原子力安全

その他

EBRD:旧ソ連諸国の原子力安全を支える

- EBRDとはEBRDは、欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development)の略称です。1991年、冷戦が終結し、ヨーロッパは歴史的な転換期を迎えました。中央及び東ヨーロッパでは共産主義体制が崩壊し、旧ソビエト諸国は市場経済への移行と民主化という大きな課題に直面しました。 このような状況下、これらの国々の経済社会の復興と発展を支援するため、EBRDは設立されました。 EBRDは、当初は活動の中心を中央ヨーロッパ及び東ヨーロッパとしていましたが、その後、活動範囲を拡大し、現在では中央アジア、モンゴル、地中海東岸地域も含めた、ヨーロッパからアジアに広がる38カ国を対象に事業を行っています。 具体的な活動としては、民間セクターの育成、インフラストラクチャー整備、環境問題への対応、エネルギー効率の向上など、幅広い分野において、投融資、保証、政策助言等を行っています。 EBRDは、単に資金を提供するだけでなく、市場経済の原則や持続可能な発展の考え方を共有し、受入国の制度改革や能力構築を支援することにより、長期的な発展に貢献することを目指しています。
原子力の安全

原子炉の安全とコーキング反応

原子力発電所においては、炉心冷却の喪失などにより、燃料が過度に高温となり溶融する炉心溶融事故が想定されています。 この事故は、原子炉の安全性を脅かす重大な事態の一つとして認識されています。 炉心溶融が発生すると、溶融した燃料は原子炉圧力容器を構成する鋼鉄さえも溶かしながら落下し、最終的には原子炉格納容器の底部に到達します。格納容器の底部は、高い強度と耐熱性を有するコンクリートで構築されていますが、溶融した炉心とコンクリートが接触すると、溶融炉心コンクリート相互作用(MCI)と呼ばれる複雑な現象が生じます。 MCIは、溶融した炉心とコンクリートとの間で激しい化学反応や熱伝達を引き起こし、水素ガスが発生する可能性や、格納容器の健全性を損なう可能性も懸念されています。 このため、MCIの進展を抑制し、格納容器の閉じ込め機能を維持することは、炉心溶融事故の被害を最小限に抑える上で極めて重要です。 原子力発電所の安全性確保のため、MCIに関する研究開発が進められており、溶融炉心の冷却やコンクリート組成の改良など、様々な対策が検討されています。
原子力の安全

原子炉の安全を守る指標:DNBR

- DNBRとは原子力発電所では、ウラン燃料の核分裂反応によって莫大な熱が発生します。この熱を効率的に取り除き、蒸気を発生させるために冷却水が用いられます。燃料棒の表面で冷却水が沸騰し、泡が発生する状態を「核沸騰」と呼びますが、熱伝達率が高く、効率的に熱を除去することができます。しかし、熱の発生量に対して冷却水の流量が少ないなど、特定の条件下では、燃料棒の表面に蒸気の膜が発生し、冷却水の熱の吸収を阻害してしまう現象が起こります。これを「沸騰遷移」と呼びます。DNBR(Departure from Nucleate Boiling Ratio最小限界熱流束比)とは、この沸騰遷移が発生する限界点となる熱流束と、実際に燃料棒に印加されている熱流束の比を表す値です。つまり、DNBRは燃料棒の表面がどの程度沸騰遷移に近い状態にあるかを示す安全指標と言えます。DNBRの値が小さいほど、燃料棒の表面は沸騰遷移に近い状態となり、危険性を孕んでいることを意味します。逆に、DNBRの値が大きいほど、燃料棒は安全に冷却されていることを示します。原子力発電所では、安全性を確保するために、常にDNBRがある一定の値以上になるように運転されています。
原子力の安全

