電力研究家

原子力施設

原子力開発の要、原型炉とは?

原子力発電は、使用済み核燃料の処理といった問題を抱えているものの、エネルギー源を安定して確保できるという点や地球温暖化問題への対策という観点から、私たちにとって重要な役割を担っています。この原子力発電を将来的にも安定して利用していくためには、現在稼働している原子力発電所の改良を進めていくことはもちろんのこと、安全性や経済性、核燃料の循環利用の効率などを従来よりも向上させた新型炉の開発が必要不可欠です。 新型炉を開発するためには、実際に設計図通りに原子炉が機能するか、安全上の問題はないかなどを検証する必要がありますが、このような新型炉の実証実験を行うための炉が「原型炉」と呼ばれるものです。原型炉は、文字通り新型炉の試作品であり、開発した技術が実用レベルで機能するかを確認するために建設されます。そして、この原型炉での運転データや実験結果の分析を通じて、更なる技術の向上や設計の改良などが図られます。つまり、原型炉は新型炉の実現に向けた開発段階において、必要不可欠な存在と言えるのです。
原子力の安全

原子力施設の安全を守る臨界警報装置

原子力施設では、安全を最優先に、様々な対策が講じられています。中でも特に注意深く監視されているのが、核分裂の連鎖反応が制御不能となる臨界事故です。臨界事故が発生すると、大量の放射線が放出され、作業員や周辺環境に甚大な被害をもたらす可能性があります。 このような深刻な事態を防ぐため、原子力施設には、臨界警報装置という重要な安全装置が設置されています。この装置は、施設内の様々な場所に設置されたセンサーによって、常に放射線のレベルを監視しています。そして、万が一、放射線量が急激に上昇するなど、臨界事故を示唆する兆候を検知した場合には、直ちに大きな警報音とランプの点滅で作業員に危険を知らせます。 この警報は、作業員の迅速な避難を促し、放射線被ばくを最小限に抑えるための重要な合図となります。同時に、中央制御室にも警報が発信され、運転員が状況を把握し、適切な対応を取ることができるようになっています。このように、臨界警報装置は、原子力施設における最後の砦として、人々と施設を守り、安全な運転を支える上で重要な役割を担っているのです。
放射線について

一過性紅斑:放射線被曝による皮膚への影響

私たちは日常生活の中で、医療現場でのレントゲン検査や自然界に存在する放射線など、微量の放射線を常に浴びています。 人体は少量の放射線であれば修復できますが、一定量を超えると、その影響が体に現れるようになります。 特に皮膚は体の表面にあるため、外部からの放射線の影響を受けやすい器官と言えます。 放射線によって皮膚がどのような影響を受けるかは、浴びた放射線の量や時間、そして体のどの部分に浴びたのかによって大きく異なります。 少量の被曝であれば、皮膚が赤くなる、かゆみを伴うなどの軽い症状が見られる場合もありますが、時間と共に自然に治癒していきます。 しかし、大量の放射線を浴びたり、長時間にわたって浴び続けたりすると、症状はより深刻になります。 初期症状としては、皮膚が日焼けのように赤くなる「紅斑」や、髪の毛が抜け落ちる「脱毛」などが現れます。 さらに症状が進むと、水ぶくれや潰瘍ができるなど、皮膚が大きく損傷を受けます。 放射線被曝による皮膚への影響は、見た目の変化だけでなく、将来的に皮膚がんの発症リスクを高める可能性も指摘されており、注意が必要です。
その他

バイオ燃料:地球に優しいエネルギー源

バイオ燃料とは、樹木や使用済みの木材、稲わら、家庭から出る生ゴミ、家畜の糞尿など、生物を起源とする有機性の資源(バイオマス)を原料とする燃料を指します。これらの資源は、太陽の光エネルギーを利用して成長するため、限りある資源ではない再生可能なエネルギーの一つとして近年注目されています。 バイオ燃料は、固体、液体、気体など様々な形状で利用されています。薪や木炭といった固体燃料は、古くから暖房や調理といった用途で使われてきました。液体燃料としては、サトウキビやトウモロコシなどを発酵させて作るバイオエタノールが、ガソリンの代替燃料として自動車などで使われています。また、バイオディーゼルは、植物油や廃食油を原料とし、軽油の代替燃料としてディーゼルエンジンに使用されています。気体燃料としては、下水汚泥や食品廃棄物などから発生するメタンガスがあり、都市ガスなどに利用されています。 このように、バイオ燃料は、従来の化石燃料を代替し、地球温暖化対策やエネルギー安全保障に貢献できる可能性を秘めた燃料と言えます。
原子力の安全

