあります。 しかし、この身近な存在であるカリウムには、あまり知られていない一面があります。それは、ごく微量ですが、放射線を出す性質を持っているということです。物質には、同じ元素でも、原子核を構成する中性子の数が異なるものが存在し、それらを「同位体」と呼びます。そして、放射線を出す同位体のことを「放射性同位体」と言います。自然界に存在するカリウムのうち、約0.01%は「カリウム40」と呼ばれる放射性同位体なのです。 カリウム40は、自然界に広く存在しているため、私たちの身の回りにある食べ物や飲み物、土壌など、あらゆる場所に含まれています。もちろん、その量はごく微量であり、健康に影響を与えるレベルではありません。むしろ、カリウムは人体にとって必須のミネラルであるため、 적극的に摂取することが推奨されています。 カリウムは、私たちにとって身近な存在であると同時に、奥深い性質も秘めていると言えるでしょう。
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β放射体:原子核の不思議な力

- β放射体とは物質を構成する最小単位である原子は、中心にある原子核と、その周りを回る電子からできています。さらに原子核は陽子と中性子から構成されていますが、この陽子と中性子の数のバランスによっては、原子核が不安定な状態になることがあります。不安定な状態の原子核は、より安定な状態になろうとして、自らエネルギーを放出する性質を持っています。その際に放出されるものの一つがβ線と呼ばれるもので、このβ線を出す能力を持つ物質のことをβ放射体と呼びます。β線は、電気を帯びた非常に小さな粒子で、電子の仲間のようなものです。β放射体の中では、原子核の中で中性子が陽子へと変化し、その際にβ線を放出します。この現象をβ崩壊と呼びます。β放射体は、自然界にも存在します。例えば、カリウムという物質の中に含まれるカリウム40という物質は、自然界に存在するβ放射体の代表的なものです。 また、原子力発電所などで人工的に作り出されるものもあります。β放射体から放出されるβ線は、紙一枚で止まってしまうほど透過力が弱いですが、人体に当たると細胞に影響を与える可能性があります。そのため、β放射体を扱う際には、適切な遮蔽や取り扱い方法を守ることが重要です。
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コバルト60:放射線の力で社会に貢献

コバルト60とは、私たちの身の回りにあるコバルトという金属元素から人工的に作り出される物質です。 コバルトは鉄と同じ仲間で、原子番号27、原子量58.93と表されます。このコバルトに、目には見えない中性子という粒子をぶつけることで、コバルト60は生まれます。 コバルト60は、放射線を出す性質を持っています。放射線には様々な種類がありますが、コバルト60から出る放射線はガンマ線と呼ばれています。 ガンマ線は非常に強いエネルギーを持っており、物質を透過する力も強いです。この性質を利用して、医療の現場ではガンマ線を使った治療が行われています。 例えば、ガンマ線を患部に照射することで、がん細胞を死滅させる治療法などがあります。 また、工業分野でもコバルト60は活躍しています。製品の内部を検査する際などに、ガンマ線が利用されています。製品にガンマ線を照射し、その透過の様子を調べることで、内部の欠陥などを発見することができるのです。このように、コバルト60は医療や工業など、様々な分野で私たちの生活に役立っています。
その他

核医学検査:体の中のミクロな世界を探る

- 核医学検査とは核医学検査は、ごくわずかな放射線を含む薬剤を体内に投与し、そこから放出される放射線を専用のカメラで捉えることで、病気の診断や状態を把握する検査方法です。検査で用いる薬剤は、検査対象となる臓器や組織に集まりやすい性質を持っているため、体内の特定の場所に集まります。この薬剤が出す放射線をカメラで撮影することで、臓器や組織の働きや状態を画像として映し出すことができます。核医学検査の特徴は、臓器や組織の機能を調べることができる点です。これは、レントゲン検査やCT検査など、体の構造を調べる検査とは大きく異なる点です。例えば、心臓であれば、心臓の筋肉の動きや血液の流れを調べることができますし、脳であれば、脳の血流や代謝の状態を調べることができます。このように、核医学検査は、臓器や組織の機能を評価することで、病気の早期発見や適切な治療方針の決定に役立ちます。さらに、核医学検査で用いる放射線の量はごくわずかであるため、体への負担は非常に少ないです。検査時間も比較的短く、検査後すぐに日常生活に戻ることができます。安全性が高く、体の負担が少ない検査方法として、近年注目されています。
その他