原子力発電の安全性:応力腐食割れとは

原子力発電は、ウラン燃料の核分裂反応で生じる熱エネルギーを利用して電気を生み出す発電方法です。火力発電と比べて、二酸化炭素の排出量が少ないという利点があります。一方で、原子力発電所は高温・高圧の環境下で稼働するため、使用する材料には高い信頼性が求められます。特に、原子炉圧力容器や配管などは、放射線を遮蔽し、高温・高圧に長期間耐えうる強度と耐久性が不可欠です。 原子炉圧力容器は、核分裂反応が起こる原子炉の中核部分を包み込む重要な設備です。この容器には、厚さ数十センチメートルにもなる特殊な鋼鉄が使用されています。これは、長期間にわたって中性子線の照射を受け続けることで、鋼鉄の強度が徐々に低下する「脆化」という現象が生じるためです。脆化を防ぐために、圧力容器には、ニッケルやモリブデンなどの添加物を加えた耐熱鋼が使用されています。さらに、定期的な検査や劣化部分の補修を行い、安全性を維持しています。 配管は、原子炉で発生した熱を冷却水によって運ぶ役割を担っています。高温・高圧の冷却水に常にさらされるため、腐食や劣化が起こりやすくなります。これを防ぐために、ステンレス鋼などの耐食性に優れた材料が使用され、定期的な検査や交換が行われています。 このように、原子力発電において材料は重要な役割を担っており、安全性と信頼性の確保には、材料の開発や改良が欠かせません。将来的には、より過酷な環境で使用可能な、さらに高性能な材料の開発が期待されています。
原子力の安全

欧州復興開発銀行:市場経済と民主主義への架け橋

1991年、冷戦が終結し、世界は歴史的な転換期を迎えました。ヨーロッパにおいても、長らく東西に分断されていた時代が終わりを告げ、中央・東ヨーロッパ諸国では共産主義体制が崩壊、新たな時代が幕を開けました。 旧ソ連諸国もまた、共産主義から脱却し、新たな道を歩み始めました。 これらの国々にとって、民主主義や市場経済といった、それまで経験したことのないシステムへの移行は容易ではありませんでした。民主的な社会を築き上げると同時に、市場経済の仕組みを確立し、民間企業が活動しやすい環境を整備することが急務となりました。しかし、長年の共産主義体制の影響から、これらの国々だけで改革を成し遂げることは困難な状況でした。 このような状況下、国際社会は立ち上がり、これらの国々を支援するために設立されたのが欧州復興開発銀行(EBRD)です。EBRDは、単なる資金援助機関ではなく、これらの国々が市場経済への移行をスムーズに行い、持続的な経済成長を遂げられるよう、ノウハウの提供や人材育成といった多岐にわたる支援を行いました。そして、その設立は、新たな時代に向けて歩み始めたこれらの国々にとって、大きな希望の光となりました。
原子力施設

原子力発電の要:原子炉格納容器の役割とは

原子力発電所の中心で熱とエネルギーを生み出す原子炉。その原子炉を包み込むようにしてそびえ立つ巨大な構造物、それが原子炉格納容器です。原子炉格納容器は、原子力発電所の安全性を確保する上で、最後の砦となる重要な役割を担っています。 原子炉格納容器は、万が一、原子炉で事故が発生した場合に備え、放射性物質が外部に漏れ出すのを防ぐための堅牢なバリアとして機能します。厚さ1メートルを超える強靭な鋼鉄製の壁と、その内側に張り巡らされた気密性の高いライニング材によって、放射性物質の拡散を徹底的に抑制します。 原子炉格納容器は、その頑丈な構造に加えて、事故発生時の圧力や温度の上昇にも耐えられるように設計されています。仮に原子炉内で蒸気爆発などが起こったとしても、格納容器は内圧や衝撃に耐え、放射性物質の放出を防ぎます。さらに、格納容器内は常に負圧に保たれており、万が一、微量の放射性物質が漏洩した場合でも、外部への拡散を防ぐ仕組みになっています。 原子炉格納容器は、まさに原子力発電所の安全を守る最後の砦といえるでしょう。
原子力の安全

カナダの原子力安全規制:CNSCの役割

- カナダにおける原子力安全規制の責任機関カナダでは、原子力の安全確保にむけて厳格な規制体制が敷かれています。その中心的な役割を担っているのが、カナダ原子力安全委員会 (CNSC) です。CNSCは、2000年5月31日に施行された新たな法律、新原子力安全管理法 (NSCA) に基づいて設立されました。この法律により、それまで原子力安全規制を担っていた原子力管理委員会 (AECB) の業務がCNSCに引き継がれることとなりました。CNSCは、連邦政府の独立組織 として位置付けられており、特定の省庁や大臣の指揮下に置かれることはありません。 これは、原子力安全に関する意思決定において、透明性と客観性を確保するために重要な要素となっています。CNSCの権限はカナダ全土に及び、原子力発電所はもちろんのこと、ウラン採掘や放射性廃棄物の管理など、原子力に関連するあらゆる活動がその対象となります。CNSCの主な任務は、国民の健康と安全、環境、そして国家の安全保障を守る観点から、原子力エネルギーの平和的な利用を規制することです。具体的には、原子力施設の建設や運転の認可、放射性物質の安全な使用と輸送の監督、原子力関連の研究開発活動に対する規制など、多岐にわたる業務を行っています。
原子力の安全