原子力発電における脆化の影響

- 脆化とは脆化とは、物質が本来持っていた粘り強さを失い、もろくなってしまう現象を指します。 物質は通常、外部から力を加えられても、ある程度は変形することでその力を分散し、破壊を免れています。 しかし、脆化が起こると、この変形する力が弱まり、わずかな衝撃でも簡単に壊れてしまうようになります。例として、金属で考えてみましょう。金属は通常、粘り強い性質を持っています。ハンマーで叩いたり、曲げたりしても、簡単には壊れません。これは、金属内部の構造が、力を加えられると変形しながらも、その力を分散させているためです。しかし、脆化が進むと、この金属の構造が変化し、力が分散されにくくなります。結果として、少し叩いただけでも、金属は簡単に割れてしまうようになるのです。脆化を引き起こす原因は様々です。金属の場合、高温や低温、放射線、水素などによって脆化が促進されることが知られています。 また、プラスチックやセラミックスなど、金属以外の物質でも脆化は起こります。脆化は、橋梁や原子炉、航空機など、様々な構造物の安全性を脅かす重要な問題です。そのため、脆化のメカニズムを解明し、脆化を防ぐための技術開発が日々進められています。
原子力の安全

原子力安全の基礎:臨界管理とは?

原子力発電所や核燃料を扱う施設において、安全の確保は最も重要なことです。安全を確保するために、「臨界管理」は決して欠かすことのできない重要な役割を担っています。 臨界とは、核分裂の連鎖反応が持続する状態を指します。ウランやプルトニウムなどの核燃料物質は、中性子を吸収すると核分裂を起こし、さらに中性子を放出します。この現象が繰り返されることで、連鎖的に核分裂反応が継続されます。 臨界管理とは、この核分裂の連鎖反応を常に制御下に置き、安全な範囲内にとどめるための取り組みです。具体的には、核燃料物質の量や濃度、形状などを調整することや、中性子を吸収する制御棒を挿入することで、核分裂反応の速度を制御します。 臨界管理が適切に行われない場合、意図せずに核分裂の連鎖反応が制御不能となる「臨界事故」に繋がる可能性があります。臨界事故では、莫大なエネルギーが放出され、作業員や周辺住民への放射線被ばく、施設の破壊など、深刻な被害をもたらす危険性があります。 原子力施設では、このような事態を避けるため、厳重な管理体制のもと、多重の安全対策を講じています。日々の運転操作や保守点検、そして従業員に対する教育訓練などを通して、臨界管理の徹底に日々取り組んでいます。
その他

生命の源:細胞と原形質

私たち人間を含め、地球上に存在するあらゆる生物は、細胞と呼ばれる非常に小さな単位で構成されています。細胞は肉眼では見ることができず、顕微鏡を使って初めてその姿を確認することができます。この極小の世界に存在する細胞は、それぞれが生命の基本単位として、驚くべき活動を行っています。 細胞は、外部から栄養を取り込み、それをエネルギーに変換することで、自らの生命を維持しています。そして、まるで工場のように、体の中で必要な物質を作り出したり、不要なものを分解したりしています。さらに、細胞は分裂することで、自分自身と同じ細胞を増やすこともできます。この自己複製能力こそが、生物の成長や生殖を可能にする源となっています。 このように、細胞はそれぞれが独立した小さな生命体であると同時に、互いに連携し合い、複雑な生命活動を支えています。無数の細胞がそれぞれの役割を忠実に果たすことで、私たちの体は健康に維持されているのです。
その他