標識化合物: 目に見えない世界の探検者

- 標識化合物とは?私たちの身の回りにある物質は、水、空気、食べ物など、すべて原子の組み合わせでできています。これらの原子の中でも、最も基本的なものが水素や炭素といった元素です。 物質の性質や反応を詳しく調べるためには、これらの原子を一つ一つ区別して追跡できることが理想です。しかし、通常の分析方法では、同じ元素の原子は見分けがつきません。そこで登場するのが「標識化合物」です。標識化合物とは、特定の原子が、同じ元素でも質量の異なる安定同位体や、放射線を出す放射性同位体に置き換えられた化合物のことです。 例えば、通常の水素原子よりも重い「重水素」や、炭素14と呼ばれる放射線を出す炭素原子などが用いられます。これらの特別な原子は、通常の原子と同じように化学反応を起こすため、標識化合物は、体内での薬の動きや、植物の光合成の仕組み、環境中の汚染物質の動きなど、様々な研究に利用されています。 まるで目印を付けたように、標識原子の動きを追跡することで、これまで分からなかった物質の動きや反応のメカニズムを明らかにすることができるのです。
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必須元素と放射性同位体

私たち人間を含む、地球上のあらゆる生命は、一見複雑な構造を持ちながらも、細かく見ていくと様々な元素が集まってできています。その中でも、生命を維持するために必要不可欠な元素が存在し、それらを「必須元素」と呼びます。必須元素は、私たちが毎日口にする食物を通して体内に取り込まれ、体のあらゆる部分を作る材料として使われます。例えば、骨や歯の形成にはカルシウム、血液中のヘモグロビンには鉄が不可欠です。筋肉や臓器、皮膚や毛髪など、私たちの体を構成するあらゆる組織は、これらの必須元素が組み合わさることで形作られています。 必須元素は、ただ単に体の材料となるだけでなく、生命活動の調整にも深く関わっています。例えば、カルシウムは神経伝達や筋肉の収縮にも重要な役割を果たしており、不足すると骨粗鬆症だけでなく、神経や筋肉の異常を引き起こす可能性があります。鉄は、ヘモグロビンの一部として体中に酸素を運ぶ役割を担っており、不足すると酸素不足に陥り、貧血などの症状が現れます。このように、それぞれの必須元素は体内で重要な役割を担っており、互いに密接に連携しながら、私たちの健康を支えているのです。これらの必須元素が不足すると、私たちの体は正常に機能しなくなり、様々な病気の原因となる可能性があります。健康な生活を送るためには、バランスの取れた食事を通して、必要な必須元素をしっかりと摂取することが大切です。
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セシウム134:原子力と環境の影響

- セシウム134とはセシウム134は、自然界には存在せず、人間活動によってのみ生み出される放射性物質です。原子番号55のセシウムの仲間であり、原子核の中に陽子を55個、中性子を79個持っています。この物質は、主に原子力発電所におけるウランの核分裂反応によって生み出されます。原子炉の中でウラン燃料が核分裂を起こす際、様々な放射性物質が発生しますが、その中にはセシウム134も含まれています。具体的には、原子炉内で発生する中性子を、安定したセシウム133が吸収することでセシウム134が生成されます。セシウム134は放射線を出しながら崩壊していく性質を持っており、その過程でバリウム134へと変化していきます。セシウム134が放出する放射線は、ガンマ線とベータ線の2種類です。これらの放射線は、人体に影響を与える可能性があり、被曝量によっては健康への悪影響が懸念されます。セシウム134の半減期は約2年と比較的短いため、時間の経過とともに放射能の強さは弱まっていきます。しかし、環境中に放出されたセシウム134は、土壌や水に吸着しやすく、食物連鎖を通じて人体に取り込まれる可能性も懸念されています。
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ストロンチウム90: 原子力と環境を考える