ALPHA実験:シビアアクシデント時の原子炉安全性を検証する

原子力発電所は、ウラン燃料の核分裂反応で発生する莫大な熱エネルギーを利用して電気を作る施設です。この施設では、安全対策として何重もの防護壁を設け、燃料の取り扱いや運転操作にも厳重な管理体制を敷いています。 しかしながら、万が一、これらの安全対策をもってしても想定を超えるような事態が重なった場合、燃料が溶け出すような深刻な事故、すなわち「シビアアクシデント」に至る可能性は否定できません。 シビアアクシデントは、発生する可能性が極めて低いとはいえ、ひとたび発生すれば、周辺環境や住民の方々の生活に重大な影響をもたらす可能性があります。 そのため、我が国では、シビアアクシデントの発生防止はもちろんのこと、万が一、発生した場合でもその影響を最小限に抑えるための対策を講じています。具体的には、原子炉を頑丈な格納容器で覆って放射性物質の外部への放出を防ぐ対策や、事故発生時に原子炉を冷却するための注水設備の設置、さらに、住民の方々への避難計画の策定など、多岐にわたる対策を講じています。 ALPHA実験は、このようなシビアアクシデント時に原子炉がどのように振る舞い、環境にどのような影響が生じるのかを詳細に調べることで、より効果的な対策を検討することを目的とした重要な実験です。
原子力の安全

原子力規制委員会:安全確保の要

2011年3月11日、東日本を襲った巨大地震とそれに伴う津波は、福島第一原子力発電所に想像を超える被害をもたらしました。この未曾有の事故は、原子力発電が持つ危険性を改めて認識させると共に、安全対策の重要性を私たちに深く刻み込みました。 この事故を教訓として、国は原子力の安全規制体制を根本から見直す決断をしました。その結果、従来の組織から独立し、より強い権限と高い専門性を持った原子力規制委員会が誕生したのです。 原子力規制委員会は、事故の徹底的な調査を行い、その原因を分析しました。そして、二度と同じ過ちを繰り返さないために、新規制基準を策定しました。この基準は、地震や津波に対する備えはもちろんのこと、テロ対策や過酷事故対策など、あらゆる事態を想定した、世界最高水準の厳しさを誇っています。 福島第一原子力発電所の事故は、私たちに計り知れない悲しみと苦しみを与えました。しかし、この事故の教訓を決して風化させることなく、より安全な原子力発電の利用に向けて、たゆまぬ努力を続けていくことが、未来への責任です。
原子力の安全

原子力安全の国際協調:ACE計画

- ACE計画とはACE計画は、「改良型格納容器実験」を意味するAdvanced Containment Experimentsの略称です。この計画は、原子力発電所において、炉心損傷など、深刻な事態に発展する事故(シビアアクシデント)を想定し、その影響や対策を国際協力によって研究するために立ち上げられました。1992年から2006年まで、アメリカの電力研究機関である電力研究所(EPRI)が中心となり、日本を含む世界17カ国、22の機関が参加して研究が進められました。ACE計画では、シビアアクシデント時に原子炉格納容器内で発生する現象を詳細に解析し、その圧力や温度の上昇、水素ガスの発生などを抑制するための対策を検討しました。具体的には、格納容器の強度を高める設計や、水素ガスを燃焼・処理する装置の開発、事故時の運転手順の改善などが研究されました。この計画によって得られた研究成果は、新型原子炉の設計や、既存の原子炉の安全性の向上に役立てられています。具体的には、シビアアクシデント時の格納容器の挙動に関する理解が深まり、より安全な原子炉の設計が可能になりました。また、事故管理手順の改善にも貢献し、事故発生時の影響緩和に役立つと考えられています。ACE計画は、国際協力によって原子力発電の安全性を向上させるための重要な取り組みであり、その成果は世界中で共有され、活用されています。
原子力の安全

世界が手を組む核燃料の安全: 世界核燃料安全ネットワークとは

1999年9月30日、茨城県東海村にあるJCOウラン加工工場で、核燃料物質を加工中に、核分裂の連鎖反応が制御不能となる臨界事故が発生しました。この事故は、作業員の方々が被ばくするなど、核燃料サイクル施設における深刻な事故として、国際社会に大きな衝撃を与えました。 この事故を教訓に、世界中の原子力関係者は、二度とこのような事故を起こしてはならないという強い決意を新たにしました。そして、事故の原因を徹底的に究明し、その結果を共有するとともに、事業者間で安全に関する情報交換を積極的に行い、互いに学び合い、安全文化を共有し、高めていくことの重要性を再認識しました。この認識に基づき、世界中の核燃料産業に関わる事業者が、自らの経験や教訓を共有し、安全性の向上に向けて共に努力していくための枠組みとして、世界核燃料安全ネットワークが設立されることになりました。
原子力の安全