バイオエタノール:地球に優しい未来の燃料

- バイオエタノールとは バイオエタノールは、サトウキビやトウモロコシといった、私達の食卓にも並ぶ植物を原料として作られるアルコールの一種です。これらの植物から糖分を多く含む汁を搾り出し、酵母を加えて発酵させることでアルコールが生成されます。その後、蒸留という過程を経て不純物を取り除くことで、燃料として利用できる高純度のバイオエタノールが作られます。 バイオエタノールは、従来のガソリンと比べて、環境への負荷が低いという大きな特徴があります。ガソリンなどの化石燃料を燃焼させると、大気中に二酸化炭素が排出されます。この二酸化炭素は、地球温暖化の原因の一つとされています。一方、バイオエタノールは、植物が成長する過程で光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収するため、その燃焼によって排出される二酸化炭素は、全体としてプラスマイナスゼロと見なすことができます。 バイオエタノールは、ガソリンに混ぜて使用されることが一般的です。日本では、ガソリンにバイオエタノールを数パーセント混ぜたものが販売されています。
原子力施設

原子力発電の心臓部:一次冷却材ポンプ

原子力発電所では、原子炉の中で起こる核分裂反応を利用して膨大な熱エネルギーを生み出しています。この熱エネルギーを効率的に電力に変換するために、原子炉内では水が重要な役割を担っています。 原子炉の中心部には、核分裂反応を起こす燃料体と呼ばれるものが収納されています。燃料体内で発生した熱は、「一次冷却材」と呼ばれる水が吸収します。一次冷却材は原子炉の中を循環しながら燃料体から熱を奪い、自身の温度を上昇させます。 高温になった一次冷却材は原子炉の外にある蒸気発生器へと送られます。蒸気発生器は、一次冷却材と二次冷却材と呼ばれる水との間で熱交換を行う装置です。一次冷却材は蒸気発生器内で二次冷却材に熱を渡し、自らは温度を下げて再び原子炉へと戻っていきます。 一方、熱を受け取った二次冷却材は蒸気へと変化します。この高温高圧の蒸気がタービンと呼ばれる羽根車を勢いよく回転させることで、電力が生み出されるのです。 このように、原子力発電所では水が熱の運び役として重要な役割を担っており、原子炉内を循環することで熱エネルギーを効率的に電力に変換することを可能にしています。
原子力施設

多岐にわたる研究用原子炉の世界

- 研究用原子炉とは原子力発電所のように電気を作り出すことや、船を動かすことを目的としない原子炉を、まとめて研究用原子炉と呼びます。その名の通り、様々な研究を目的として設計され、運用されています。例えば、新しい材料を開発するために、強い放射線を浴びせることで、材料の強度や壊れにくさを調べる材料試験炉があります。また、原子炉の中で起こる核分裂反応を詳しく調べるための臨界実験装置も研究用原子炉の一つです。その他にも、医療分野や物質の性質を調べる分野で利用される中性子線を取り出す研究炉や、原子力技術者を育てたり、教育したりするために活用される教育訓練用原子炉など、様々な種類があります。 このように、研究用原子炉は、私たちの生活に役立つ新しい技術や知識を生み出すために、重要な役割を担っています。
原子力の安全

原子力発電の安全性を高める国際協力:西欧原子力規制者会議

- 西欧原子力規制者会議とは西欧原子力規制者会議(WENRA)は、原子力発電所を保有するヨーロッパ諸国における規制機関が連携を強化するための国際機関です。1999年に設立され、ヨーロッパ連合(EU)加盟国とスイスが参加しています。原子力発電所を安全に運用するためには、国境を越えた協力体制が欠かせません。原子力事故の影響は一国のみに留まらず、広範囲に及ぶ可能性があるからです。WENRAは、加盟国の規制機関が協力し、原子力発電の安全性に関する共通のルールや基準の策定を推進しています。具体的には、WENRAは原子力施設の設計や運転、放射性廃棄物の管理、原子力事故への備えなど、幅広い分野において安全性に関するガイドラインや基準を策定しています。これらの基準は、国際原子力機関(IAEA)などの国際的な基準を踏まえつつ、ヨーロッパの地理的特性や技術水準を考慮して作成されています。WENRAは、加盟国間で情報や経験を共有するためのプラットフォームとしての役割も担っています。原子力安全に関する最新技術や規制の動向、事故やトラブルの教訓などを共有することで、加盟国全体で安全性の向上を目指しています。WENRAの活動は、ヨーロッパにおける原子力発電の安全性を向上させる上で重要な役割を担っています。国際的な協力体制の強化がますます重要となる中、WENRAは今後もその役割を積極的に果たしていくことが期待されています。
原子力の安全

