原子炉の心臓部:反応断面積入門

原子炉の心臓部:反応断面積入門

電力を見直したい

『反応断面積』って、一体何なんですか? 核反応が起きる確率って書いてありますけど、よくわかりません。

電力の研究家

そうですね。『反応断面積』は少しイメージしにくい概念ですね。では、的に矢を当てることを例に考えてみましょう。的に向かってたくさんの矢を射るとします。この時、的が大きいほど、矢が当たる確率は高くなりますよね?

電力を見直したい

はい、それは何となくわかります。

電力の研究家

原子核と中性子の反応も、これと同じように考えることができます。原子核を的に見立てると、『反応断面積』が大きいほど、中性子が原子核に衝突して反応が起こる確率が高くなるのです。

反応断面積とは。

「反応断面積」とは、原子力発電で使われる言葉で、ある物質に粒子が飛び込んだ時、その物質の中の原子核と反応が起こる確率を表すものです。例えば、一秒間にf個の粒子が、一平方センチメートルあたりN個の原子核を含む薄い物質の層に垂直に飛び込んだとします。すると、核反応は一秒間にσfN回起こります。この時の比例定数σが「核反応断面積」で、簡単に「反応断面積」や「断面積」とも呼ばれます。この比例定数は面積の次元を持ち、単位には「バーン」が使われます。一バーンは一平方センチメートルの百億分の一の百億分の一にあたります。飛び込む粒子には色々な種類がありますが、原子炉物理では主に中性子を対象とします。中性子と原子核の反応には、吸収されたり、散乱したり、核分裂したりなど、色々な種類があり、それぞれに「断面積」が決められています。

先に説明した「断面積」は「微視的断面積」とも呼ばれます。一方、「微視的断面積」に物質の原子核密度、つまり、一立方センチメートルあたりの原子核の数をかけて得られる値を「巨視的断面積」と言い、長さの逆数の次元を持ちます。中性子の束密度と「巨視的断面積」をかけ合わせると、一秒間、一立方センチメートルあたりの反応数がわかるため、原子炉の計算などでは「巨視的断面積」が使われます。

原子核と中性子の相互作用

原子核と中性子の相互作用

原子力発電所の中心部には、原子炉が存在します。原子炉では、ウランやプルトニウムといった核燃料に中性子を衝突させることで核分裂反応を起こし、莫大なエネルギーを発生させています。この核分裂反応を効率的に、そして安全に制御するために、中性子が原子核とどのように相互作用するかを理解することが非常に重要となります。
中性子は電荷を持たないため、原子核の持つプラスの電荷に反発することなく近づいていくことができます。そして、原子核に近づいた中性子は、様々な反応を示します。
中性子の反応のうち、最も重要なものが核分裂反応です。中性子がウランやプルトニウムなどの重い原子核に吸収されると、その原子核は不安定になり、二つあるいはそれ以上の軽い原子核に分裂します。これが核分裂です。核分裂の際には莫大なエネルギーが放出され、熱に変わります。
その他にも、中性子が原子核に吸収されて原子核がより重い原子核に変わる中性子捕獲反応や、中性子が原子核と衝突してその方向やエネルギーを変える散乱反応など、様々な反応が起こりえます。
これらの反応の起こりやすさは、反応断面積という指標で表されます。反応断面積は、いわば原子核が中性子に対して見せる反応の確率を表す指標であり、原子炉の設計や運転を最適化する上で欠かせない情報となります。

中性子の反応 内容
核分裂反応 中性子がウランやプルトニウムなどの重い原子核に吸収されると、その原子核は不安定になり、二つあるいはそれ以上の軽い原子核に分裂する反応。莫大なエネルギーが放出される。
中性子捕獲反応 中性子が原子核に吸収されて原子核がより重い原子核に変わる反応。
散乱反応 中性子が原子核と衝突してその方向やエネルギーを変える反応。

反応断面積:確率を面積で表す

反応断面積:確率を面積で表す

原子核と中性子が衝突した際に、実際にどれくらいの確率で反応が起こるのかを表す物理量として、「反応断面積」と呼ばれるものがあります。これは、原子核を的に、中性子を矢に見立てたダーツのようなものです。みなさんはダーツで遊んだことはありますか?的に向かって多くの矢を投げれば、的に当たる確率は高くなりますよね。それと同様に、反応断面積が大きいということは、原子核という的に、中性子という矢が当たる確率、つまり原子核と中性子が反応する確率が高いということを意味します。
では、なぜ「断面積」という言葉が使われているのでしょうか?それは、この確率を面積の単位を使って表しているからです。原子核や中性子は非常に小さく、実際に目で見て大きさを測ることはできません。そこで、反応の起こりやすさをイメージしやすいように、面積を使って表現しているのです。反応断面積の単位には、「バーン」という単位が使われます。1バーンは10のマイナス24乗平方センチメートルという、非常に小さな面積を表しています。これは、原子核の大きさが非常に小さいためです。

用語 説明
反応断面積 原子核と中性子が衝突した際に、実際にどれくらいの確率で反応が起こるのかを表す物理量。原子核を的に、中性子を矢に見立てたダーツのようなもの。
反応断面積が大きい 原子核という的に、中性子という矢が当たる確率、つまり原子核と中性子が反応する確率が高い。
単位:バーン 反応の起こりやすさをイメージしやすいように、面積を使って表現している。1バーンは10のマイナス24乗平方センチメートルという、非常に小さな面積を表している。