原子力発電における生体遮蔽:人体を守る重要な守り

原子力発電は、ウランという物質の核分裂という現象を利用して、莫大なエネルギーを生み出す技術です。しかし、この核分裂の過程で、人体に有害な放射線が放出されます。 放射線は、目に見えず、臭いも味もしないため、私たちの五感で感じることはできませんが、細胞を傷つけ、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。 そのため、原子力発電所では、放射線の人体への影響を可能な限り小さくするために、様々な対策を講じています。 これらの対策の中でも、特に重要な役割を担うのが、「生体遮蔽」と呼ばれるものです。 生体遮蔽とは、放射線の透過を弱める性質を持つ物質、例えば、コンクリートや水、鉛などを用いて、放射線から人体を守る壁のようなものを作ることを指します。 原子力発電所では、原子炉や放射性物質を扱う施設などを、分厚いコンクリートや鉄板などで覆うことで、作業員や周辺住民への放射線の影響を抑えています。 生体遮蔽に用いられる物質の種類や厚さは、遮蔽する放射線の種類やエネルギー、そして、どの程度の放射線量まで抑えたいかによって異なります。 原子力発電所では、これらの要素を考慮した上で、最適な生体遮蔽を設計し、安全性の確保に努めています。
原子力の安全

原子力発電の安全性:イベントツリー分析

- イベントツリーとは原子力発電所のように、多数の機器や複雑なシステムが絡み合い、高い安全性が求められる施設では、潜在的なリスクを特定し、その影響を評価することが非常に重要です。イベントツリーは、このリスク評価を行うための有効な手法の一つであり、事故に至る可能性のある一連の事象を視覚的に表現することで、事故発生の可能性とその規模を分析します。具体的には、まず分析の起点となる特定の事象を定義します。これは例えば、機器の故障や運転員の誤操作など、安全に影響を与える可能性のある事象です。この初期事象をツリーの根元とし、そこから様々な可能性を枝分かれさせていきます。各分岐点は、システムや運転員の対応、機器の動作などの成功・失敗を表し、それぞれの分岐に応じて最終的な結果が変わってきます。例えば、ある機器の故障を初期事象とした場合、その後の安全システムの作動、運転員の対応操作、予備系の機器の起動などが正常に行われれば事故は未然に防ぐことができ、最終的な結果としては「安全な状態」となります。しかし、もしも安全システムが正常に作動しなかったり、運転員の対応に遅れが生じたり、予備系の機器にも故障が発生したりすると、事態は悪化し、最終的には「事故」という結果に至る可能性があります。イベントツリーを用いることで、事故に至る可能性のある様々なシナリオを網羅的に洗い出し、それぞれのシナリオの発生確率を評価することで、全体としてのリスクを定量化することができます。これにより、どの事象が事故発生に大きく影響するのか、どの部分の対策を強化すればより効果的にリスクを低減できるのかを明確にすることができます。このように、イベントツリーは原子力発電所の安全性を評価し、向上させるための強力なツールです。
原子力の安全

原子炉の安全装置:制御棒駆動機構

原子力発電所では、発電量を需要に応じて調整する必要があります。この調整は、火力発電のように燃料の量を調節するのではなく、原子炉内で起こる核分裂反応の速度を制御することによって行われます。 原子炉の出力調整において中心的な役割を担うのが制御棒です。制御棒は、中性子を吸収しやすい物質で作られており、原子炉の炉心に挿入したり引き抜いたりすることで、核分裂反応の速度を制御します。 炉心内に制御棒を挿入すると、中性子が吸収され、核分裂反応が抑制されます。その結果、発生する熱エネルギーが減少し、原子炉の出力が低下します。逆に、制御棒を炉心から引き抜くと、中性子を吸収する量が減り、核分裂反応が促進されます。これにより、発生する熱エネルギーが増加し、原子炉の出力が上昇します。 このように、制御棒を炉心内の適切な位置に移動させることによって、原子炉の出力を需要に応じて調整し、安定した電力供給を実現しています。
原子力の安全