原子力安全の基礎:臨界安全形状とは

原子力発電は、ウランなどの核分裂しやすい物質が中性子と衝突して分裂する際に生じるエネルギーを利用した発電方式です。この分裂反応は、分裂時に放出される中性子が他の原子核と衝突して連鎖的に発生し、膨大な熱エネルギーを生み出します。しかし、この反応を制御できないまま放置すると、過剰なエネルギーが瞬時に放出され、非常に危険な状態に陥ってしまいます。このような状態を防ぐために、原子力発電所では、核分裂反応を安全に管理し、安定したエネルギー供給を実現するための様々な対策を講じています。 その重要な要素の一つに「臨界安全形状」があります。これは、核分裂物質の形状を工夫することで、核分裂の連鎖反応に不可欠な中性子の動きを制御する技術です。具体的には、中性子が外部に逃げる量を増やす形状にすることで、連鎖反応を抑制し、安全性を高めることができます。原子力分野では、この臨界安全形状を設計に取り入れることで、原子炉や核燃料貯蔵施設などにおける事故のリスクを最小限に抑え、安全な運転を可能にしています。
放射線について

バイオアッセイ:体内の放射能を測る

原子力発電所をはじめ、放射線を扱う施設で働く作業員にとって、放射線から身を守ることは何よりも重要です。放射線は目に見えず、臭いもしないため、気づかないうちに浴びてしまう可能性があります。特に、体内に取り込まれた放射性物質は、長期間にわたって体内から放射線を出し続けるため、健康への影響が懸念されます。 人体に影響を与える放射線の量は、放射性物質の種類や量、被曝の時間などによって異なります。そのため、体内に取り込まれた放射性物質の種類と量を正確に把握することが、健康影響を評価するために非常に重要となります。 この重要な役割を担うのが「バイオアッセイ」という技術です。バイオアッセイは、採取した尿や血液などの生体試料を用いて、体内に取り込まれた放射性物質の量を測定します。 測定方法は、放射性物質の種類によって異なりますが、いずれも高度な技術と専門知識が必要とされます。バイオアッセイによって得られた測定結果は、作業員の健康管理だけでなく、万が一、放射性物質に被曝した場合の治療方針の決定にも役立てられます。このように、バイオアッセイは、原子力施設で働く作業員の安全と健康を守る上で欠かせない技術といえます。
原子力発電の基礎知識

原子力発電の心臓部!一次冷却材とその役割

原子力発電所の中心には、原子炉と呼ばれる巨大な設備が存在します。ここではウラン燃料の核分裂反応によって想像を絶する熱が生まれます。この熱をいかに安全かつ効率的に取り出すかが、発電の成否を分ける重要な鍵となります。 この重要な役割を担うのが一次冷却材です。一次冷却材は原子炉の中で直接熱を受け取り、外部へと運ぶ役割を担っています。例えるなら、原子炉という巨大な心臓を流れる血液のようなものです。 原子炉の種類によって、水やヘリウムガス、液体ナトリウムなどが一次冷却材として使用されます。水を使う場合、沸騰を防ぐために高い圧力をかけておく必要があります。水は熱を吸収すると蒸気へと変化しますが、この蒸気はタービンを回し、発電機を動かすための動力源となります。水は熱を運ぶだけでなく、発電の要となる蒸気を作り出す役割も担っているのです。 原子力発電は、ウラン燃料のエネルギーを熱に変え、さらに運動エネルギーに変換することで電気を生み出しています。その過程で、原子炉内で発生した熱を安全かつ確実に運び出す一次冷却材は、発電の要とも言うべき重要な役割を担っているのです。
原子力の安全