様々な種類の反応断面積

様々な種類の反応断面積

原子核と中性子は、互いに影響し合い、様々な反応を引き起こします。その反応の種類は、吸収、散乱、核分裂など多岐に渡り、それぞれの反応の起こりやすさを表す指標として「反応断面積」という概念が用いられます。

例えば、中性子が原子核に衝突し、吸収される確率は「吸収断面積」によって表されます。この値が大きければ、中性子は原子核に吸収されやすく、逆に小さければ吸収されにくいことを意味します。

また、中性子が原子核と衝突した際に、その進行方向が変化する現象を「散乱」と呼び、「散乱断面積」でその確率を表します。

さらに、中性子が原子核に吸収された結果、原子核が分裂し、エネルギーを放出する現象は「核分裂」と呼ばれ、「核分裂断面積」でその確率を表します。

これらの反応断面積は、中性子の持つエネルギーや、反応に関与する原子核の種類によって異なる値を示すことが知られています。つまり、同じ原子核であっても、中性子のエネルギーが変化すれば反応断面積も変化し、異なる反応が起こる可能性があります。同様に、同じエネルギーの中性子であっても、標的となる原子核の種類が異なれば、やはり反応断面積は変化します。

このように、原子核と中性子の反応は多様であり、その起こりやすさは様々な要因によって変化します。原子力発電をはじめ、原子力に関する分野においては、これらの反応を理解し、制御することが非常に重要となります。

反応の種類 説明 確率を表す指標
吸収 中性子が原子核に衝突し、吸収される反応 吸収断面積
散乱 中性子が原子核と衝突し、進行方向が変化する反応 散乱断面積
核分裂 中性子が原子核に吸収された結果、原子核が分裂し、エネルギーを放出する反応 核分裂断面積

微視的断面積と巨視的断面積

微視的断面積と巨視的断面積

原子核反応の起こりやすさを表す指標として、断面積という概念を用います。これは、原子核を的に、中性子を矢に見立てて説明されることが多いです。的に当たる確率が高いほど、すなわち断面積が大きいほど、反応が起こりやすいことを意味します。

断面積には、微視的断面積と巨視的断面積の二種類があります。微視的断面積は、1個の原子核と1個の中性子が反応する確率を表すものです。これは、原子核や中性子の種類、エネルギーによって決まる固有の値です。一方、巨視的断面積は、物質中の単位体積あたりで反応が起こる確率を表すものです。原子炉内の中性子の挙動を解析する際には、こちらの巨視的断面積を用いることが多いです。

巨視的断面積は、微視的断面積に物質の原子核密度(単位体積あたりの原子核数)を掛け合わせた値で表されます。これは、原子核が密集しているほど、中性子が原子核に衝突する確率が高くなることを意味します。例えば、水は水素原子と酸素原子からなりますが、水素原子よりも酸素原子の原子核の方が大きいため、酸素原子の方が中性子と衝突する確率が高くなります。このように、巨視的断面積は物質の種類や密度、温度によって変化する値です。

断面積の種類 説明
微視的断面積 1個の原子核と1個の中性子が反応する確率を表す。原子核や中性子の種類、エネルギーに依存する。
巨視的断面積 物質中の単位体積あたりで反応が起こる確率を表す。原子炉内の中性子の挙動解析に用いる。

原子炉設計における重要性

原子炉設計における重要性

原子炉は、ウランなどの核燃料物質が核分裂反応を起こす際に発生する莫大なエネルギーを、安全かつ効率的に取り出すための装置です。この原子炉の設計において、反応断面積は非常に重要な役割を担っています。
反応断面積とは、原子核と中性子が衝突して、核分裂反応などの特定の反応が起こる確率を表す指標です。この値は、中性子のエネルギーや対象となる原子核の種類によって大きく変化します。
原子炉内部では、ウランの核分裂によって中性子が放出され、さらに他のウラン原子核と衝突して連鎖的に核分裂反応が引き起こされます。この反応を制御し、安定したエネルギーを取り出すためには、中性子の数を適切に調節する必要があります。
ここで、反応断面積の考え方が重要になります。中性子の吸収や散乱など、様々な反応の断面積を正確に把握することで、原子炉内の核分裂反応の連鎖反応速度を制御することが可能となります。例えば、制御棒には中性子を吸収しやすい物質が使われていますが、これは中性子の吸収断面積が大きい物質を選定することで、原子炉内の核分裂反応を抑制し、安全性を確保しています。
このように、反応断面積を考慮した設計は、原子炉の安全性や効率性を高める上で不可欠な要素と言えるでしょう。

項目 説明
原子炉の役割 ウランなどの核燃料物質が核分裂反応を起こす際に発生する莫大なエネルギーを、安全かつ効率的に取り出す装置
反応断面積の定義 原子核と中性子が衝突して、核分裂反応などの特定の反応が起こる確率を表す指標
反応断面積の特徴 中性子のエネルギーや対象となる原子核の種類によって大きく変化する
原子炉における反応断面積の重要性
  • 中性子の吸収や散乱など、様々な反応の断面積を正確に把握することで、原子炉内の核分裂反応の連鎖反応速度を制御することが可能
  • 制御棒には中性子を吸収しやすい物質が使われており、これは中性子の吸収断面積が大きい物質を選定することで、原子炉内の核分裂反応を抑制し、安全性を確保