- ストロンチウム90とはストロンチウム90は、私たちの身の回りにも存在するストロンチウムという元素の一種です。ストロンチウム自体は、土壌や岩石、海水中に広く分布しており、私たちの体内にもごく微量ながら存在しています。しかし、ストロンチウム90は、通常のストロンチウムとは異なり、原子核が不安定な状態にあります。原子核が不安定な物質は、自ら放射線を出して安定になろうとする性質を持っており、このような物質を放射性同位体と呼びます。ストロンチウム90も放射性同位体の一つであり、ベータ線と呼ばれる放射線を出しながら別の元素であるイットリウム90へと変化していきます。 このような放射性物質の崩壊は、一定の時間で元の量の半分になるという性質があり、これを半減期と呼びます。ストロンチウム90の半減期は約29年で、これはストロンチウム90が100個あった場合、29年後には50個に、さらに29年後には25個になることを意味します。ストロンチウム90から変化したイットリウム90もまた放射性同位体であり、約64時間の半減期でベータ線を放出してジルコニウム90へと変化します。ジルコニウム90は安定した元素であるため、これ以上の放射性崩壊は起こりません。このように、ストロンチウム90はベータ崩壊を繰り返すことによって、最終的に安定なジルコニウム90へと変化していくのです。
放射線について

クリプトン85: 原子力と私たちの生活

- クリプトン85とはクリプトン85は、原子番号36の元素であるクリプトンの放射性同位体です。クリプトンは周期表において希ガスに分類され、無色無臭で化学的に安定な元素として知られています。空気中にわずかに含まれている他、地球上にはごく微量しか存在しません。クリプトン85は、ウランやプルトニウムといった重い原子核が核分裂を起こす際に副産物として生み出されます。原子力発電所では、核燃料であるウランなどが核分裂反応を起こし、膨大なエネルギーを発生させます。この核分裂反応に伴い、様々な物質が生成されますが、その中にはクリプトン85も含まれています。クリプトン85は放射線を出すため、時間の経過とともにベータ崩壊という過程を経て、安定したルビジウム85へと変化していきます。ベータ崩壊とは、原子核の中性子が陽子と電子、そして反ニュートリノに変わることで、原子番号が一つ大きい元素に変化する現象です。クリプトン85の場合、このベータ崩壊によって原子番号37のルビジウム85へと変化します。クリプトン85の崩壊速度は比較的遅く、半減期は約10.76年です。これは、ある時点におけるクリプトン85の量が半分になるまでに約10.76年かかることを意味します。半減期が約10.76年ということは、21.52年後には元の量の4分の1に、32.28年後には8分の1になるといったように、時間とともに減衰していくことを示しています。
核燃料

アクチノイド核種:原子力の基礎

- アクチノイド核種とはアクチノイド核種とは、周期表において原子番号89番のアクチニウムから103番のローレンシウムまでの15個の元素からなる一群の元素の同位体の総称です。これらの元素は、化学的な性質が互いに似通っていることからアクチノイド系列と呼ばれ、全て放射線を出す性質、すなわち放射性を持つことが大きな特徴です。原子核は陽子と中性子で構成されていますが、アクチノイド核種はその組み合わせが不安定なため、放射線を放出して安定な別の元素へと変化していきます。これを放射性崩壊と呼びます。放射性崩壊の種類や放出される放射線の種類、エネルギーなどは核種によって異なり、それぞれ固有の半減期を持ちます。半減期とは、放射性物質の量が半分に減衰するまでの期間のことです。アクチノイド核種の中には、ウランやプルトニウムのように核分裂を起こしやすいものがあり、原子力発電の燃料として利用されています。また、アメリシウムは煙感知器に、カリホルニウムは非破壊検査などに利用されるなど、医療分野や工業分野など幅広い分野で応用されています。しかし、アクチノイド核種は放射線による人体への影響や、環境汚染の可能性も孕んでいるため、その取り扱いには十分な注意が必要です。安全な利用と廃棄物処理の方法が、現在も重要な課題として研究されています。