原子力発電の安全: 臨界安全管理の重要性

- 臨界とは何か原子力発電の燃料には、ウランやプルトニウムといった物質が使われています。これらの物質は原子核と呼ばれる非常に小さな粒を含んでおり、この原子核が分裂する際に莫大なエネルギーを放出します。これが「核分裂」と呼ばれる現象であり、原子力発電はこの核分裂のエネルギーを利用しています。核分裂を起こすと、同時に中性子と呼ばれる粒子も放出されます。この中性子が、周りの他の原子核にぶつかると、さらに核分裂が起きる可能性があります。これはちょうど、ビリヤード球が別の球に当たり、次々と球が動き出す様子に似ています。もし、この核分裂の連鎖反応が制御されずに起き続けると、莫大なエネルギーが一瞬にして放出されてしまいます。これが「臨界」と呼ばれる状態で、原子力発電においては非常に危険な状態です。臨界状態では、原子炉内の温度や圧力が急上昇し、炉の制御が困難になる可能性があります。最悪の場合、炉心溶融などの深刻な事故につながる可能性もあるため、原子力発電所では、この臨界状態を厳密に制御するための様々な安全対策が講じられています。原子力発電は、正しく運用されれば、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー源となりえます。しかし、同時に大きなリスクも孕んでいることを理解しておく必要があります。
原子力の安全

高レベル放射性廃棄物処分とセーフティケース

原子力発電所からは、使用済み核燃料と呼ばれる、核分裂を終えた燃料が生じます。この使用済み核燃料には、ウランやプルトニウムといった、再びエネルギー源として利用可能な物質が含まれている一方で、非常に強い放射能を持つ物質も含まれています。これらの物質は、高レベル放射性廃棄物と呼ばれ、その取り扱いは原子力発電における最も重要な課題の一つとなっています。 高レベル放射性廃棄物は、数万年以上にわたって高い放射能レベルを維持するため、環境や人体への影響を最小限に抑えるためには、長期にわたる安全性を確保できる処分方法を選択する必要があります。現在、国際的には、地下深くに安定した地層を形成し、高レベル放射性廃棄物を封じ込める地層処分が最も有望な方法と考えられています。 しかしながら、地層処分の実現には、適切な処分地の選定や、長期的な安全性の評価、そして国民の理解と協力など、解決すべき課題が山積しています。将来世代に、この問題を先送りすることなく、安全で安心できる社会を実現するためには、これらの課題を一つ一つ克服していく必要があります。
その他

原子力と微生物:原核生物

- 原核生物とは地球上のありとあらゆる場所に、目には見えない小さな生物が存在しています。それを微生物と呼び、顕微鏡を使って初めてその姿を見ることができます。微生物の中でも、特にシンプルな構造を持つのが原核生物です。原核生物の最大の特徴は、細胞内に核を持たないことです。私たち人間を含めた動物や植物の細胞には、遺伝情報であるDNAを収納した核が存在します。しかし原核生物は、この核を持ちません。では、原核生物のDNAはどこにあるのでしょうか? 実は、細胞内の細胞質と呼ばれる液体成分の中に、直接DNAが漂っているのです。原核生物には、私たちの身近にも存在する細菌や、光合成を行う藍藻(らんそう)などが含まれます。例えば、食中毒の原因となる大腸菌や、発酵食品に利用される納豆菌などは、原核生物である細菌の仲間です。また、藍藻は水中で光合成を行い、酸素を作り出す役割を担っています。このように、原核生物は地球上で物質を循環させるために非常に重要な役割を担っています。また、私たちの生活に役立つものもあれば、病気の原因となるものもあるなど、私たちの生活とも密接に関わっていると言えるでしょう。
その他