原子炉の安全: 臨界超過とは

原子力発電は、ウランなどの核分裂しやすい物質が中性子という粒子を吸収することで分裂し、莫大なエネルギーを放出する現象を利用しています。この核分裂の際に、分裂した原子核から新たな中性子が飛び出してきます。 もし、周囲に十分な量の核分裂しやすい物質が存在する場合、新たに放出された中性子は別の原子核に衝突し、さらに核分裂を引き起こします。このようにして、次々と核分裂が連鎖的に起こる現象を「臨界超過」と呼びます。 原子炉は、この臨界超過の状態を精密に制御することで、安定してエネルギーを生み出しています。具体的には、中性子を吸収する制御棒を炉心に挿入したり引き抜いたりすることで、核分裂の連鎖反応の速度を調整しています。 もし、制御がうまくいかずに臨界超過が過度に進んでしまうと、短時間に大量のエネルギーが放出され、炉心の温度が急上昇し、炉心溶融などの深刻な事故につながる可能性があります。そのため、原子力発電所では、多重の安全装置や厳格な運転管理によって、臨界超過を常に制御し、安全性を確保することが極めて重要となります。
原子力の安全

原子力発電の要: 臨界質量とは

原子力発電は、物質の根源的な性質を利用して膨大なエネルギーを生み出す技術です。その中心となるのが核分裂反応と呼ばれる現象です。ウランやプルトニウムといった、原子核が分裂しやすい性質を持つ物質に中性子と呼ばれる粒子が衝突すると、原子核は不安定な状態になり、二つ以上の原子核に分裂します。これが核分裂です。 核分裂の際に特筆すべきは、単に原子核が分裂するだけでなく、新たな中性子が複数放出される点です。この放出された中性子が、周囲の他の原子核に衝突すると、さらに核分裂が引き起こされます。これが繰り返されることで、莫大な数の原子核が連鎖的に分裂し、膨大なエネルギーが放出されるのです。この現象こそが、核分裂連鎖反応です。 臨界質量とは、この核分裂連鎖反応を持続的に起こすために必要な、核分裂性物質の最小量を指します。核分裂性物質の量が臨界質量に達しない場合、放出された中性子は系外に逃げてしまい、連鎖反応は持続しません。しかし、核分裂性物質の量が臨界質量以上になると、放出された中性子は高確率で他の原子核と衝突し、連鎖反応が持続するようになります。原子力発電所では、この臨界質量を厳密に制御することで、安全かつ安定的にエネルギーを生み出しているのです。
原子力の安全

原子力発電の安全性:臨界事故とその防止

- 臨界事故とは原子力発電所では、ウランなどの原子核が分裂する際に生じるエネルギーを利用して電気を作っています。ウラン原子核は、中性子という小さな粒子が衝突すると、分裂して莫大なエネルギーと新たな中性子を放出します。この時、放出された中性子がさらに他のウラン原子核に衝突して核分裂を引き起こし、連鎖的に反応が進むことで、より大きなエネルギーを生み出すことができます。この現象を-核分裂の連鎖反応-と呼びます。原子力発電所では、この連鎖反応を安全に制御しながら、熱エネルギーを取り出して電気を作っています。しかし、何らかの原因で連鎖反応が制御不能になると、短時間に大量の中性子とエネルギーが放出されてしまうことがあります。これが-臨界事故-です。臨界事故が発生すると、大量の放射線や熱が発生し、作業員や周辺環境に深刻な被害をもたらす可能性があります。そのため、原子力発電所では、ウラン燃料の濃度や配置、制御棒の使用など、様々な対策を講じることで臨界事故の発生を厳重に防いでいます。原子力発電の安全性を確保するためには、臨界事故のメカニズムと防止策について深く理解することが不可欠です。
原子力の安全

原子力発電の安全性を高める国際協力:西欧原子力規制者会議

- 西欧原子力規制者会議とは西欧原子力規制者会議(WENRA)は、原子力発電所を保有するヨーロッパ諸国における規制機関が連携を強化するための国際機関です。1999年に設立され、ヨーロッパ連合(EU)加盟国とスイスが参加しています。原子力発電所を安全に運用するためには、国境を越えた協力体制が欠かせません。原子力事故の影響は一国のみに留まらず、広範囲に及ぶ可能性があるからです。WENRAは、加盟国の規制機関が協力し、原子力発電の安全性に関する共通のルールや基準の策定を推進しています。具体的には、WENRAは原子力施設の設計や運転、放射性廃棄物の管理、原子力事故への備えなど、幅広い分野において安全性に関するガイドラインや基準を策定しています。これらの基準は、国際原子力機関(IAEA)などの国際的な基準を踏まえつつ、ヨーロッパの地理的特性や技術水準を考慮して作成されています。WENRAは、加盟国間で情報や経験を共有するためのプラットフォームとしての役割も担っています。原子力安全に関する最新技術や規制の動向、事故やトラブルの教訓などを共有することで、加盟国全体で安全性の向上を目指しています。WENRAの活動は、ヨーロッパにおける原子力発電の安全性を向上させる上で重要な役割を担っています。国際的な協力体制の強化がますます重要となる中、WENRAは今後もその役割を積極的に果たしていくことが期待されています。
原子力の安全