火力発電の立役者:排煙脱硫装置

私たちの生活に欠かせない電気を生み出す火力発電所は、その多くが石炭や重油といった化石燃料を燃焼させることでエネルギーを得ています。しかし、これらの燃料には硫黄という物質が含まれており、これが大気汚染の原因の一つとなっています。 化石燃料が燃える過程で、含まれていた硫黄は空気中の酸素と結びつき、硫黄酸化物と呼ばれる物質に変化します。硫黄酸化物は、大気中に出ると酸性雨の原因となる物質の一つです。酸性雨は、森林や湖沼、土壌などに深刻な影響を与えるだけでなく、建物や彫刻などを溶かしてしまうこともあります。 さらに、硫黄酸化物は私たちの健康にも悪影響を与えます。特に呼吸器系への影響が大きく、ぜん息などの呼吸器疾患を悪化させる可能性があります。また、目や鼻、喉などの粘膜を刺激し、痛みやかゆみを引き起こすこともあります。 火力発電所などから排出される硫黄酸化物を減らすためには、燃料中の硫黄分をあらかじめ取り除く方法や、排ガス中の硫黄酸化物を除去する装置を設置するなどの対策がとられています。
原子力発電の基礎知識

原子炉の心臓部: 一次冷却系

原子炉の心臓部である炉心では、ウランなどの核燃料が核分裂反応を起こし、膨大な熱が生み出されます。この熱をいかに効率的かつ安全に取り出すかが、原子力発電の成否を握る重要な鍵となります。 原子炉で発生した熱を取り出すために活躍するのが、一次冷却系と呼ばれるシステムです。一次冷却系は、原子炉と熱交換器を結びつける閉じた回路となっており、その中を原子炉冷却材と呼ばれる特殊な水が循環しています。この冷却材が、原子炉で発生した熱を吸収し、熱交換器へと運び出す役割を担っています。 一次冷却系で使われる原子炉冷却材には、高い熱伝導率と熱容量が求められます。高温・高圧の過酷な環境下でも安定して冷却性能を発揮し、かつ放射線による劣化にも強いことが重要です。代表的な冷却材としては、軽水や重水などが挙げられます。 このように、一次冷却系は原子炉の安全運転に欠かせない重要なシステムであり、その設計や運用には高度な技術と厳重な管理体制が求められます。
原子力の安全

原子炉の安全運転のカギ:限界熱流束比

- 限界熱流束比とは 原子力発電所の中心部にある原子炉では、ウラン燃料の核分裂反応によって膨大な熱エネルギーが生み出されます。この熱を効率良く取り出し、発電に利用するためには、原子炉内で冷却材を循環させています。冷却材は原子炉内を流れながら燃料から熱を奪い、蒸気発生器へと送られます。この蒸気発生器で発生した蒸気がタービンを回し、電気を生み出すという仕組みです。 原子炉の安全かつ効率的な運転には、この冷却材による熱除去が非常に重要です。しかし、冷却材の流量が不足したり、熱負荷が過剰になると、冷却材が沸騰してしまい、燃料表面に蒸気の膜ができてしまうことがあります。この現象を「バーンアウト」と呼びます。 バーンアウトが発生すると、燃料と冷却材の間で熱が伝わりにくくなるため、燃料の温度が急激に上昇し、最悪の場合には燃料が溶融してしまう可能性があります。これを防ぐために、原子炉の設計や運転においては、バーンアウトの発生を予測し、未然に防ぐことが極めて重要となります。 そこで用いられる指標の一つが「限界熱流束比」です。限界熱流束比とは、冷却材がバーンアウトを起こす限界の熱負荷と、実際に原子炉内で冷却材が受けている熱負荷との比率を表しています。限界熱流束比の値が大きいほど、バーンアウトに対して余裕があることを意味し、原子炉はより安全に運転されていると言えます。原子炉の運転中は、常にこの限界熱流束比を監視し、安全な範囲内に収まるように制御されています。
原子力の安全

原子力安全の基礎:臨界安全とは?

原子力発電所の安全性において、「臨界安全」は極めて重要な概念です。ウランやプルトニウムなどの核分裂しやすい物質は、一定量を超えて集まると、中性子と呼ばれる粒子の衝突をきっかけに、次々と核分裂を起こすようになります。これは核分裂の連鎖反応と呼ばれ、この反応が持続可能な状態を「臨界状態」と呼びます。臨界状態に達すると、莫大なエネルギーが継続的に放出されます。 原子力発電では、この核分裂によって生じる膨大なエネルギーを熱エネルギーに変換し、発電に利用しています。 臨界状態を安全に制御することが、原子力発電の安全性にとって最も重要です。もし、核分裂の連鎖反応が制御不能な状態になると、原子炉の温度が急上昇し、炉心の溶融や放射性物質の放出といった深刻な事故につながる可能性があります。そのため、原子炉内では、中性子の数を調整することで核分裂の連鎖反応の速度を制御し、常に安全な範囲で運転が行われています。具体的には、中性子を吸収する制御棒を炉心に挿入したり、冷却材の流量を調整したりすることで、臨界状態を維持しながら、安定したエネルギーを取り出しています。
その他

加速器科学への貢献:諏訪賞

- 諏訪賞とは高エネルギー加速器科学研究奨励会は、物質の根源や宇宙の謎に迫る加速器科学という分野の研究を奨励し、その発展に貢献することを目的としています。その取り組みの一つとして、この分野で優れた業績をあげた研究者を表彰する制度を設けています。 西川賞、小柴賞、諏訪賞の三つの賞があり、いずれも輝かしい業績を残した研究者たちによって名を連ねています。諏訪賞は、高エネルギー加速器研究所(KEK)の初代所長を務められた諏訪繁樹氏の功績を讃えて設立されました。諏訪氏は、日本の加速器科学を黎明期から牽引し、KEKの発展に尽力された、まさにこの分野の礎を築いた方です。 この賞は、諏訪氏の精神を受け継ぎ、高エネルギー加速器科学の発展に特に顕著な貢献をしたと認められる個人または団体に贈られます。対象となるのは、独創的な研究成果を生み出した研究者や技術者、あるいは画期的なプロジェクトを成功に導いた研究グループ、プロジェクトグループなどです。
その他

火力発電所の立役者:排煙脱硝装置

私たちの生活に欠かせない電気を供給してくれる火力発電所ですが、同時に、大気を汚染する物質も排出しています。その代表的なものが窒素酸化物です。窒素酸化物は、酸性雨や呼吸器系の病気の原因となることから、大気汚染防止法によって排出量が規制されています。 火力発電所から排出される煙の中には、燃料である石炭や石油、天然ガスなどに由来する窒素酸化物と、ものを燃やすために使われる空気中の窒素が高温で変化することによって発生する窒素酸化物が含まれています。 これらの窒素酸化物を煙から取り除くために設置されているのが排煙脱硝装置です。 排煙脱硝装置は、煙の中にアンモニアを混ぜて化学反応を起こすことで、窒素酸化物を無害な窒素と水に分解します。この装置のおかげで、火力発電所から排出される窒素酸化物の量は大幅に減少し、大気環境の改善に大きく貢献しています。 火力発電所は、今後もエネルギー供給の重要な役割を担っていくと考えられます。同時に、地球環境の保全も重要な課題です。排煙脱硝装置は、エネルギーの安定供給と地球環境の保全を両立させるために、今後も無くてはならない設備と言えるでしょう。
原子力の安全

スリーマイル島原発事故:教訓と未来への影響

- 事故の概要1979年3月28日、アメリカ合衆国ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所2号炉において、原子炉の炉心溶融を伴う重大事故が発生しました。これは、アメリカ合衆国における商業炉の歴史上、最も深刻な事故として記録されています。事故の発端は、原子炉の冷却系統で発生した小さな故障でした。この故障自体は、原子力発電所の運転において、比較的よくあるものでした。しかし、この故障に適切に対処することができず、運転員の誤った判断と操作が重なった結果、事態は急速に悪化しました。原子炉への冷却水の供給が滞ったことで、炉心内の温度と圧力が急上昇し、最終的に炉心の一部が溶融してしまいました。溶融した燃料は、原子炉圧力容器の底に溜まり、大量の放射性物質が原子炉格納容器内に放出されました。幸いなことに、原子炉格納容器は、放射性物質の放出を食い止めるという、その役割を十分に果たしました。その結果、環境への放射性物質の放出量はごくわずかに抑えられ、周辺住民への健康被害もほとんどありませんでした。しかし、この事故は、原子力発電が内包する潜在的な危険性を改めて世界に知らしめることとなり、その後の原子力発電所の設計、運転、規制に大きな影響を与えることになりました。