スリーマイル島原発事故:教訓と未来への影響

- 事故の概要1979年3月28日、アメリカ合衆国ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所2号炉において、原子炉の炉心溶融を伴う重大事故が発生しました。これは、アメリカ合衆国における商業炉の歴史上、最も深刻な事故として記録されています。事故の発端は、原子炉の冷却系統で発生した小さな故障でした。この故障自体は、原子力発電所の運転において、比較的よくあるものでした。しかし、この故障に適切に対処することができず、運転員の誤った判断と操作が重なった結果、事態は急速に悪化しました。原子炉への冷却水の供給が滞ったことで、炉心内の温度と圧力が急上昇し、最終的に炉心の一部が溶融してしまいました。溶融した燃料は、原子炉圧力容器の底に溜まり、大量の放射性物質が原子炉格納容器内に放出されました。幸いなことに、原子炉格納容器は、放射性物質の放出を食い止めるという、その役割を十分に果たしました。その結果、環境への放射性物質の放出量はごくわずかに抑えられ、周辺住民への健康被害もほとんどありませんでした。しかし、この事故は、原子力発電が内包する潜在的な危険性を改めて世界に知らしめることとなり、その後の原子力発電所の設計、運転、規制に大きな影響を与えることになりました。
原子力の安全

原子力発電と安全文化:安全を最優先に

- 安全文化とは安全文化は、原子力発電所のように安全が何よりも優先されるべき場所はもちろんのこと、あらゆる産業において、安全を確保するために欠かせない要素です。これは、組織全体に深く浸透した、安全を重視する考え方や行動規範、習慣といったものを指します。 安全文化がしっかりと確立された組織では、従業員一人ひとりが安全に対する責任感を持ち、積極的に潜在的な危険の芽を摘み取り、事故を未然に防ぐための行動をとるようになります。 原子力発電所における安全文化の具体的な例としては、以下の様なものがあげられます。 * どんな小さなことでも、安全に関する懸念があれば、誰でも遠慮なく報告できる雰囲気作り。 * 安全に関する教育や訓練を定期的に実施し、従業員の意識向上を図ること。 * ヒューマンエラーを誘発しやすい作業環境や手順を改善し、人間工学に基づいた設計や運用を行うこと。 * 過去の事故やトラブルから教訓を学び、組織全体で共有し、再発防止策を徹底すること。 安全文化は、一朝一夕に築けるものではありません。経営層から現場の作業員まで、組織全体で共通の認識を持ち、継続的に改善を積み重ねていくことが重要です。
原子力の安全

原子力安全の要、NSネットとは?

1999年9月、茨城県東海村にあるJCOウラン加工工場で、作業員による操作ミスが原因で臨界事故が発生しました。この事故は、日本の原子力史上最悪の事故として、社会に大きな衝撃と不安を与えました。この痛ましい事故を教訓として、原子力業界全体で安全意識をより一層高め、二度とこのような事故を起こしてはならないという強い決意のもと、2000年4月にNSネット(ニュークリアセイフティネットワーク)が設立されました。 NSネットは、原子力発電所の運転事業者だけでなく、原子炉や関連機器のメーカー、発電所の建設会社、電力会社、研究機関など、原子力に関わるあらゆる企業・団体が自主的に参加する情報交換ネットワークです。 このネットワークでは、国内外の原子力施設で発生した事故やトラブルの情報、運転や保守に関する技術情報、安全文化の向上に向けた取り組みなどが共有され、参加者全体で安全性の向上に取り組んでいます。NSネットは、いわば「日本版WANO(世界原子力発電事業者協会)」を目指して設立されました。WANOは、世界中の原子力発電事業者が、安全性の向上と信頼性の確保を目的として、情報交換や相互評価などを行う国際機関です。NSネットも、WANOの活動を手本とし、日本の原子力産業全体で安全性を追求していくことを目指しています。